こんばんは。



重力波が観測されたという大ニュースを受け
重力波物理学を
大学4年のときに学んでいた元・ただの大学生の私が
重力波について簡単に説明します。



vol.2では
いよいよ重力波そのものについてです。



vol.1はこちらから。


重力波は
どんなものなんでしょうか。




重力波は、
質量のあるものが動くと
光の速さで空間を伝わっていきます。


一度発生した重力波は
空間内のどんなものも突き抜けます。





vol.1のテーブルクロスに
自動で動くりんごが乗っています。


りんごが動くことによって
テーブルクロスは波打ちます。


その波(重力波)は
テーブルクロスを伝わり、
やがてそこで頬杖をしていたあなたの身体を通り抜けます。

あなたは別に何も感じません。



なぜ何も感じないのかというと
重力にはマイナスの力がないから。



「ブラジルの人、聞こえますか~」
と下を向いて言ってみても
残念ながらブラジルの人に聞こえる前に
いろんな力によって打ち消されてしまいます。


今、身の回りのいろんな現象を起こしている力は
力のはたらく距離が短かったり
プラスとマイナスの力が打ち消しあったりして
広く伝わる前に存在しなくなってしまうんですね。



ですが重力波は
誰にも邪魔されることなく伝わってきます。


最強です。




さて重力波は
縦に伸びたり横に伸びたりするのを繰り返しながらやってきます。





みなさん、手をこんなふうにして
縦長の楕円や横長の楕円を交互に作ってみてください。





それを胸の前に作って
曲げている腕を徐々にまっすぐ前に伸ばしていってください。





そうです、それが
重力波の伝わり方です。




こうして進んできた重力波ですが、
何がやっかいかというと、
その“伸び縮み”がとてつもなく小さいのです。


どれくらい小さいかというのでよく使われる表現が、
『地球と太陽までの距離1億5000万kmが、水素原子1個分動くかどうか程度』。




…これ、どっちの大きさも分かりにくんいですよね。




まず、地球から太陽の距離を体感してみます。


時速4kmの速さで
1秒たりとも休まず
4300年歩き続けてください。


ええ、その距離です。


ちなみに月へだったら
11年歩き続ければ行けます。







次は水素原子の大きさを体感してみましょう。



みなさん、
ピンポン玉を思い浮かべてみてください。


ピンポン玉の直径は4cm。



それを東京ドームの真ん中に置いてみる。

はい、とてつもなく小さいです。


東京ドームのどこかに置いたので探してください、と言われたら
賞金100万円くらいもらっても足りないくらいの労力です。


次に、規模を広げて地球の真ん中にピンポン玉を置いてみましょう。


同じように探してください、と言われたら
20億円くらいはほしいところです。



さて、実は、
地球とピンポン玉の大きさが
ピンポン玉と水素原子の大きさと同じくらいの割合です。






こんなふうに、
とてつもなく長い距離でもほんの少し動くか動かないか、
そんな微小な時空の歪みが重力波なんですね。




重力波を観測するのはとてもとても大変なのですが、
唯一、マシにする方法があります。


それは
『重力波のみなもとが大きな運動だったら、ちょっとだけ大きな重力波が出てくれる』ということ。

つまり、重力の大きなものの運動、すなわち天体運動によってそれが得られるんです。



例えば

①光る星が歳をとり、よぼよぼになって死んでしまうときにおこる「超新星爆発」、

②中性子星やブラックホールといった2つの天体がお互いのまわりを周る「連星」、

③宇宙が誕生したときからの「宇宙マイクロ波背景放射」

などです。





でも困ったことに、①②のような天体運動は、いつ、どこで起こっているのか分からないということ。

人間が起こそうと思って起こせるものではないですよね。





今回、アメリカの干渉計LIGOで発見されたのは
②によるもの。



重力波は光の速さで進みますが
例えば地球とその連星の距離が、ほんの少し、100光年遠かったとしたら、
重力波が届くのは100年後になるので、
今回その重力波は測定できなかったということになります。



また天体運動と言っても
重力波が観測できるほどの天体運動が起こるのにも
ある程度の頻度があります。




そのときに地球上の干渉計がいい状態で稼働していたかという運も
必要になってくるわけです。







さあ、それではそんなに小さな重力波を
どんなふうに観測するのでしょうか。





先ほどから、干渉計 干渉計と言っていますが、
L字型の腕が伸び縮みするマイケルソン干渉計という装置を使います。


上から見た図はこんな感じ。







この干渉計がやっていることは、

・レーザー光源から出たレーザーがビームスプリッターで鏡Aと鏡Bの2方向に分けられる。

・それぞれの鏡で反射した光が再びビームスプリッターを通過してセンサーに集められる。

です。




もし重力波がきた場合、
思い出してほしいのですが
縦に伸びたり横に伸びたりを繰り返しながらやってくるので、
鏡Aのアームが鏡Bのアームより長くなったり
逆に鏡Bのアームが鏡Bのアームより長くなったりします。


(だからこんなL字の形なんです。)



2方向に分けられたレーザー光の進む距離が変わる、
これをセンサーで確かめるというのが
大まかな流れです。



どうしてセンサーで分かるかというと
こういうことです。







レーザー光という可視化できるジャンルに落とし込んで
見えないものを感じるんですね。



さて
現実的に干渉計、
つまり重力波望遠鏡の建設となると
大変なことはたくさんあります。



☆アームをできるだけ長くしたい!
(なんせ地球太陽間の距離で水素原子1個分の距離の差しか生まれないから)

☆でも地球が丸いから限界がある
(アームの長さが4kmが限界)

☆いろんなノイズが邪魔をしてくる
(光、音、熱、電磁波、地面のゆれなど…)

☆感度をよくしないと観測できない
(感度が良ければ、より小さな天体運動でも重力波をとらえられる
  →観測の頻度が増える)

☆予算もおりづらかったとか…
(何に役に立つのかという話になりそうですね)






私が大学4年のときにお世話になった
国立天文台の重力波望遠鏡TAMA300は、
その名のとおりアームの長さが300mのものでした。


緻密な調整を日々重ね
TAMA300は
銀河系で10万年に1度起こるくらいの規模の天体運動で発生する重力波を
とらえられる感度を得ました。



それを
1年に数回レベルの規模の天体運動で発生する重力波をとらえるには
感度を2ケタ向上させる必要がありました。



2ケタ向上させる…
これはすごいことです。


私の年収を2ケタあげることを考えると
えーっと、
0を2つ増やして…






…すごいですね。2ケタの壁は。





感度を上げることによって
さらに遠くの
多くのものを見ることができるようになるんですね。



今話題の
日本の重力波望遠鏡のKAGRAは
アームの長さがそれぞれ3kmの干渉計です。





KAGRAはこの感度をきっと実現できるのではないでしょうか。






長くなってしまったので
これからの重力波観測については次回の記事で。