米叟上人は、何人たることを詳にせず。また其常住の所を知らず。
能く音楽に通じて、其秘曲を知りたりと云ふ。


---(その秘曲を得たる経緯を述べる。土佐国の藩士谷好井は鞍馬山に於て米叟に遭遇して秘曲(催馬楽等)を授かる。米叟は常陸国なる岩間山にて出会たる【異人】より習う。この【異人】が平田篤胤の許に通う寅吉を仙境に誘う。この寅吉が、山にて催馬楽という音曲を聞いていた。これを、土佐国の藩士谷好井の男、谷満作正兄が聞いて、さては米叟が謂える事は事実なりと大いに感じけり、とある。)---斯くて此米叟は、自ら鞍馬山に居りつつも、岩間山の【異人】より音楽の秘曲を伝へ得てありしを始め、如何にも常人の如く聞えぬを思うに、是れ亦所謂一人の仙人にてありしならむと云へり。