この種の問答はまだ数多くありますが、いたずらに重複することを避け、ただ比較的まとまりのよい、第46回目(昭和4年12月29日午後)の問答ですべてを代表させることにいたします。
 この日は昭和4年度の最終の招霊になると思いましたので、多少の操返しを厭わず、お浚いのようなものにしたのでした。――

 問「多少前にも尋ねたことがあるのが混じるだろうが、念のためにもう一度質問に答えてもらいたい。――お前が叔父さんに呼ばれて初めて死を自覚した時には自分の体のことを考えてみたか?」
 答「そうですね・・・・・。あの時、僕は真っ先に自分の体はと思ったようです。するとその瞬間に体ができたように感じました。触ってみてもやはり生前そっくりの体で、特にその感じが生前と違うようなことはありませんでした。要するに、自分の体だと思えばいつでも体ができます。若い時の姿になろうと思えば、自由にその姿にもなれます。しかし僕にはどうしても老人の姿にはなれません。自分が死んだ時の姿までにしかなれないのです。」
 問「その姿はいつまでも持続しているものかな?」
 答「自分が持続させようと考えている間は持続します。要するに持続するかしないかはこちらの意思次第のようです。また、僕が絵を描こうとしたり、水泳でもしようとしたりすると、その瞬間に体ができ上がります。つまり外部に向かって働きかけるような時には体ができるもののように思われます。――現に、いま僕がこうしてお父さんと通信している時には、ちゃんと姿ができています・・・・・・。」
 問「最初はお前が裸体の姿の時もあったようだが・・・・・・。」
 答「ありました。ごく最初に気がついた時には裸体のように感じました。これは裸体だな、と思っていると、そのつぎの瞬間にはもう白衣を着ていました。僕は白衣なんかいやですから、その後は一度も着ません。くつろいだ時には普通の和服、訪問でもする時には洋服――これが僕の近頃の服装です。」
 問「お前の住んでいる家は?」
 答「なんでも最初、衣服の次ぎに僕が考えたのは家のことでしたよ。元来僕は洋館の方が好きですから、こちらでも洋館であってくれればいいと思いました。するとその瞬間に自分白身のいる部屋が洋風のものであることに気づきました。今でも家のことを思えば、いつも同じ洋風の建物が現われます。僕は建築にはあまり趣味はもっていませんから。もちろん立派な洋館ではありません。ちょうど僕の趣味生活にふさわしい、バラック建ての、極めてあっさりしたものです。」
 問「どんな内容か、もう少し詳しく説明してくれないか?」
 答「東京あたりの郊外などによく見受けるような平屋建てで、部屋は三室ほどに仕切ってあります。書斎を一番大きくとり、僕はいつもそこにいます。他の部屋はあってもなくてもかまわない。ほんのつけたしです。」
 問「家具類は?」
 答「ストーブも、ベッドも、また台所用具のようなものも一つもありません。人間の住宅と違って至極あっさりしたものです。僕の書斎には、自分の使用するテーブルと椅子が一脚ずつ置かれているだけです。書棚ですか……そんなものはありませんよ。こんな書物を読みたいと思えば、その書物はいつでもちゃんと備わります。絵の道具なども平生から準備しておくというようなことは全然ありません。」
 問「お前の描いた絵などは?」
 答「僕がこちらへ来て描いた絵の中で、傑作と思った一枚だけが保存され、現に僕の部屋に懸けてあります。装飾品はただそれきりです。花なども、花が欲しいと思うと、花瓶まで添えて、いつのまにか備わります。」
 問「いまこうして通信している時に、お前はどんな衣服を着て居るのか?」
 答「黒っぽい和服を着ています。袴ははいていません。まず気楽に椅子に腰をかけて、お父さんと談話を交えている気持ですね………。」
 問「庭園などもついているのかい?」
 答「ついていますよ。庭は割合に広々ととり、一面の芝生にしてあります。これでも自分のものだと思いますから、敷地の境界を生垣にしてあります。だいたい僕ははでなことが嫌いですから、家屋の外回りなどもねずみ色がかった、地味な色で塗ってあります。」
 問「いや今日は、話が大へん要領を得ているので、お前の生活状態が髣髴としてわかったように思う。――しかし、私との通信を中止すると、お前はいったいどうなるのか?」
 答「通信がすんでしまえば、僕の姿も、家も、庭も、何もかも一時に消えてしまって、いつものふわふわした塊り一つになります。その時は自分が今どこにいるというような観念も消えてしまいます。」
 問「自我意識はどうなるか?」
 答「意識がはっきりしている時もあれば、また眠ったような時もあり、だいたい生前と同じです。しかし、これはおそらく現在の僕の修行が足りないからで、だんだんと覚めて活動している時ばかりになるでしょう。現に、近頃の僕は、最初とは違って、それほど眠ったような時はありません。そのことは自分でもよくわかります。」
 問「お前の家にはまだ一人も来訪者はないのか?」
 答「一人もありませんね・・・・・。幽界へ来ている僕の知人の中にはまだ自覚している者がいないのかもしれませんね………。」
 問「そんなことでは寂しくてしようがあるまい。そのうちひとつ、お前のお母さんの守護霊にでも頼んで訪問してもらおうかな・・・・・・。」
 答「お父さん、そんなことができますか………。」
 問「それはきっとできる………できなければならないはずだ。お前たちの世界は、大体において想念の世界だ。ポカンとしていれば何もできないだろうが、誠心誠意で思念すれば、きっと何でもできるに違いない・・・・・。」
 答「そうでしょうかね。とにかくお父さん、これは宿題にしておいてください。僕はやってみたい気がします・・・・・。」

 この日も彼の母の霊眼には彼の幽界における住宅がまざまざと映りましたが、それは彼の言っているとおり、とてもあっさりした、郊外の文化住宅らしいものだったとのことでした。その見取り図もできていますが、わざわざお見せするほどのものではありませんから、ここでは省略いたします。