マジすか学園episode of欅坂 第96話 | 黒揚羽のAKB小説&マジすか学園小説ブログ

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マジすか学園の二次創作を書いています。マジすか学園を好きな方、又同じく二次創作を書いている人良かったら読んでください。






志田愛佳がラッパッパに入部した同じ頃、ここは黎明期からマジ女の“ライバル”と言われている矢場久根女子商業高校、通称ヤバ女。


マジ女に負けず劣らずの猛者が集まるヤバ女内では一足先に“1年戦争”が終結しており、1年の“テッペン”にたったのは守屋茜。平手と志田のタイマンを観に行った者だ。



そんな彼女は今、1年A組の教室におり、机上に座り、ジッと窓の外を見詰めていた。瞳は仄かな光に包まれている。



黙って彼女の背中を見詰めているのは、茜の右腕である小林由依だ。相変わらず瞳に儚さを宿している。



「ありがとう米さん。これ欲しかってん」



「別に良いよ。家にあった物だし」



「何それ?」


「たこ焼き器や」



大事そうにギュッとたこ焼き器の入った箱を抱えてそう言ったのは、黒髪をサイドテールに結い、黒色の豹柄で、背に白糸で白豹が刺繍されたスカジャンを羽織り、腰に細ベルトを巻き、そこからペンギンのぬいぐるみを吊るした可愛らしい容貌の少女、小池美波である。



彼女にたこ焼き器をプレゼントしたのは、茶髪のロングヘアーで、白色の背に黒豹が刺繍されたスカジャンに、ロングスカートを履いた、そこはかとない知的さを纏う少女、米谷奈々未である。



「たこ焼きならアタシが作ろっか?」


「ほんまに?ウチ、焼き方とか知らんから助かるわ」


「焼き方知らないのにたこ焼き器欲しかったんだ」



小池の衝撃的な発言に、米谷が苦笑しながらそう言うも、小池には届いていないのか、抱えている箱を少女に渡している。



金色の髪を肩の辺りで切り揃え、両耳に手錠の枷を模したピアスをつけ、手錠を象ったチョーカーをつけていて、制服の上から両胸元にジンバナ、背中に手錠が刺繍されたフライトジャケットに、ロングスカートを穿いた眉目秀麗な少女、鈴本美愉が受け取り、机の上に置くと、中身を取り出す。




すると、勢い良く教室の扉が開き、1人の少女が入ってくる。パステルカラーのシルクハットを目深く被り、紫色で、複雑な模様が入ったパーカーを羽織る少女、織田奈那だ。



「ダニーっ!!!」


織田を視界に入れると、それまで無表情で冷淡な空気を纏っていた鈴本美愉の顔がパーっと晴れ、これ以上ない笑顔を見せる。
そして、織田に近付こうとするが、織田は何か覚悟を決めたような鋭い目を小林由依に向け、歩いていってしまう。


それを寂しげに、悲しげに、複雑な感情が孕んだ瞳で見送る美愉。彼女は織田に恋をしている。けれど織田は由依に恋をしている。彼女の胸に秘める淡い恋心は、叶う事のない恋なのだ。



「ゆいぽん。私とドンキーー」



「邪魔するよ」



行こうぜと誘おうとした織田の言葉に被せて、1人の女が教室に入ってきた。真紅の、右袖に“貴方の心臓を”、左袖に“射抜きます”、背に“鶴姫砲(ずきゅんほう)”と刺繍された奇抜な特攻服を羽織り、灰色のロングスカートを穿いている。



その女が現れると、教室内の空気が一変する。重く、張り詰め、並みの者なら腰を抜かすか、意識を飛ばす事になる程の空気となり、女は窓を見ている茜に近付く。



「……何の用だ?“秋元”」



茜が顔を前に向けたまま言う。彼女が呼んだ名は、ヤバ女3年にして、筆頭幹部である女の名であった。フルネームは秋元真夏という。



だが、真夏は茜の不遜な態度を見ても、表情を崩さず、垂れてきた前髪を耳にかける。



「守屋。体育館に来な。緊急の話し合いをする」



「ハッ、そんなモンに出る義理はねぇ」


「“総長命令”だ」



真夏が有無を言わせぬ強い口調で言うと、茜が初めて、首を捻って、真夏を見た。その瞳には炎が宿っており、体から士気が溢れており、場の空気を重くさせ、場の気温を上昇させる。



「どうせ来ねぇんだろ?あの“置物総長”は」



茜が真剣な眼差しを真夏に向けたまま問うと、真夏の整えられた眉がピクッと反応するも、何も言わずに茜に背を向け、歩いていく。


伝える事は伝えた。気になるなら来いと背中が語っており、茜は机上から降りる。



「どうするの?」



「気にいらねぇけど、行くしかねぇだろ」



茜がぶっきらぼうにそう言って、歩き出すと、由依達もその後に続き、教室を出ていった。






「ーーだから、そういうのには出ないと、言った筈です」



冷たく、突き放すような言葉が、静粛な図書室に響き渡る。6人程が腰掛けられる大きさのテーブル席に座した、眼鏡をかけ、蜂蜜色に染められた長髪を背中に流し、ヤバ女の制服をキチンと着用した女性が、冷めた目を佇んでいる女に投げた。



向けられた女は彼女の言葉に、ショートカットの髪を掻いた。丈の短いセーラー服の前を全開にし、中に着ている灰色のタンクトップが見えている。スカートはロング丈で、両手をレザーの手袋で包んだ彼女は、若月佑美。


ヤバ女の“副総長”。つまりNo.2だ。



「ってもな、お前の名前で“集合”かけたんだよ。あの“一年坊達”にもな」



“一年坊”と聞き、女性の表情が僅かに揺れた。想起する記憶。何度やられても立ち上がり、紅蓮の、見る者の戦意を焼き焦がすような“熱”を持った少女。



けれど、女性は読んでいた本を閉じる事で、脳裏に浮かんできた記憶も、沸き上がってくる感情も消し去った。



「それは貴女が勝手にやった事でしょ?兎に角私は出ないので……」



「周りの奴等は私が“総長”だと思ってる。お前がウチの“テッペン”なのにな……おまけに“置物総長”なんて言う奴もいる」



「“置物総長”……ですか。的を得ていますね」



フッと自虐的な笑みを浮かべて、席を立つ女。若月はふざけるなと歩いていく彼女の肩に手を置いた。



「……お前の“熱”は冷めたって言うのか?“玲香”」



「……ヤバ女と事は貴女に任せると、言いましたよね?佑美」



女性、ヤバ女総長の桜井玲香の言葉に、若月は顔を歪めた。“昔”とは違う呼び方に、彼女との距離を感じ、彼女の“熱”が消えていると、思ってしまう。



「……私は“置物”で良いんです。貴女のような人が、ヤバ女を纏め、守っていくんです」



その他人行儀な言葉に、若月は顔を俯かせ、唇を噛んだ。そして遠ざかっていく足音を聞きながら、心を痛め、彼女も逆方向に歩いていく。



玲香がふと、足を止めて振り返る。自分に背中を向けて歩いていく親友に、そっと言葉を投げた。



「……ごめんね、“若”。でも、私にはもう無理なんだよ」



今にも消えそうな儚げな視線を切り、彼女はまた歩き出す。泣きそうな、悲しい顔でーー。






体育館。
茜達が到着すると、既に館内には真夏を含めた4人の幹部がおり、茜達が中に入ると、4人の視線が彼女達に集中する。



興味がない者、敵意のある者、愛情がある者、期待する者、4者4様の感情が孕んでいる。
ただ、茜は真夏達を見ておらず、彼女の視線の先には“カラの玉座”がある。


“総長”だけが座る事を許されている椅子には本来いるべき者の姿はなく、かけられている黒のファージャケットが寂しげに揺れている。



その隣には“副総長”である若月佑美が立っており、茜は舌打ちしたい気分に駆られた。話し合いの内容なんて興味はない。
茜はただ、そこに座る人物に会う為にだけにここに来たのだ。



「揃ったな?始めるぞ」



けれど結局、そこに座す者が現れる事はなく、若月の一言で、真夏達の視線が茜達から壇上に向けられた。



「昨日、マジ女の平手と志田がタイマンを張った話は聞いているな?平手は“ラッパッパ”を復活させようとしている。私達にとって、平手は“危険な存在”だ……」



「じゃあ〜潰せば良いじゃないですかぁ〜」



若月が淡々と話していると、気怠げな声でそう言った女がいた。床に座り込んでおり、金髪をポニーテールに結い上げ、前髪をセンター分けにしており、サングラスを髪に刺し、アクセサリーで派手に装飾された制服の上から紅梅色のブルゾンを羽織り、ミニスカートに、ロングブーツを履いた、ヤバ女3年、幹部の衛藤美彩だ。



「そういう訳にはいかない。あそこの“テッペン”は軽音楽部だ。奴等を無視して動く事なんて出来ない」



「じゃあ、どうするんですか?」



茶髪を胸元の辺りまで伸ばし、トライバルの模様が描かれたオフショルダーを着用し、腰に同じ柄のパレオを巻き、ロングスカートを穿く、幹部の能條愛未が、やや鋭い目を若月に向けて、問うた。



「……静観だな。志田がラッパッパに入部しようが、しまいが、私達より先に軽音楽部が動く筈だ」



「んじゃ、もう帰って良いよな?」



話が静観でまとまると、茜がやや乱暴な口調でそう言うと、能條が鋭い視線を投げた。茜も負けじと睨み返す。



場の空気が重い方向に流れようとした時、1人の女が、能條の肩を叩き、茜達に向日葵のような笑顔を向ける。



「良いよ、帰りな」



制服の上からグレーのカーディガンを羽織った女、幹部の高山一実がそう言うと、茜達は背を向けて、歩いていく。


能條が一実を睨みつけるも、一実は笑顔を浮かべたままだった。



「良いんですかぁ〜?アレで」



「良いんだよ、“今”はな」



衛藤の言葉に、若月がそう返す。聞いた本人はさして興味ないのか、そうですか〜とブルゾンのポケットからスマホを取り出し、弄りはじめる。



若月は扉から出て行く茜達の背を見て、グッと拳を握り締める。



(……玲香の“熱”を取り戻せるのは、やっぱり……アイツなのか?……)



熱を失い、冷めてしまった親友。彼女の失った“熱”を再び燃えさせるのは茜達なのだろう。何も出来ない自分の無力さを嘆きたい気分だが、若月は信じている。



ヤバ女総長、桜井玲香が再びこの椅子に座す事を。それまで、この“カラの玉座”は自分が守ると誓う。そんな彼女の横顔を、真夏達はしっかりと見ていた。




「早くやりたいぜ、平手」



茜は渡り廊下を歩きながら、血を滾らせていた。瞳が段々と細くなり、獅子のような鋭利さに、大炎を纏わす。



そして昨日の平手の姿を思い浮かべながら来たる日が早い事を祈る。その背中を複雑そうに見詰める由依の瞳を、少しずつ“影”が覆い尽くそうとしていたーー。






「何見とんねん?潰すぞ、ワレ」



「あ?やってみぃやコラァ」



看護服を着た女達が掴み合い、殴り合っている。人を治す“看護師”が、人を傷付けているという矛盾を孕むここは“激尾古高校・看護科”である。



「そうか、志田が負けたんか……」



総長室と書かれた室内で、窓の外から荒れた校庭を見下ろしながら、報告を受けた女は羽織っているヒョウ柄のロングコートのポケットから右手を出し、脇にある棚上に置いてあるフルーツの盛り合わせの中から林檎を取ると、そのままかぶりついた。



唇の端から汁が滴るのも気にせず、顎の力で林檎に食らいつく姿は酷く獰猛であり、鋭い瞳に“野生”さを帯びる。



「アカンで?美瑠。つまみ食いは」



レザー生地の1人掛けソファーに腰掛け、本を読んでいる女がそう言った。茶髪のポニーテールに、ヒョウ柄の看護服の上から背に虎が刺繍された青色のスカジャンに、ヒョウ柄のロングスカートを穿いた、激尾古高校・看護科2年、“副総長”の太田夢莉だ。


美瑠と呼ばれた女、激尾古高校・看護科2年にして“テッペン”の白間美瑠は、彼女の言葉に口にしようとしていた林檎を下ろす。



「分かっとるわ、一々言われんでもな」



「なら、ええけど」



美瑠が食べかけの林檎を棚上に置き、振り返る。ゾッとする程の艶やかな顔立ち。長い睫毛に縁取られた瞳はやや鋭く、高い鼻梁、真紅のルージュが塗られた唇が彼女の妖艶さに一役買っていた。
コートの懐からハンカチを取り出し、口元を拭う姿が蠱惑的で、ヒョウ柄のソファーにドカッと腰を下ろす。



「それで、まだ何か用があるんか?楓子」



美瑠の目の先には、両手を後ろで組んで、立っている矢倉楓子の姿があった。



「姐さん。ウチに平手をやらせてください」



「せやからアカン、言うとるやろ?」



矢倉の言葉に、本から顔を上げ、鋭い目を向けた太田が言う。矢倉は唇を噛み、組んでいる手が、ワナワナと震えてくる。それは怒りなのか、別の感情なのか、矢倉自身にも分からない。



「楓子。肉はな熟せば熟すほど美味なるんや」



「……どういう事ですか?」



「“時期”を待て、言うことや」



美瑠がそう言うと、矢倉はこれ以上何を言っても無駄だろうと思い、頭を下げ、総長室を出ていった。




「けったくそ悪いわっ!!!」



総長室を出た矢倉は、腹の底から沸き上がってくる感情を爆発させ、置いてある椅子を蹴り飛ばす。派手な音をたてて、転がっていく。



それでも、彼女と中にある感情は消えない。昨日の平手の目が、彼女の感情を“黒”にする。
さっさと潰せば良い、何が“時期”だと爪が肉に食い込む程、力強く拳を握る。



「荒れとるなぁ、楓子」



そんな楓子に声をかけた女がいた。艶やかな黒髪をショートヘアーに整え、看護服の上から黒色のライダースジャケットに、ロングスカートを穿いた、看護科3年の城恵理子だった。



「じょー姐さん……」



「美瑠に言われた事、気にしとるんか?」



「それは……」



「隠さんでええ。美瑠はな“今”は待て、そう言いたいんや。その時が来たら、腹の中に溜まってるモン、全部ぶつけたったらええんや」



城が矢倉の肩に手を置いて、優しい声音でそう言うと、スーッと霧が晴れるように、黒かった感情が消えていく。



「……はい」



矢倉が力強く頷き、城に頭を下げて、歩いていく。その瞳が獲物を求めるように、ギラギラとした鈍い輝きを放ちはじめる。



「ええ感じやんか……“次世代”も」



矢倉の背中を見送った城がそう言うと、微笑み、歩いていったーー。






続く。



新キャラのオンパレードですね。