死後に於ける霊魂の存続、並に顕幽両界の交通― それがただ一片の理論であったのでは、一向面白くも可笑しくもない話で、大の男がこれに向かって、精魂を打ち込むだけの価値は殆んどないでしょう。で、私としては、一時も早くこの実際的方面の仕事を開拓したいと、年来熱誠をこめて来た訳ですが、それは漸く近頃に至って、平たくいうと、新樹の帰幽によって、いささか解決の曙光が見え出しました。丁度盲目の親が、子供に手を引かれて、とぼとぼと険路を辿るといった姿であります。
 新樹の帰幽が手がかりとなって、先ず動き出したのは彼の母の守護霊であり、次に出動したのは彼白身の守護霊でありました。お蔭で私の為には、そろそろ彼岸との交通機関が整いかけ、どうやら暗中模索の状態から脱することができました。時をおかずに、私は早速日本の霊魂界に向かって探求調査の歩をすすめました。古い所では、千年二千年前に帰幽した歴史上の人物との交通、新しい所では、10年20年前に現界を見棄てた近代人の霊魂との連絡、要するに殆んど八つ当たり式に、霊界の門戸を敲き始めたのであります。無論私でさえも、かくして獲たる通信全部が、全部信頼すべきものであるとは考えておりませんから、単に間接に、文書によって、これに接するだけの機会しか与えられていない一般世間の方々は、恐らく半信半疑の域を脱することが容易にできますまい。殊に近頃日本の出版界では、霊界通信などと銘打てる、眉唾式の偽作が続出しつつある有様ですから……。
 が、徒らに尻込みばかりしていたのでは、こうした新事業の開拓に、目鼻がつく見込みは到底ありませんから、私としてはいかなる疑惑、いかなる嘲笑をも甘受する覚悟で、片端から之を発表していこうかと考えています。現在の私は、幽界に於けるわが愛児の、精一杯の努力が、どこまで心霊研究に貢献しうるかを、ひたすら考えるだけで、その他に思いを及ぼす余裕などはないのであります。
 取りあえず私がここに紹介したいと思うのは、新樹を介して、乃木大将と会見を試みた状況であります。