館に戻ると部屋では公爵が待っていた。
昨夜に続いての訪れに俺は小さく吐息した。
客をもてなす為の果実やらワインが置かれたテーブルの片隅に姉さんの為に買った木苺を置くと、居てくれて嬉しいと思わせるように甘く響くように呼びかけた。


「…公爵様………」


窓辺に立った公爵を焦らす為、木苺をひとつ摘まんで食べた。
そんな俺の顔を見つめながら公爵が呟いた。


「ソギ……私のことは名前で呼べと言っただろう?」


この男は恋人のように振る舞うのを好む。公爵が甘い声で俺を諌めた。


「…アルベール様……」


言われるままに名前を呼び掛け、シャツのボタンを外しながら彼に歩み寄った。俺の肌を見ると彼の目が熱に浮かされたような眼差しに変わる。


「それで…ソギ……何処へ行ってたのかな?」


甘やかな笑みを浮かべた公爵が問うてきた。


「市場で姉さんのための買い物を……」


彼の首に腕を巻き付け耳許に唇を寄せ俺は囁いた。


「ソギ…とても似合っている。私からの贈り物を着ていてくれて嬉しいよ…」


身に纏っているものがこの男が昨日俺に与えたものだったことを神に感謝した。

「プレゼント嬉しかった…。
今朝…買い物に行く時、自分で着たんだ……だから…脱がすのはアルベール様が……」

彼のカラダに凭れながら彼が喜ぶような甘えた言葉を紡ぐ。ブロンドの髪に碧眼の彼が潤むような瞳で俺を見下ろす。
白い両の手で俺の頬を包むと堪えきれなかったのか、彼は甘やかに俺の唇に自分の唇を合わせてきた。
そのまま滑らせた片手は力強く俺の腰を抱き寄せ、空いた方の手は忙しなく俺の衣服を脱がしていく。
この高貴な男が俺の足許に跪きブーツを脱がす時、俺の中に仄暗い優越感が産まれた。公爵は俺の虜だった。


「お前を脱がす栄誉が得られるなら、またソギには何かプレゼントしよう…」


上擦った声は欲望を滲ませている。一糸纏わぬ姿にされた俺はベッドに横たえられた。
夕闇に染まる薄暗い部屋でランプの炎がゆらゆらと揺れていた。

俺の肌が夕陽を映すかのような色に染まる。
ベッドの上の俺のカラダを見た彼の喉がゴクリと鳴った。

ベッドサイドのテーブルに置かれた香油の瓶を彼が手に取った。

ファラオも使った香油が俺たちの交わりには相応しいと俺との情/交の為に彼がわざわざエジプトから取り寄せた百合の香油。

瓶の蓋を開けると噎せ返るような百合の香りが部屋に充満する。
息苦しいほどの芳香が俺に纏いつく。
膝に手を掛けられ、しどけなく足を開かされる。
香油を指に塗した彼が俺の後ろをやわやわと弄る。
押し入ってくる指に声が洩れた。


「…んっ…んん……あぁ……」


俺の声に煽られた彼の指が更に深く穿たれる。


「…あぁっ…あんっ……」


彼が喜ぶように嬌声を唇から洩らす。


「ソギの声は淫らで美しい……」


自分のカラダが公爵の手で昂ぶっていく刹那、先程まで一緒にいた男のはにかんだような笑顔が浮かんだ。

もし……彼が……俺を……

あり得ない情景が何故か浮かんだ。
姉さんに恋をしている彼が俺とこんなことをする訳がない。

わかっていた…。
わかっているのに心は彼の元に飛んでいくようだ。


「…ソギ……?」


公爵が訝しげに俺の名を呼んだ。我に返った俺は、ぼんやりしていた自分を隠すために更に彼を受け入れるところを晒すように足を広げた。

「…ねぇ……早く……」

客たちが皆堪らないという眼差しで公爵の碧眼を見つめた。指を抜いた彼が逸る気持ちそのままに慌てて服を脱いでいた。

姉さんに先に木苺を届ければよかったな…

これから訪れる夜をこの男に買われた俺は、今夜はもう姉さんにも会えないし、ショーにも出れない。
上客の公爵が訪れていても、姉さんの木苺とショーを見に来ると言っていた彼のことで心はいっぱいだった。


長くなりそうな夜を思い、俺は小さく溜め息を吐くことしかできなかった。