まほくの ADVENT 魔法使いの計画 2 | 黒緋‐クロア‐の中はこうなってます。

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 一真が竜騎士たちを消滅させたことで、多くの魔導隊員が救われつつあった。しかし、

 

『……ちょっと』

 

 同時に、少数ではあるものの、救われず……報われなかった者たちがいた。黒の魔法に対抗するために、3人で竜騎士を召喚した、麻美たちだ。一真がどこまでを考えて3人に9つの鍵を受け継がせたかはわからないが、使うべきは確実に今だったはずだ。間違いなく、3人が居なければ現状は悪い方向に変わっていただろう。大活躍だ。それなのに、麻美が操作していた竜騎士は急に姿を消し、驚く間もなく自分たちの魔力は回復させられた。何事かと周りを見回せば、久城一真の所業であることが一目瞭然である。

 

「……なぁ、一真」

 

 3人からの冷たい視線に気づいたのは、暖だった。戸惑いと悲しみと、微かに怒りが混じり合ったそれが、一真に突き刺さっているのがはっきりとわかる。だが、一真は床に視線を向けたまま、反応を示さない。

 

「なぁ。なぁって、一真」

 

「……何だよ、魔法組んでんだから集中させろよ」

 

「いや、多分……だけどな、あの……最優先は、あっち……かも」

 

「は? 何……?」

 

 作業を中断し、一真が暖を見上げると、暖は何とも言えない表情で、魔導隊の方向を向いていた。その視線を追っていった一真が、3人を視界に入れた瞬間、

 

「……!」

 

 クラウチングスタートの要領で、一真は駆け出した。

 

 

 

 

「くそっ……化物め」

 

 身体の再構成をしつつ、黒はその場から離れる。愛から決して視線を外すことなく、優先的に距離を取るが、今や全員が脅威であり、常に全てを把握しなければならない。魔導隊から奪った魔力で、最善手を打ち続け、確実に1人ずつ倒していき……

 

(……捕まる)

 

「くっ!」

 

 黒の脳裏に、“久城一真に捕まった自分”が浮かび上がる。それは、全知の眼から得られた情報だった。視界に入るそれぞれの能力、状況、その他を総合的に判断した結果であり、黒の足掻いた先にある物……それは決して、黒の望みが叶った未来では無かった。到底受け入れられない、言うならば絶望だ。黒は“最悪のイメージ”を振り払い、自分の求める事について、改めて考える。

 

(……倒すのでは無く、逃げるのは)

 

 思考をしつつ、自身に飛んで来る魔法や雷を避ける。しかし、頭に浮かんだのは捕まるイメージだった。黒はそのイメージも、振り払う。

 

(ならば、一度魔力に戻り、世界と同化するのは)

 

 愛からの攻撃で左腕を切り裂かれつつ、頭の中で再び捕まった。

 

(くそ……せめて、久城一真だけでも道連れに!)

 

 捕まることから逃れられないとして、一矢報いることならばどうか。驚くべきことに、黒の頭に“捕まるイメージ”は出てこなかった。

 黒は期待をした。久城一真をその手で亡き者にできるという期待だ。彼にとって唯一の活路だと、心から信じた。すぐに久城一真の現状を把握しなければと、黒は視線を動かしていく。

 

「……は……」

 

 結論から言えば、それは“悪手”だった。彼が今、最もしてはいけなかったことは『久城一真に視線を向けること』だったと言える。それによって彼は、思考だけでなく、動きまで止めてしまったのだから。

 

 黒の視線の先にあった物……それは、土下座をする久城一真だった。