マジすか学園episodeof欅坂 第69話 | 黒揚羽のAKB小説&マジすか学園小説ブログ

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マジすか学園の二次創作を書いています。マジすか学園を好きな方、又同じく二次創作を書いている人良かったら読んでください。





『悩むなら、何か行動を起こしてからにしろ。話はそれから聞いてやる……』





渡り廊下に漂うどんよりとした空気。
その隅で蹲って、泣いていた梨加の脳裏に昨夜小嶋陽菜の言葉が再生された。
行動を起こす。つまり階段を上るという事。その後で、悩めば良い、小嶋はそう言っているのだ。



それは今まで梨加がしてこなかった事だ。
悩みならずっとあった。行動も起こしたかった。けれど不安や恐怖でいざとなると体が縛り付けられたように動かなくなった。
けれどこのままじゃ駄目なのは、誰よりも梨加が感じていた。



助けられてばかりじゃいけないのだ。
自分の足で立てるようにならなくてはいけないのだ。梨加は震える手で涙を拭い、アオコを見る。


アオコはいつだって梨加を見守ってきた。
アオコをプレゼントとして貰った時からずっと一緒だ。寝る時も、お風呂の時も。
大切だから、親友だから。誰一人として友達がいなかった梨加に初めて出来た親友。
いや、アオコで“2人目”だ。


「……アオコ」


貴女はどう思う。今のままで良いのか、怖いけど勇気を持って、足を踏み出すか。しかしアオコは答えてくれない。まるで、答えを出すのは君だよと言っているようだ。



梨加は己に問うた。どうしたいと。
このまま嫌な事から背を向ける人生を歩むか、例え無理だったとしても前を向いて見るか。誰かに頼ったり、誰かに助けられたりするのではなく、自分が誰かを助けたり、頼られるようになるのか。どうしたいのだと。



答えは最初から決まっていた。
梨加は立ち上がる。その足は震えている。
胸中に浮かぶは恐怖。けれど、大丈夫、勇気を持とうと瞳に光を宿し、渡り廊下を出て、ラッパッパの部室へと向かう。



ーーもう、誰かに頼って生きるのは嫌なのーー。




ラッパッパの部室が近付くにつれて、恐怖心も増していく。廊下を歩き、階段を登るその足の震えは強くなり、先程輝いた瞳は彼女の胸中に巣食うネガティブな感情により、暗く、曇天のように影を帯びていた。
それでも、足を進ませるのは、助けられるだけの人間でいたくないからだ。


その決意が彼女の足を進ませていた。
これまでの人生で、自分で何かを決め、歩いた事なんて殆どない。しかしマジ女に来たのは自分の希望だ。小嶋に勧められ、自分なりに考え、入学するという答えを出し、ここにいる。


誰かと一緒にいたい。自分が居てもいい居場所が欲しい。ラッパッパがそうなのかは分からない。けれど、もう1人は嫌なんだと内心で叫び、歩いていく。彼女は弱い自分と決別する事にした。弱い自分と決別するには階段を登らなくてはならない。



自分がマジ女に入学して、まだ一度も出来ていない事をすることで、弱い自分から脱却する。



そう決断した彼女の前にラッパッパの部室へと続く階段がまるで地獄への入り口のように聳え立っている。ここを登れば良い。
そう登るだけ。なのに、心臓は破裂しそうな勢いで脈打ち、胸中はざわざわと虫が這うように感情が蠢き、体は震え、瞳は揺れる。


何もしていないのに額に汗が滲み、手の平も手汗でべったりと湿っている。梨加はハンカチで手の平を拭うと、階段を見上げる。



「……行こう」



怖い。でも、行かないと駄目なのだ。ここで逃げてしまえばきっともう自分は何も出来ないだろう。変わりたいなら勇気を持たなくてはならない。変わりたいという気持ちがあっても、行動を起こさなくては何も変わらない。


変わる事は怖い事なのかもしれない。
でも、変わりたいと思う気持ちは誰にでもあり、それを否定する者はいないだろう。


この先に何が待ち受けていようとも、彼女は変わるだろう。たかが階段を登っただけ。そうじゃない。登った事に意味がある。



こんな自分を助けてくれた人がいた。
『大丈夫』と支えてくれた平手、『また何かあったら頼ってね』と言ってくれたねる。『……別に助けた訳じゃない』と助けてくれたのにそう言った志田愛佳。この人達に返したい。受けた恩を、その優しさを温かさを。その為にはここを登る。



「よう〜渡辺梨加」



しかし、少女の決意を踏み躙ろうとする者達がいた。先程梨加を殴る蹴るしていたMighty Dogの女達だ。平手にコテンパンにやられたというのに、懲りていないようだ。


その証拠にニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべ、粘着力のある瞳を梨加に向けていた。



「さっきは邪魔されちまったからなぁ〜来いよ」



「……イヤ」



女達が迫ってくると、梨加は体を強張らせながらも小さな声で拒絶した。それは初めて梨加が抵抗した瞬間だった。


今まで梨加は抵抗した事がなかった。
それは人の悪意の前では抵抗など意味ないんだと彼女は知っているからだ。だが、抵抗した。ここで抵抗しなければ階段を登る事が出来ないからだ。



「……ラッパッパがバックにいるからってよぉ、調子こいてんじゃねえぞ?マジで殺してやるよ。オイっ!!!」



女が蛮声を張り上げながら梨加の髪の毛を掴み、血走る瞳で彼女を見下ろし、引っ張っていく。ブチブチと艶やかな髪が抜け、床に落ちていく。梨加はどうにかしないとと考える。このままではダメだと。



「イヤーーっ!!!」



だから叫んだ。また頼ってしまう事になる。いや届かないかもしれない。それでも梨加は叫び、首から下げていたアオコを放った。梨加は辛そうな瞳で宙を漂うアオコを見る。しかしアオコの円らな瞳は輝いていた。






 「梨加ちゃんっ!!!」



2人が階段下についた時、そこに梨加はいなかった。2人は顔を見合わせる。アオコが床に落ちている。梨加が常に首から下げているモノだ。ねるが拾い上げ、平手を見る。平手が頷く。間違えない。梨加はここにいて、何かに巻き込まれた。



平手の瞳が力強い光を宿す。あの叫びはきっと自分達へのSOSだろう。そしてアオコは自分がここに居たという証拠。2人の瞳が鈍く輝き、憤激の炎が瞳の奥で轟々と燃えたぎっていた。




「あの娘なら、体育館倉庫に連れて行かれたんじゃない?」



すると、冷めた声が2人の耳朶を打った。
視線を向けると、金色に近い茶髪のショートカットに、白のファージャケットを羽織った志田愛佳が立っていた。


どうしてここにと思ったが、取り敢えず平手は梨加の救出を優先として、ねるを志田の言っていた体育館倉庫へと向かわせ、志田と対峙する。




「どうして、私達にその話を?」


「……気まぐれだよ。意味なんかない」


「場所を知っているなら、アンタも来るか?」



平手がそう言った時、志田の双眸が闇に覆われる。光が一切なく、どこまでも闇に包まれている瞳。まるでどこかの牢獄にでも閉じ込められているように、彼女の瞳は閉鎖的だった。彼女の強大な闇を目の当たりにして、平手の額には冷や汗が浮かんだ。



「……私には誰かを助ける権利なんてないから……あの娘お願いね」



やや一方的に、無機質な声でそう言うと、志田が背を向けて歩いていく。その背中から闇が漂っていたが、平手は唇を噛み、一旦志田の闇は忘れ、梨加がいると言っていた体育館倉庫へと向かったーー。






続く。


ぺーちゃん編終わりまであと3話。





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