僕は守護霊さんと向き合って座りましたが、さて何を話してよいやら、なにしろ先方は昔の人で、僕はきまり悪くなってしまったのです。でも仕方がないから僕の方から切り出しました。 
 「時々霊視法やその他いろいろのことを教えていただいて、誠に有難う存じました………。」
 守護霊さんは案外さばけた方で、これをきっかけに僕たちの間に大へん親しい対話が交換されました。もっとも対話といっても、幽界では心に思うことがすぐにお互いに通ずるのですから、その速力は非常に速いのです。討話の内容は大体次のようなものです。――

 守護霊「いつもあなたのことは、別に名前を呼ばなくても、心に思えばすぐに逢えるので、一度もまだ名前を呼んだことがなかったのですが、今日は、はっきりきかせてください。何というお名前です?」
 僕「僕は新樹というものです。」
 守護霊「そうですか、シンジュというのですか。大変にあっさりした良い名前です………。私とあなたとは随分時代が違いますから、私の申すことがよくあなたに判るかどうかしれませんが、まあ一度私の話を聞いてみてください………。あなたはそんな立派な男子になったばかりで若くて亡くなってしまわれて大へんにお気の毒です。あなたのお母さまも、しょっちゅうあなたのことを想ひ出して嘆いてばかりおられます・・・・・・。しかし、これも定まった命数で何とも致し方がありません。近頃はあなたのお母さんも、またあなたも、大分あきらめがついたようで何より結構だと思っています・・・・・・。」
 僕「有難うございます。今後は一層気をつけて愚痴っぽくならないようにしましょう。ついては一つ守護霊さんの経歴をきかせていただけませんか・・・・・・。」
 守護霊「私の経歴なんか、古くもあり、また別に変わった話もないからそんな話は止めましょう。それより、あなたの現在の境涯をきかせてください・・・・・・・。」

 守護霊さんは、ご自分の身上話をするのが厭だとみえまして、僕がいくら訊こうとしてもどうしても話してくれません。仕方がないから、僕は自分が死んでからの大体の状況を話してやりました。そうすると守護霊さんは大へん僕に同情してくれて、幽界における心得といったようなものを聞かせてくれました。――

 守護霊「私の亡くなった時にも、いろいろ現世のことを思い出して、とてもたまらなく感じたものです。でも、死んでしまったのだから仕方がないと思って、一生懸命に神さまにお願いして、それで気が晴れ晴れとなったものです。そんなことを幾度も幾度も繰り返し、だんだん月日が経つうちに現在のような落ち着いた境遇にたどり着きました。あなたもやはりそうでしょう。やはり私のように神さんにお願いして、早く現世の執着を離れて向上しなければいけません・・・・・。」

 僕は守護霊さんの忠告を大へん有難いと思って聞きました。それから守護霊さんは僕がどうして死んだのか、根掘り葉掘り、しつこく訊ねられました。――

 守護霊「そんな若い身で、どうしてこちらへ引取られたのです。くわしく話してください……。」
 僕「僕、ちょっとした病気だったのですが、いつのまにか意識を失って死んだことを知らずにいたのです。そのうち叔父さんだの、お父さんだのから聞かされて、初めて死を自覚したので………。」

 僕は厭だったからわざと詳しい話はせずにきました。それでも守護霊さんはなかなか質問を止めません。――

 守護霊「それでは、あなたは死ぬつもりはなかったのですね?」
 僕「僕、ちっとも死ぬつもりなんかありません。こんな病気なんか、なんでもないと思っていたんです。それがこんなことになってしまったのです………。」
 守護霊「お薬などは飲まなかったのですか?」
 僕「薬ですか、少しは薬も飲みました………。しかし僕、そんな話はしたくありません。僕の執着がきれいに除かれるまで病気の話なんかお聞きにならないでください……。」

 この対話の間にも守護霊さんは気の毒がって、さんざん僕のために泣いてくれました。やはり優しい、良いお方です。お母さんの守護霊さんですから、僕のためにやはりしんみになってお世話をしてくださいます。「なんでもわからないことがあったらこちらに相談してください。私の力の及ぶ限りはどうにもして、お力添えをしてあげます………。」親切にそう言ってくださいました。

 

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