天狗界の山人達は神社に祈る人の願いを叶えるために日々奔走しているといいます。また罪をなしたものを火の災いで罰する役目でもあります。色々と忙しく人間と関わる仕事をしています。常に苦行をするのも、神通力を高めて業務をこなせるようにするためです。

 

 

 四国の南溟に方りて妹背二別島といふあり。此島は余程大なる島にて、四面浪荒く船の容易に至り難き所なり。船にて行く時は雲の如くに此高を見る迄は行かるるなり。去る明治元年一月九日なりき。杉山僧正の「我とは親しくする故に妹背二別之島にて今夜山人等の会議あり。足下一人伴ひ行きて其有状を見せ申さん」とて九日の日暮に伴はれて行きし事あり。此時種々の山人を見たり。出席の山人には日光山の大冠貴僧正、杉山石麿清定君、大山常照清定君、高千穂岳の火雷僧正、彦山の退勝坊、剣山金角僧正、朝鮮国の李意仙門、同国の易光仙門、来良仙門、琉球の天風胤子、地虬胤子、蝦夷国のヤマトヲホヂミコ、エボツ彦ミコ、など云ふを始めて此外僧正の位置なる山人二百余人集会したる中に天風胤子、ヤマトヲホヂミコの二人は当夜の会議長と見えたり。此二人のことを杉山僧正に問へば天風胤子は「アマミキユ、シネリキユ」といふ神の眷属にて綏靖天皇十二年に入りし人なり。ヤマトヲホヂミコは孝霊天皇二年に入りし人と聞けり。

「アマミキユ、シネリキユ」とは琉球神道の神様ですね。

 

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 天狗の日本国に其名高きは天南坊は○○○○、大郎坊○○○○○、歓喜坊○○○○、普賢坊宇治左大臣、三密坊獻山法務大僧正、火乱坊は三井寺頼豪法印、光林坊鎮西八郎為朝、東金坊は六条判官為義、是を八天狗といふ。又東金増源義経、元参坊悪源太義平、延山坊平将門、密角坊は能登守教経、青胆坊平知盛、歓天坊新田義興、寒栄坊柿本人麿、転州坊篠塚伊賀守、是を九岳後天狗といふ。又愛宕山には太良王子栄術天狗、江州平野山には二良王子栄飛天狗、信州戸隠山には三良王子智羅天狗、駿河国富士山には四良王子尊足天狗、加賀国白山には五良王子通達天狗、熊野山には六良王子智吉天狗、出羽国羽黒山には七良王子命師天狗、伯耆国大峯山には八良王子仁命天狗、信州秋葉山には九良王子飛頂天狗、甲斐国金峯山には十良王子道仙天狗、同国天目山には千眼大莽足天狗、是を十一天狗といふ。是に象頭山金毘羅釈女及び善月光華大天狗を添へて十三天狗といふ。此中に釈女を以て主領とす。釈女は十二天狗の形を一人して現ずるの徳あり。

 また奥羽にては東郎天狗、東烈天狗、安倍貞任、同宗任なり。九州にては西釈天狗筑紫五郎、阿波国にては南波天狗、玉良天狗、忌部義清、同時成、出雲国にては北角天狗、伊予国にては大羅天狗、飛郎天狗、此三の天狗は其名しらず。又三火坊、城石坊、西岳坊、九穿天狗、龍豪天狗、五精天狗、東元天狗、義泉天狗、参平天狗、霄令天狗、臨明天狗など云ふは右の十二天狗の中の異名なり。又常陸国にては十三天狗過半は僧侶の化せるなり。杉山僧正、立山僧正、長楽寺慧慶などは此中にあり。常には岩間山と云ふに住めり。同国加波山には五十六天狗あり。其中には将軍太郎良門、稲葉五郎実時、樋口次郎兼光など其中にはり。又山城国鞍馬にては右の八天狗並に十八天狗あり。此中には大山僧正弓削盛久、藤井大僧善長、剛清坊源頼朝などあり。下野日光山は十六万の天狗住めり。此界の天狗は如何なる故にや鰹節、田螺、海鼠を好む事あり。