―櫻、咲く。
咲いた櫻は、いつか散る。
散らぬ櫻が在ったなら、
別れを知らずにすんだだろうか…―
窓から見える桜並木…
いつも二人で眺めてたね。
散りゆく桜を眺めながら…
「アタシと似てるね。」なんて…
あの頃の僕には返す言葉が見つからなかった。
僕は弱い人間だから、
いつも君の言葉で胸がつまりそうになる…。
僕はずっと、君は強い人間なんだと思っていた。
痛さも、辛さも、怖さも…
君は一言も口にはしなかったから。
浅はかな僕を、叱ってくれる人がいたなら、
君を孤独にせずにすんだかもしれないのに…。
桜の木に青葉が目立ちはじめ、
わずかに残る花を見つめながら…
「もうそろそろかなぁ?」なんて…
君がやわらかく微笑むから、
僕の方が泣きそうになって…
結局、最期まで何も言ってあげられなかったね。
本当は…
君は強くなんてなかった。
ただ、強がっていただけだったんだと…
君を失う瞬間まで、僕は気付いてあげられなかった。
君は、たくさんの配線に繋がれて、
必死に息をしながら…
涙目で僕を見つめて…
それでも、何も言わずに…
微かに微笑んでくれたんだ。
それが君の優しさだったんだと、今なら解るのに…。
君が遺した僕宛ての手紙には、たった一行しか書かれてなかったけど、それだけで、僕は救われた気がしたよ。
『傍に居てくれて、ありがとう』
言葉に出来なかった僕の想いは、
とめどなく溢れてくるのに…
もう君には伝えられない…。
君と見た桜の木を見上げ、
声をあげて泣きじゃくる僕の頬に、
最期の花びらが舞い落ちた。
―櫻、咲く。
咲いた櫻は、いつか散る。
散らぬ櫻が在ったなら、
別れを知らずにすんだだろうか…―