チベット密教では、中国や日本へ伝わっていない無上瑜伽タントラを特に重んじ、覚りへ至る最短の道として、その教えを何よりも大切に守り伝えてきました。「馬頭観音」(ハヤグリヴァ)自体は、忿怒相の観自在として、日本でも馴染み深い本尊です。チベット語で「タディン・ヤンサン(ペーマ・ヤンサン)」といい、無上瑜伽タントラの秘法とされています。無上瑜伽タントラの「馬頭」は、『秘密集会』などの十忿怒明王の一尊や、或はニンマ・タントラのマハーヨーガ成就法部の八本尊の一つとしても知られています。今回のタディン・ヤンサンの行法には、ニンマ・タントラ系の要素が色濃く取り入れられているようです。タディン・ヤンサンは、セラ寺チェーパ・タツァンの守護尊として有名です。

(ダライラマ法王より)

馬頭観音は無上ヨーガタントラに属する本尊で、八大明王のひとつです。灌頂によっては25人以下の弟子に対してのみ与えるものもありますが、ここで弟子に必要とされる主な資格は信心ですので、この灌頂を公開で授けてもかまわないと思います。馬頭観音は観音菩薩の特に激しい忿怒形の本尊です。チベット人は観音菩薩と長いご縁があり、私自身も過去になした祈願や行為の結果として、観音菩薩の請願に沿った行いに携わることができたと思っています。7世紀にチベットにおいてほとんどの寺院を建設したのはソンツェン・ガンポ王でしたが、王ご自身も観音菩薩と深いつながりがあり、チベットとも特別な縁があったのは明らかです

ニンマ派の伝統では、声聞乗、独覚乗、菩薩乗の顕教三乗と、外タントラとして所作タントラ、行タントラ、ヨーガタントラの三乗、そして内タントラのマハヨーガ、アヌヨーガ、アティヨーガの三乗を合わせて九乗の段階があると説明しています

「釈尊は、第三法輪において認識主体の光明の心を示されたのに対し、第二法輪では認識対象の光明について述べられただけでした。内タントラのマハヨーガ、アヌヨーガ、アティヨーガでは、心の本質が原初から存在する光明の心であることを強調しています。最終段階のアティヨーガ(ゾクチェン)では本然の意識である光明の心を修行の道に使うため、光明の心を内に顕現させる必要があるのですが、それは簡単にできるわけではありません」

「ニンマ派には、釈尊が説かれた教えを含む『遠伝(リンギュー)』とも呼ばれる『仏説部(カーマ)』と、『短伝(ニェギュー)』とも呼ばれる『埋蔵部(テルマ)』がありますが、テルマは発掘された宝であり、深遠なるビジョンによる教えです。これから授ける馬頭観音の灌頂はダライ・ラマ五世の秘密のビジョンによるテルマの教えのひとつです」「私はこの灌頂を若い時にタクダ・リンポチェから授かりましたが、ある理由からその後ディンゴ・ケンツェ・リンポチェからも授かり、そのリトリートも行いました」「私たちが亡命した時には、何種類かあるこの灌頂のテキストのどれも持ち出せませんでしたが、その後、縁あってダラムサラの私の元にひとつが届きました。チベットで最初に灌頂を授かったときに夢の中で吉兆を得ましたし、その後リトリートを行った時にも吉兆がありました」

 

馬頭明王
馬頭明王,即是馬頭觀世音,在蓮華部教令輪中是六觀音之一。在明王部是馬頭明王,由於其頭有白馬之形,如轉輪聖王的寶馬,所以稱為馬頭明王、馬頭觀音,被尊稱為畜生道的教主。觀世音菩薩一向是大慈大悲之相,唯有馬頭明王是觀世音菩薩的忿怒身變化,所以有火焰威猛,指甲長利,雙牙外露,馬首長臉,
作極怒吼。此馬頭明王是稱為蓮花部忿怒持明王。 馬頭明王的修持,由於有寶馬腳力,不論遠近,皆可法力達至,可遍涉四大洲,其威力甚大,降伏一切的魔障,更具威力。 馬頭明王的法,出自「頻伽藏秘密部」、「紅觀音儀軌」、「金剛佈畏起分」等經。
其形像,在八文殊儀軌內曰:「畫一馬頭明王,面三面,三面各三目八臂,正面笑容,右面大青色,舌伸。左面黃色利牙忿怒。右
第一手執金剛杵,第二手執寶杖,第三手執迦那野,第四手執箭。左第一手絹索,第二手執般若經,第三手持蓮花,第四手持弓。馬頭 明王的身子,可用紅黑色來觀想,坐紅蓮華座。身著虎皮衣。」 

サンスクリット語でハヤグリーヴァと言い、チベット文化圏においては菩薩ではなく明王(護法尊)のカテゴリーの中に属している。馬頭観音の1番の特徴は何と言っても馬頭を頭上に頂いていることで、これは煩悩を貪る為にあると言われていて、アミターユス(無量寿仏)の化身とされている。

馬頭観音は金剛杵と棍棒を持ち、獅子の頭をした明妃ヴァジュラ・シュリンカラーを抱いたヤブユムの状態をとることもあり、その妖艶な姿はチベット仏教ならではだ。因みに馬頭観音が持つ金剛杵は仏教の教えを放つ力を持ち、棍棒は妄想による葛藤を断ち切るためにある。日本仏教ではヤブユムという言葉は馴染みが無いがチベット仏教においては智恵と方便の融合こそ悟りへと至る近道だというニュアンスが含まれ、神が持つ金剛杵と蓮華にも同じような意味合いを持っているのだ。ニンマ派の経本『8大へールカ法』の一尊である。馬頭観音は西方の守護神である。