小説版「機動戦士Zガンダム」のハマーン様の描写が面白い。コーヒーを啜る音を立ててしまったりして、カミーユに「カワイイ」と思われてしまうほどに少女しているのだ。富野由悠季監督が本当に描きたかったのは、そんなハマーン様だったのかも知れない。

しかしカミーユとのNTとしての会合の際、己の意識の中を彼に覗き見られたハマーン様は、彼と分かり合うどころか激怒してしまう。シャアとの淡い思い出、そんな他人には知られたくはないことを、今、闘っている相手にモロに、感情から何から全て知られてしまったのだから、「オンナ」としては当然の反応だったのだろう。自分の心や想いの奥へと無断で入り込むカミーユはハマーン様には優しくはなかったのだ。彼が、十代の少年でありすぎたのだ。かつてのアムロとララァのように、求め合える相手であれば、話は違ったろうに…………

カミーユは叫ぶ

「暗黒の宇宙ㇸ帰れ」

何と残酷な一言だろうか。アステロイドベルトの深淵で、ハマーンは何度も明るい地球を夢見たはずである。その彼女に還れと言うのだ、この少年は。

最期の出会いの際も、カミーユはハマーン様に銃を向ける。深淵の闇から、ただ明るい光刺す地球圏に戻ってきたかっただけなのに…………

ニュータイプといえども、人はわかり会えないのだろうか、そんなモヤモヤしたものを、カミーユ・ビダンという少年はハマーン様の中に残したのではなかろうか。それは富野監督の抱えるジレンマでもあるのだろう