場面 深い森の光の実 魔法の笛
わしも、今日は気分がよい。長年すんだこの森、代々護った光るどんぐりがなる木の
後継者が出来たからな。わしの孫で魔法の笛を会得した子じゃ。この笛は、
このどんぐりの木からしかできん。あやつは、作るのは半人前じゃが、若さでこなすじゃろうて・・・・
「おじいちゃん、遅れてごめん!!」
来たようじゃの、傘と自転車を用意しなくてはのう。まずは、自分の友達を作るのじゃ。
こやつらに、笛の力で息を吹き込む。これが最終章じゃ。わしにとってものう。
「なにこれ、壊れた傘と、さびた自転車。どうするの」
「お前に教えた小鳥の声があったろう、そう春告げ鳥の音じゃ。あれは、息吹の音といっての、
無機質なものに、命を吹き込むことが出来るのじゃ。やってみい」
その子は、髪を短くして、男の子のような口調ではあるが、そのノーブルなしぐさは、紛れもない女の子であった。
少女は笛を構えると小鳥が春の野原で、天高く遊んでいる様な音を奏で始めた。
やがて、無機質なものたちのまわりを、暖かな春の光が包み、鼓動が聞こえ始めた。どくん どくん・・・・
くるるんと舞い上がったものがあった。やがてそれは、ボーイソプラノでしゃべり始めた。
「オイラを晴れた日に使って、おまけに忘れちまうとはどういうこったい」と傘が憤慨している。
すこし遅れて「怒るなよぅ。お前だってクルクルされてまんざらでもなかったじゃないか」
自転車が言う。
「だからって兄貴、オイラをだしにして、空へ飛ぶ練習なんかされて・・・兄貴だってボロボロじゃないですか」
「まあまあこうやって、もう一度命を宿してもらったんだから、」
話を聞いていた老人が、咳払いしながら
「これ、すてんれす族達や、お前達の新しいご主人に挨拶せんか」と言うと
かさはとじたり開いたりしてどぎまぎし、自転車は前輪を左右に動かしてキョロキョロした。
「前の主人とは違う、優しい方だ、オイラにはわかるぞ」
「あの、旧タイプでして、乗り心地はよくないかと」
少女は「気にしてないよ。よろしくね。早速今日は空へ行ってもらうよ。いいかな」
「願ってもないんですが、どうしてですか」と自転車が不安そうに聞く。
「西の空から暗雲と雷鳴が迫ってる。魔界との接点がずれてしまったんだ。
キミ達は、虹色の瞳をもつ猫たちと会い、共に協力して魔界を封じてほしいんだ」
老人が続けた。
「わしとこの子が、今、光の道を作る。そしてお前達を地上から、魔法の笛の音で援護する」
老人はそういうと、アルトフルートのような長い笛を構えた。
風が巻き起こるような音を奏でると、光るどんぐりの木が輝きだした。
そして光の渦が巻き起こり始めると、それはうねりながら天空へ伸び、虹色の光の道を
作り始めたのであった。
「さあ、おじいちゃんが作ったこの光の道を登るんだ、そして猫たちに会っておくれ」
少女もそういうと、老人の演奏に沿い、また小鳥のような音で2重奏をはじめた。
その音が自転車と傘をふわっと舞い上がらせ、虹の光の道上に導いた。
すてんれす族たちは、使命を果たす為に光の道を昇りはじめた。