初代の神農氏は農業と共に医薬の祖でもあり、農業や医療など生活に欠かせない技術の発明を行っています。《捜神記》や《述異記》などには、薬を作る時は成陽山に行き鞭で様々な草を刈り取り、刈り取った草木を食べてみてどんな効果があるか身をもって確かめました。草木の成分が影響を与えて臓器が変色するため、毒があるかどうか分かったと言います。その結果を用いて様々な治療薬を作り、多くの命を救いましたが、この行為が死因となってしまいました。中国で一番最初に書かれた薬草に関する本は神農ー薬経、または神農帝連続篇とも呼ばれ、神農氏が紹介されています。神農氏は神農帝仙、五穀帝仙とも呼ばれています。この本に書かれている薬草やその配合が数千年に及ぶ実践を経て中国医学として昇華し、現在に至ります。長い間、薬剤の教科書として使用されており、昔の医師たちの必携の書であるとともに中国医学の発展の祖というべき本がこの神農ー薬経です。その他にも神農氏の医薬研究の結果は《神農本草経》に残っていると言われています。

 

伝えられるところによると神農氏はいつものように草木を嘗めて効能を調べていると間違って毒草である断腸草を食べてしまいました。解毒のため茶を飲みましたが効果が及ばず腸全体が千切れて亡くなったと言います。

 

神農氏は大徳を以て世の中にその名をとどろかせた三皇の一人、炎帝です。農業の創始者であり医薬の祖でもあります。伝説に残っている一日百草を嘗めたので一日に七十回も中毒を起こした、という嘗百草の逸話も神農氏の大徳を伝えています。その他にも以下のような数々の伝説が残っています。

  • 延齢草伝説

ある時、神農氏は山奥の古木の森に分け入り薬草を探していました。すると毒蛇の群れに囲まれてしまいました。毒蛇たちは一斉に神農氏に襲い掛かり、腰や足、腹などに巻き付き神農氏を殺そうとしました。蛇たちは神農氏に咬みつき、血が止まらず毒により全身が腫れあがってしまいました。神農氏は痛みに苦しみ叫びました。”西母王、どうか私を助けに来てください。”西王母がこれを聞き、すぐさま青鳥に解毒仙丹を嘴に銜えさせて救助に向かわせました。青鳥は大空を旋回しながら神農氏を探し、遂に森林の中で倒れている神農氏を見つけました。毒蛇たちは西王母の使いの青鳥を見るや否や一目散に逃げだしてしまいました。青鳥は仙丹を神農氏の口の中に押し込みました。しばらくすると昏迷状態であった神農氏の意識がはっきりと戻りました。青鳥は自分の使命を果たしたので、大空へはばたき天へ帰りました。神農氏は感激し、天に帰っていく青鳥に向かって感謝の言葉を叫びました。すると、青鳥の口から仙丹が地面に落ち、仙丹はすぐに根を張り芽を吹き出して青草が育ちました。草の頂には一顆の紅珠がありました。神農氏はじっくりと観察してみたところ、先ほど飲んだ仙丹と全く同じであることに気が付いたので、口の中に放り込みました。すると、全身の痛みが嘘のように消え去り、嬉しくなってこう言いました。”毒蛇に咬まれたときの解毒剤があった!”そして、その薬草は”頭頂一顆珠”と呼ばれました。その後、薬剤の研究家はその草を”延齢草”と名付けました。

 

神農氏が嘗百草を行っているとき、常に獐鼠をそばに置いておきました。獐鼠は神農氏の五臓六腑や十二経絡を見て、薬草が体のどの部分に効果を発揮するのかを観察することができたので、神農氏の嘗百草を大いに助けました。獐鼠はまたの名を獐獅とも言いました。獐鼠は一般に伝えられている”薬不過獐鼠不霊(薬は獐鼠を不能のままにしておかない)”の伝説に出てきます。

ある日、獐鼠は巴豆(はず)という草の実を食べたところ下痢が止まらなくなりました。神農氏は獐鼠を青葉の木の下で休ませました。一晩経つと獐鼠は奇跡的に回復しました。なぜなら青木上から滴る露に解毒作用があり、獐鼠がそれを吸っていたからです。神農氏は青葉から滴る露を集め、口の中に放り込み嘗めました。すると口内が爽快になり渇きを潤しました。

 

神農氏は人々にこの青葉の木を教えました。これがお茶の木です。これが中国の民間で伝承されている山歌です。その内容は、”お茶の木は神農が植え、白い花が咲く。栽培しているときは雲が出ても霧が立ち込めても怖くない、大きくなれば風雨も怖くない。新芽はお茶となり百毒を解毒する。どこの家もみんな最も好きだ。”というものです。

また、茶葉の発見について以下のような伝説があります。

神農氏が室外の暖炉の上でお湯を沸かしていた時、近くの灌木から葉っぱが落ちてきて水の中に入りました。少し経った後、神農氏が葉っぱに気が付くと同時に湯気には人を魅了する香気が漂っていることに気が付きました。そのお湯は美味しくて、その後神農氏はお湯を沸かすときにはその葉っぱを入れて沸かすようになりました。これが世界中で最も愛されている飲み物の一つであるお茶の誕生と言われています。