ババを信奉するムンバイの女性がシルディ村を訪ねていました。ある日その女性が昼食を作っていると、台所に犬がやってきました。食事の支度がほとんど終わったので、その女性は犬にパンを与えました。犬はよっぽどお腹がすいていたのか、それは美味しそうにパンをガツガツとたいらげました。その日の午後に女性がモスクに行くと、サイババが彼女にごちそうのお礼を言いました。身に覚えのない女性が驚いていると、「あなたがくれたパンは実に美味しかった。いまでもげっぷが出るほど堪能したよ。あなたの所に現われた犬はこの私。私は色々な姿で歩き回っているのだよ」とババが皆に説明したのです。

 サイ・ババは自分が寝泊まりしているモスクをドワルカマイと名付けました。ちなみに、ドワルカ(Dwarka)は直訳すると通路、扉という意味で、マイ(Mai)はマザー(母)という意味です。そのドワルカマイは全ての人に平等に開かれていました。金持ちも貧乏人も、健常者も障害者も、犬も猫もカラスもトカゲも、すべて同じように丁重に迎えられたのです。

チョルカーは貧しい青年でしたが、いつかは試験に合格して裁判所に勤めるという夢をもっていました。ババの評判を聞いたチョルカーは、望みがかなったらババを訪ねようと心に決めました。そして無事試験に合格し、待望の裁判所の仕事に付く事ができました。しかし大家族を養っていたチョルカーには旅費もままならず、なかなかババを訪ねる事ができませんでした。そこで彼は大好きな紅茶に入れる砂糖を断ち、そのお金を貯金することにしました。そうしてやっとお金が貯まったチョルカーがシルディー村に行き、ババにお目通りしてドワルカマイを出ようとしたところ、ババが弟子の一人にこう言いました。「この男に紅茶をごちそうしなさい。忘れずに砂糖をたっぷり入れるのだよ」と。チョルカーはババに会う為に砂糖を断っていたことを誰にも言っていませんでした。しかしババにはちゃんとわかっていたのです。

 ある日ババがモスクの火の前に座っていると、壁に貼り付いたヤモリがチッチッと鳴きました。そばにいたババの信奉者がその泣き声に何か意味があるのか尋ねると、ババはこう答えました。「あれはオランガバードにいた妹が今日尋ねてくるから喜んでいるのだよ」と。その者が腑に落ちないまま、それ以上何も言わず黙っていると、一人の男性がババに挨拶しにモスクにやってきました。その男性はオランガバードから来たと言い、乗ってきた馬に餌を与えようと飼葉の入った袋を床に下ろして、トントンと叩きました。すると袋から一匹のヤモリが現われ、スルスルッと壁の方にいき、先のヤモリと一緒にどこへともなく去っていったのです。