ババ自身はシルディ村を離れることがなくても、ババの姿は全国各地で目撃されていました。不思議な事にババを知る人には必ず別の姿で登場し、ババを知らない人にはいつもの白い服に頭巾を被った格好で現われているのです。ババはよくドワルカマイの焚き火の前で信奉者達に昨夜何処に行き、誰に会ったかを克明に話して聞かせましたが、必ず後日その話が本当であったことがわかるのです。

 ある日いつものように焚き火に薪をくべていたババが、突然、腕を火の中に突っ込みました。そばにいた2人の男性があわててババの腰をかかえ、後ろに引っ張りました。どうしたのかわけを聞かれて、ババはこう答えました。「鍛冶屋の女房が炉に薪をくべていて、亭主に呼ばれて立ち上がった拍子に抱えていた子供を火の中に落としてしまった。だから私は腕を伸ばしてその子を引っ張り出したのだよ。私の腕はどうでもいい。子供が助かって良かった」。 

 裕福な信奉者の一人がサイ・ババの腕の手当てをするために遠くムンバイから名医を呼びつけましたが、ババはそれを断り、一切腕に触れさせませんでした。実際にババの傷の手当てを仰せつかったのはライ病患者のバゴジ・シンデ唯ひとりでした。ババはいつもライ病の末期の患者にしか身体を触らせなかったのです。そのときもバゴジにはギーで傷を洗わせ、何かの葉で傷を覆い、布で巻かせたのでした。

 信奉者が望む事はすべてババにお見通しでした。口に出して言わなくてもその望みは適えられたのです。ババはよく『好きな場所に行き、好きなことをしなさい。しかし私にはすべてが見通されていることを覚えていなさい』と言っていました。

  ある日ムンバイの郊外に住む若者が、亡くなった父親の為にシルディを訪ねることになりました。それを知った近所の信奉者の女性がババへの贈り物を託しました。若者はシルディでババに会い、無事に用事をすませましたが、贈り物のことはすっかり忘れていました。翌日、村に帰る前にババに挨拶に行くと、若者はババにこう尋ねられました。「私に何か持ってきたのではないのかね?」 若者が「いいえ」と答えると、ババはもう一度同じ質問をしました。それでも若者が思い出さなかったので、ババは「旅に出る前に、私にとペッダーを預かったのではないかね?」と言ったのです。そこでやっと思い出した若者はあわてて部屋に戻り、預かっていた贈り物をババに渡したのでした。

 ある男が家にあった宝石を盗まれました。その犯人が30年来の友人であったことを知り、男は悩みました。警察に届ける代わりに、男はババの写真の前で泣きながら懇願しました。すると翌日その友人が家に現われ、宝石を返し、彼に詫びて許しを請うたのです。