「ここに居ていいのは俺を抱く客だけだ。
俺を抱く気がないなら出て行ってくれ…」
言葉に詰まった彼に、やっぱりという思いが湧き上がる。もうこれ以上傷つきたくなかった。彼に応えたい気持ちを押し殺して俺は彼を部屋から追い出そうとした。
だが、彼はまた言葉を紡ぐ。
「……。やっとお前に会えて…俺は今、お前に触れたいと思っている…
きっと俺は…お前を…好きなんだろうな…」
告られた言葉は聞けるはずのなかった言葉だった。その不器用な言葉が俺の心に染み入ってくる。
「そんなことを言っていいのかよ…
俺があんたを受け入れるとは限らないだろ…
それに姉さんのことは…どうするんだよ…」
嬉しさよりも戸惑いの方が大きい俺は彼に聞かずにはいられなかった。あんなにも大切にしていた姉さんのことを簡単に忘れられる訳がない。
「そうだな…
それでも俺は…この思いを伝えたかったんだ…」
手を伸ばした彼が俺の手首を掴み強引に引き寄せた。力強い腕に引かれ俺は彼の胸に倒れこんでしまった。
彼の鼓動が聞こえた。早鐘を打つ彼の鼓動を聞いて、俺の鼓動も昂まり胸苦しくなる。聞けるはずのない言葉を告げられ、混乱した頭は冷静になれない。
彼の胸に顔を埋めながら…
気が付けば言葉は勝手に滑り出て…一旦零れ落ちたら止められなかった。
「もし…俺もあんたを…好きだと言ったらどうする?」
言ってしまった。
彼の腕の中の心地よさに心の内に湧き上がった後悔には目を背けた。
俺を抱いていた腕を緩め彼が俺の顔を覗き込んできた。
頬が熱い。赤くなっているであろう顔を彼に見られるのが恥ずかしかった。俺は彼の胸に顔を埋めたまま彼の視線から自分の顔を隠していた。
遠くで船の汽笛が聞こえた。
夜の帷が降りた部屋にはランプの灯りだけが揺れていた。
抱き合ったままお互いの温もりを感じている時間が過ぎていった。
優しい静寂が二人を包んでいたが、次第にそれは息苦しいものになっていった。
隣りの部屋で辛い時を過ごしている姉さんのことが頭から離れない。
「…隣りの部屋には姉さんがいる…。どうする…?」
俺は彼の胸から顔を上げ問いかけていた。
彼も姉さんのことを考えていたのだろう。彼の瞳は、胸の内の葛藤を物語るように揺れていた。
この人は姉さんを裏切れない…
俺たち姉弟の間で彼に苦しんで欲しくなかった。
十分だった。彼は好きだと言ってくれた。それだけで俺の初めての恋は報われたのだと思った。
だからもうこれ以上彼の腕の中にいることは出来なかった。俺は彼から体を離そうと身動ぎした。
「…ありがとう。好きだと…言ってくれたその言葉だけで俺は十分幸せだ…」
ありったけの思いを込めて彼に告げた。笑みを浮かべ零れ落ちた涙には気付かない振りをして彼の胸を押して身体を離そうとした。
だが、彼は俺を離そうとはしなかった。
決意したかのようにそのまま抱き締めていた俺の身体をベッドに押し倒した。
見下ろしてくる彼は情慾の熱に浮かされた顔をしていた。
見つめ合った時間が永遠に思えた。
だめだと思いながらも無意識に彼の首筋に腕を廻していた。
姉さん…ごめん……
俺は心の中で姉さんに詫びながらゆっくりと目を閉じた。
新年のご挨拶が鏡開きの日
となってしまいました( ̄ー ̄; 今年も絶好調にダメ人間です(´・ω・`)
記事も何故か文字数オーバーで早速の分割に初めしてしまいました(^^;)
拙い話ですが、何とか終わらせる所存でございます。
今年もよろしくお願い致します(・∀・)