その人は明治から昭和にかけて、神戸を中心にアメリカ、欧州、支那、ソ連を駆け巡った。神戸を日本を代表する国際貿易港に育て、いっ時は東京、大阪に次ぐ日本第三の都市にした。その人の職業は経営者であり政治家でもある。会社の最大時の従業員は二万六千人を超えた。会社の名は川崎重工業、川崎造船、川崎製鉄など。その総司で日本の近代化に大きく貢献した松方幸次郎氏である。

 1884年、幸次郎氏は単身アメリカ東部の大学に留学をした。国の補助を受けない留学なので相当の費用がかかる。支援した方も立派だが、やり通した方も立派だ。言葉、文化に加えて人種差別の強い時代だ。記録に残っているだけでも当時相当の数の留学生が欧米に行っているようだ。様々な分野で懸命に学習して帰国した。自分のためが国のためという、素晴らしい日本人の心がありました。

 松方氏は何よりリーダーとして先を読み、決断をして、世のため、人のための財を生む生きざまに身体が震えました。国を愛する心と人を愛する気持ちの篤さ。加えて見習うのはその志の高さだ。氏は、晩年芸術活動に大きく貢献したが、特に絵画のコレクターとして、名を上げたが、個人の所有にした作品は一つもない。

 この本の名は『火輪の海』です。神戸新聞社発行で2007年のもの。知らない事がまだまだ一杯あるなあという心境です。私にとって神戸の恩父の山中嘉一さんに前回帰国した2月にに頂いたもの。私達は先人、先祖の努力を無駄にしてはいけない。サッカー界もしかり。身と心の引き締まる一冊でした。お薦め。(4月13日)