シルディー・ババの父親は船頭でした。小さな村に一隻しかない船の持ち主でした。他の村へ行きたい時、村人たちは皆、大きな川を渡らなければなりませんでした。彼は妻と二人で小さな小屋で暮らしていましたが、結婚して何年たっても子供ができませんでした。 ある日、大雨が近付いていました。それでも川を渡って他の村へ行きたいという人達がいました。緊急の用事があったのです。妻は夫に言いました。

 「だめだめ、だめよ、行かないで。大きな雨雲がたくさん来ているわ。大変な大雨になるのよ。お願いだから行かないでちょうだい。」それでも夫は客を乗せて行ってしまいました。妻は100%純粋なシヴァの信者でした。彼女の巨大な願望は、シヴァを自分の子供として産むということでした。彼女は毎日シヴァに祈っていました。 「あなた様に息子になってもらいたいのです。それだけです。普通の子供は要りません。」この様に一途に願っていました。 雷と大雨は信じられないほどの強さになりました。川は洪水です。夫の身に何かあったのではないか。恐怖のあまり彼女は泣き出しました。村中の人々が船頭と乗客が死ぬのではないかと心配しました。彼女は泣いて、泣いて、泣き続けました。その時です。彼女の前にシヴァ神が現れました。「お前の望みは何か」 それは大きな試練でした。その時、彼女の心は夫を心配して張り裂けそうになっていました。ところがシヴァ神が現れたので、その痛みをすっかり忘れてしまいました。そして願い事を言いました。 「どうか私のこの人生で、私の子供として生まれて来てください。私の願いはそれだけです。」するとシヴァは微笑み、彼女にある果実を与えました。 「これを食べなさい。」彼女はその果実を食べました。そしてあまりの幸せに、夫が大変な災難にあっている事などきれいに忘れてしまったのです。そこへ運良く命拾いした夫が戻ってきました。家に帰ってきたら、妻が幸せいっぱいしています。自分はずぶ濡れなのに、あまりにも妻の顔が歓喜と幸福に満ち溢れていたので、夫は困惑しました。 「何故そんなに嬉しそうにしている?」と聞きました。 「ああ、私はシヴァ神と話をしたの! フルーツを渡されたわ。 見て、あの方の指紋がついているでしょう。」

 

二人は知らなかったのですが、その時シヴァ神は彼らが一切の執着をなくし、シヴァ神を見つけるまではただひたすらシヴァだけに集中する様にという祝福を与えていたのです。そして同時に彼女だけがシヴァ神を見たという、大きな嫉妬心を夫の心にかき立てました。その為、夫は信じられないほどの波動を感じ始め、嫉妬で自分を傷つけ始めました。 「お前はシヴァを見た。俺は見ていない。俺はどんな間違いを犯したのだろう。 俺達はパートナーだぞ。一つの頭に二つの目があるのと同じだ。 片方の目が涙すればもう片方の目も自動的に涙する。 一本の足では絶対にゴールへは到達できないんだ。一本足では歩けないじゃないか。二本足でなくてはダメなんだ。 俺たちはパートナーじゃないか。神はそれを知っている。 いや、知らなくてはいけない。あぁ、神はなんて勝手なんだ。 俺はシヴァを見つけに行くぞ。俺は瞑想したいんだ。」

 

 そして妻は子供を授かりました。彼女が妊娠している間に、夫の嫉妬心は信じられない程大きくふくれあがりました。彼は悶え苦しみ、苦しみ続けました。そして彼女は出産しました。夫はもう船頭としてそこに留まっていたくありませんでした。「もう駄目だ。俺はシヴァ神を見つけに行かなくては。」 夫は妻を置いて、森の中にシヴァ神を探しに行くと言うのです。その夫のイリュージョンに妻も加わりました。 「私に必要なのはあなただけです。例えシヴァ神が一緒に居てくださったとしても、あなたがいなければ何処に幸せがあるの。私にはあなたが必要なの。」 こうして彼女も夫について森の中へ入り、そこで一生を終えたのです。 子供は小屋に置き去りになりました。