約束の時間を、15分オーバー。
ここは某ホテルのラウンジ。
お見合いの席である。
周りを見渡せば、他のお見合いカップル達は和気あいあいと穏やかそうな雰囲気でお話中。
そんな戦場で、私だけがポツンと一人。
お冷の水滴を指でなぞるだけの作業に没頭していた。
すでに2杯のお代わりをいただき、尿意への心配も捨てた。
これはもう、不穏な予感しかしない。
どう頑張っても、ここからロマンチックな展開が始まる未来が見えない。
少女漫画なら絶対にカットされる15分間だ。
そっとバッグの底のスマホを傾け、画面を覗き見る。
通知:ゼロ。
仲人からの連絡:ゼロ。
LINEの通知:公式アカウントからのクーポンのみ。
よし、帰ろうっ!
退散だ!
縁がなかったのだ。
人生そんな日もある。
駅直結のデパートの地下にでも寄って、季節の珍しいお漬物(浅漬け希望)でも買ってヤケ食いしてやる。
……そう思いかけて、踏みとどまること3回。
いや、待つんかい!
自分でも驚くほどの粘着力である。
がっ、ついにその時、ついについに「奴」は現れた。
スーツのジャケットを片手にひっかけ、ビジネスバッグを携えたI氏。
早歩きといえば早歩きだが、15分の遅刻をかましている人間特有の「滝のような汗」も「申し訳なさそうな前傾姿勢」も一切ない。
まるで「ちょっとコンビニ行ってきました」くらいの平然とした顔つきである。
え、何その余裕?
これが古の都で育まれた男の「雅(みやび)」なマナーなのかっ!?
「あっ、こんにちは。すみません。」
……ん?
最後の「すみません」、声量デシベル値小さすぎない??
私の地獄耳だから拾えたものの、普通の聴力なら
「あ、こん……(無音)」
で消えてるからね!?
ビジネスバッグを持っているということは仕事帰りなのだろう。
仕事なら仕方ない。
社会人だもの、突発的なトラブルくらいある。
だけどさぁ!!さぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
何事もなかったかのようにスーッと着席するその態度に、怒りを通り越して乾いた笑いが出てくる。
公認会計士かなんだか知らんが!
(ぅうっ、その肩書に目がくらんで申し訳を申し込んだのは私です……懺悔!)
全然焦ってないし、
「大変お待たせして申し訳ありません!」
という誠意の1ミリも見当たらない。
するとI氏、着席するなり爽やかにのたまった。
「あんまり時間もないですけど、何飲まれます?」
……ファッ!?!?
「時間がない」のは誰のせいだと思っているんだーーーっ!?
(次回へ続く)