昔、小野篁と言う人がありました。篁は学生の頃、罪を犯してしまい罰せられる事になりましたが、その時、藤原良相(よしみ)という方が、宰相として、篁をかばい、難を逃れる事が出来ました。 篁はその事を知り、良相に大変感謝しました。何年か後、篁は宰相に、良相も大臣になりました。しかし良相は重病となり、しばらくたって亡くなってしまいました。 良相は閻魔王の使につかまり、閻魔王宮に連れていかれました。 そして、罪を定められる時、冥官の中に小野篁を見つけました。良相はこれはいったいどうしたことだろうか?と思っていると、篁は閻魔王に「この方は、心の正直な人で、人の為になる方です。今度の罪は私に免じて許してもらえないでしょうか」と言いました。閻魔王は「それは難しい事だが、篁がそう言うなら許してやろう。」と答えました。篁が良相を捕らえた者に「すぐに現世に連れ帰りなさい。」と言うと、良相は、目覚め、元のように自分の部屋にいたのでした。その後、良相は病も癒え内裏に上がりました。そして篁に会うと、閻魔庁での出来事を尋ねました。篁は、「以前私の弁護をしていただいたお礼をしただけですよ。ただしこの事は誰にも言わないでくださいね。」と答えました。 良相はこれを聞いて「篁は只の人ではない、閻魔王宮の臣だ。」と知り、いよいよ恐れ、「人のために正しくあらねばならん。」と、いろんな人に説いてまわりました。しばらくするとこの事は自然に世間の知る所となり、「篁は閻魔王宮の臣として冥府に通っている人だ。」と、皆、恐ろしがったという事です。