第七章
王の生き方

王の創造と神聖性
私は以下において王の生き方(ラージャ・ダルマ)と、王はいかに振舞い、彼の由来ほどのようであり、どのように最高の成就があるかについて述べるであろう。規則に従ってヴェーダによる清めを受けたクシャトリヤによって、万物の守護が規定に従ってなされるべし。なぜならば、この世界が王を欠いて、いたるところで恐怖のために混乱に陥ったとき、王はこのいっさいの守護のために王を創造したからである。〔主は〕 インドラ、風神、ヤマ、太陽神、火神、ヴアルナ、月神、富の主から永遠の要素を取り出して〔創造した〕。王はそれらの神々の中の王たちの要素から造られたことによって、生類のいっさいを威力によって圧倒する。彼は太陽のように〔人々の〕目と心を燃やすので、地上の誰も彼を凝視することは出来ない。彼は〔その〕権力のゆえに火神であり、風神である。彼は太陽神であり月神である。彼は正義(ダルマ)の王〔ヤマ〕である。彼は〔富の主〕クべーラであり、彼はヴァルナであり、そして彼は偉大なインドラである。王はたとえ子供であっても「人間だ」といって軽く扱われてはならない。なぜならば彼は人間の姿をした偉大な神であるから。火はうかつに近づく一人だけを焼くに過ぎないが、王という火は家畜や財産とともに一族を焼く。彼(王)は、目的、能力、場所と時を正確に考察して、正義(ダルマ)の成就のために何度でもどのような姿をもとる。彼の恩寵の中に好運の女神が住まい、武勇の中に勝利〔の神〕が、怒りの中に死の神が住んでいる。実に彼はいっさいの威力によって造られている。愚かにも彼を憎む者は疑いなく滅亡する。なぜならば王は彼を即座に滅亡させることを決意するからである。それゆえに、王が好ましい者たちに対して下す生き方(ダルこおよび好ましくない者たちに対して下す好ましくない〔生き方〕…その生き方に違反してはならない。

刑罰の創造
(刑罰の創造)
彼のために、主は、初めに、すべての生き物の守護者であり、正義(ダルマ)であり、〔主自身の〕息子である、ブラフマンの威力からなる刑罰を創造した。すべての生き物は、植物も動物も、それを恐れるがゆえに楽しむことができ、そして各自に定められた生き方(スヴァダルマ)から逸脱しない。場所、時、能力、学問を正確に考察し、規定に反して生きる人間に対して適切にそれ(刑罰)を科すべし彼、刑罰は王であり、男子である。彼は指導者であり、彼は支配者であり、そして四アーシュラマの生き方(アーシェラマダルマ)の保証人であると言われる。刑罰はすべての人民を支配する。刑罰のみが〔すべての人民を〕守護する。刑罰は〔すべてが〕寝ているときに目覚めている。賢者は刑罰が正義(ダルマ)であることを知っている。〔真実を〕吟味し、〔刑罰が〕正しく保持されるとき、それはすべての人民を幸せにする。しかし吟味せずに用いられたときはすべてを滅亡させる。王は罰せられるべき人間に対して刑罰を倦まず用いないときほ、強者は、弱者を焼き串に刺された魚のように焼くであろう。鳥は祭餅(プローダーシャ)を食し、犬は供物を嘗めるであろう。そして主権は何者にもなくなり、下剋上が起こるであろう。全世界は刑罰によって統制される。なぜならば、潔白な人間は得難いからである。刑罰を恐れることによって全世界は楽しむことが出来る。神々、ダーナヴァ、ガンダルヴァ、ラクシャス、鳥および蛇…それらですら刑罰によって制せられたときのみ楽しむことが出来るのである。

(刑罰の正しい適用)
刑罰を誤用すれば、すべての身分は堕落し、すべての境(区切り) は破壊され、全世界に怒りが持ち上がるであろう。黒色、赤目の刑罰が歩き回って罪人を滅ぼすところでは、〔刑罰を〕適用する者がよく監視すれば人民は迷いに陥ることはない。王は、それ(刑罰) の適用者、真実を語る者、綿密に調べて行動する者、賢明なる者、正しい生き方(ダルマ)と愛・欲(カーマ)と実利(アルク)〔の三つ組〕 に精通する者であると言われる。刑罰を正しく用いるとき、王は〔上述の〕三つ組によって栄える。愛欲に耽り、不公平で、低劣であるときは刑罰によって滅ばされる。実に刑罰は極めて偉大な威力を有しており、自己が確立していない者によっては保持され難い。それは〔王に定められた〕生き方(ダルマ)から逸脱する王を彼の一族もろとも滅ばす。さらには〔王の〕都城、領国、動・不動の世界、空界に住むムニや神々を苦しめる。それ(刑罰) は、補佐のない者、愚か者、貪欲な老、判断力を欠く者、感官の対象に執着する者によっては正しく用いられ得ない。清廉で、約束は必ず実現し、教え(シャーストラ) に従って行動し、優れた補佐を持ち、思慮深い者によって刑罰は用いられ得る。〔王は〕自領において、正しく振舞い、敵に対して断固とした刑罰を用い、愛する友には正直で、ブラーフマナにほ寛容であるべし。このように振舞う王は、たとえ穀粒・落ち穂を拾って生きようとも、あたかも水の中の一滴の油のように、彼の名声は世界に広がる。しかしこれに反し、自己を抑制しないとき、王の名声は、あたかも水に落ちた醇油の雫のように人々の間で小さくなっていく。順序に従い、それぞれ.に対して]定められた生き方(スヴァダルマ) に専心するすべての身分およびアーシュラマの守護者として王は創造された。私は以下において、人民を守護するこの者が彼の臣下とともになすべき事柄を正確に正しい順序で説明するであろう。

王の生き方

(謙譲)
王は朝起床したら、三ヴェーダに精通し、齢とった学識あるブラーフマナたちを讃え、そして彼らの教えに従うべし。齢をとりヴエーダを知る清浄なブラーフマナを常に敬うべし。なぜならば、年寄りを敬う者ほラクシャスによってすら敬われるからである。謙譲であっても、彼らから常に謙譲について学ぶべし、なぜならば、謙譲がある王は決して滅亡しないからである。謙譲のなさから、多くの王たちは財産もろとも滅び去った。〔一方〕森に住む者たち(隠者・苦行者)ですら謙譲によって王権を獲得した。ヴェーナは謙譲のなさから滅んだ。王のナフシャ、ピジャヴァナの子のスダース、スムカおよびニミもまた。しかしプリトゥおよびマヌは謙譲から王位を獲得した。クベーラは富の支配権を、ガーディの息子はブラーフマナの身分を〔獲得した〕。

(学問の修得)

三ヴエーダに精通する〔ブラーフマナ〕から永遠の三学問(ヴエーダ)と統治の学(ダソダニーティ)、論理学(アーソ・ゲィークシキー)およびアートマンに関する学問(アートマゲィドヤー)を、そして世間の人々から経済事業について〔学ぶべし〕。

(感官の制御)
日夜感官の抑制のための実修(ヨーガ)を実行すべし。なぜならば、感官の抑制された者は人民を支配下におくことができるからである。欲望(カーマ)から生じる十の悪徳、怒りから起こる八の悪徳、悲惨な結果に終わるこれらのものを努めて避けるべし。なぜならば、欲望から生じる悪徳に耽る王は実利(アルタ)と正しい生き方(ダルマ)を失い、怒りから生じる悪徳に〔耽るときは〕自ら〔を失う〕からである。狩猟、賭博、昼寝、誹誘、女、飲酒、三種の歌舞演奏(歌、踊り、楽器演奏)、〔功徳を積むことと無関係な〕意味のない旅行は欲望から生まれる十のものである。陰口、凶悪犯罪、裏切り、嫉妬、名誉毀損、財物を駄目にすること、言葉による暴力、暴行は怒りから生じる八のものである。〔王は〕すべての詩人たちがこれらの二〔群〕の根であるとみなしている貪欲を努めて克服すべし。これらの二群はそれより生じる。欲望から生じる一群の中でも、飲酒、賭博、女、狩猟の四種は〔この〕順番に最悪であると知るべし。怒りから生じる〔悪徳の〕一群の中でも、棒を打ち下ろすこと(暴行)、言葉による暴力、財物を駄目にすることの三つほ常に最悪であると知るべし。〔王は〕自らを保持し、到るところに群がるこれらの七つの中では、先行するものほど、より重い悪徳であることを知るべし。悪徳と死とでは悪徳の方が悪いと言われる。死後、悪徳者は下へ下へと向かい、悪徳を有しない者は天界に昇る。


(側役および大臣の任命と業務についての諮問)
〔王は〕完壁な調査をして、世襲の、教え(シャーストラ)に通じ、勇敢で、戦闘に長じ、家柄の良い七人もしくは八人の側役(サチヴア)を任命すべし。容易な仕事であってもー人で行なうのは困難である。まして、とりわけ盛大な繁栄を有する王国の場合、補佐なしには〔困難である〕。彼らとともに日々同盟と離反に関する一般について、〔また国家の〕基盤、歳入、防衛、獲得したものの保全について思索すべし。なすべき事柄について、〔まず〕彼らの一人一人の意見を別々に聴取し、次いで全体の意見を〔聴いた後〕自らに益する事柄を実行すべし。しかし王は、彼らすべての中で際立って優れた学識あるブラーフマナに〔上述の〕六事項に関する最高の政策を諮問すべし。常に彼に信頼をおいていっさいの業務を委任すべし。彼とともに決定を下してから行動にかかるべし。他にも、清廉で、知性があり、決断力があり、正しく税を徴収する者をよく吟味した上で大臣(アマーティヤ)に任命すべし。彼(王)の責務の遂行に必要な数の、勤勉で熟練した洞察力のある人間を任命すべし。彼らの中から、勇敢で、熟練した、家柄の良い、清廉な者たちを財務〔部門〕、たとえば鉱山・工場・倉庫に任命すべし。後宮には臆病な者〔を任命すべし〕。

(使節の任命)
すべての教え(シャーストラ)に精通し、〔顔の〕動き、表情、動作を洞察し、清廉で熟達した、良い家柄の者を使節(ドゥ一夕)に任命すべし。忠誠で、清廉で、熟達した、記憶力がよく、場所と時に明るく、容姿良く、恐れを知らず、雄弁な使節が王に対して推奨される。軍隊は大臣(アマーティヤ)に依拠する。〔人民の〕統制は軍隊に、国庫と領国は王に、同盟とその逆(離反)は使節に依拠する。実に使節こそが同盟を成功させ、同盟している〔王〕を離反させる。使節は人々が分断されるような事を仕事とする。彼(使節) は、彼(他国の王) の目的についてのヒントや兆候を隠された〔顔の〕動きや動作を通して知るべし。また家臣たちの間の企てを〔知るべし〕。〔王は使節によって〕他国の王の企図のすべてを正しく理解し、自らを苦境に陥らせないように努力すべし。

(都城の建設)
〔王は〕乾燥した、穀物が豊かで、由緒の正しい人々(アーリヤ)が主として住み、疫病がなく、快適で、近隣諸王が従順で、生活しやすい地方に居住すべし。砂漠、大地、水、樹木、人間あるいは山岳を防塞とする都城(プル)に依拠して住むべし。しかし全努力を傾けて山岳を防塞〔とする都城〕に依拠すべし。なぜならば上述の〔都城の〕中でも、山岳を防塞〔とする都城〕は多くの利点のゆえに最も優れているからである。それらのうちの初めの三つには〔それぞれに〕野獣、穴居動物、水棲動物が依拠し、後の三つには順に猿、人間、神々〔が依拠している〕。敵はこれらの防塞にこもるものたちを害しないように、防塞〔都城〕にたてこもる王を敵は害しない。防塞〔都城〕 に拠る射手は一人で百人に匹敵する。百人は千人に 〔匹敵する〕。それゆえに防塞〔都城での居住〕が規定されるのである。それ(都城) は武器、富、穀物、搬送具、ブラーフマナ、職人、機械装置、牧草、水を備えているべし。それ(都城) の中央に、広大で、防御が施され、すべての季節に適し、美しく、水や樹木の豊富な自らの宮殿を遣らせるべし。

(結婚)
そこに住まい、同じ身分の、吉相を備え、名家に生まれ、愛らしく、容姿と資質に斗思まれた妻を要るべし。

(祭式の実行)
〔王は〕王つきの祭官(プローヒタ)を任命し、リトヴィジュを選ぶべし。彼らは 〔それぞれに〕彼(王) の家庭祭とシュラウタ祭を執行すべし。王は充分な報酬(ダクシナー)を〔祭官に〕贈って種々の供犠を行なうべし。功徳(ダルマ)を積むためにブラーフマナに食べ物と金品を与えるべし。


(各部署の監督官の任命)
信頼のおける者たちに領国から年貢(バリ)を徴収させるべし。世事に関しては伝承に依拠し、人々に対しては父のように振舞うべし。部署部署に、〔それぞれに〕精通した様々な監督官(アディヤクシャ)を任命すべし。彼らは彼(王)のあらゆる仕事に従事する者たちを監督すべし。


(ブラーフマナへの贈物)
〔学生を終えて〕師の家から戻ってきたブラーフマナを〔贈物をもって〕敬うべし。なぜならばブラーフマナに渡されたそれは王にとって不滅の宝であると言われているから。泥棒も敵もそれを奪わないし、〔それは〕消滅もしない。それゆえに王はブラーフマナに不滅の宝を委託すべし。ブラーフマナのロに投じられた供物は、決して、こぼれ流れない、干からびない、消滅しない。アグニホートラ祭よりも優れている。ブラーフマナ以外の者への贈物は 〔その贈物と〕等しい 〔果報をもたらし〕、名前だけのブラーフマナへの場合ほ二倍、学識豊かな〔ブラーフマナ〕への場合は十万倍、ヴエーダに専心する者への場合は無限〔の果報をもたらす〕。実に、贈物の受け手の特質および〔王自身の〕信仰に応じて、死後、大小の果報を得る。