はじめに
ドラえもんがこの世に登場して半世紀の歳月が流れた。小学館は2020年12月1日に、てんとう虫コミックス『ドラえもん』豪華愛蔵版全45巻セット「100年ドラえもん」を、2022年12月1日に、てんとう虫コミックス『大長編ドラえもん』豪華愛蔵版全17巻セット「100年大長編ドラえもん」を刊行している。
両タイトルには100年の文字が挿入されており、まさに、ドラえもんマンガにおける古典化の目論みを高らかに宣言したものであると解釈できる。
ドラえもんの古典化研究において、ドラえもん作品の絵や文字が、この半世紀の間にどう変遷したかを明らかにすることは最も重要な課題の一つである。
藤子・F・不二夫大全集の『ドラえもん』や『大長編ドラえもん』の巻末には、初出掲載リストが登場している。このリストの備考欄には、●印が付与されている作品が多く認められる。下欄で、この●印は「単行本刊行時に加筆修正あり」を意味する記号であると解説している。
ドラQマンガで国民的なマンガ家になった藤子・F・不二雄は彼のマンガ人生の最盛期三十代後半にドラえもんマンガに出会い、四分の一世紀の間にてんとう虫コミックス短編と大長編、それ以外の作品において全部で1346 編という大量の作品を生み出した。
爆発的な人気に支えられてコミックはもちろん、テレビ、映画にも進出し、さらに有能なアシスタントにバックアップされ、次から次へとすばらしい魅力ある作品を日本のみならず、東南アジアの人々にも提供し続けた。
締め切りとの格闘により、必ずしも作者の十二分に納得いく形での作品公表とならなかったため、単行本採録に際しては、例えば、文学作品には認められないような大幅な改訂が施されることとなった。
ドラえもんマンガが単行本化されるにあたって、多くの作品に加筆修正が施されていることはドラえもんファンにとって、自明のことであった。しかし、どの作品のどこがどのように加筆修正されているかを詳細に分析した研究は皆無である。
アメブロの『ドラえもん作品を古典に!!』では、てんとう虫コミックスの短編と大長編以外における、第三部と命名したドラえもん全作品の文字と絵の加筆修正の実態を明らかにすることを目的としている。
分析の対象となる文字と絵
『ドラえもん作品を古典に!!』では、作品のコマに登場した吹き出しを含むあらゆるタイプの活字や手書きの文字などを文字情報として分析の対象にしている。
例えば、部屋、本棚、テレビ画面、新聞、電柱や塀などにおいて、認知可能な文字情報はすべて取り上げている。特殊な例として、時計の時刻、郵便のマーク〒、音符、意味不明の言語や記号なども文字情報をみなした。
なお、今回は活字のタイプやポイント、ルビ、傍点、手書き文字の厳格な比較、文字のカラー化、低学年の雑誌に多用されている分かち書きは分析対象から除外された。
コマの絵に関しては、分析に使用した資料のサイズが必ずしも一致しないので、コマにおける登場人物や背景の輪郭を中心にして加筆修正を分析した。したがって、コマの絵の濃淡や鮮明度は分析対象から除外された。
第三部では、てんとう虫コミックス短編全45巻、大長編全17巻以外に登場しているドラえもんの全作品を分析の対象にしている。
タイトル欄
第三部のタイトル欄のⅠのABC群におけるAは藤子・F・不二雄大全集、Bは単行本、Cは初出掲載誌といった作品分類を表している。また、ABCD群におけるAは「100年ドラえもん」の第0巻、Bは藤子・F・不二雄大全集、Cは単行本、Dは初出掲載誌を表している。
タイトル欄のⅡは巻数、Ⅲは巻に登場した作品の順位番号、Ⅳは西暦の発行年月である。
吹き出しなどの欄
単行本であるB のⅡ
1〇・〇はてんとう虫コミックスドラえもんプラス全6巻及び巻数
2023年12月発行のドラえもんプラス7巻とドラミちゃん(1・88として)を新しく追加した。
2〇・〇はてんとう虫コミックススペシャルドラえもんカラー作品集全6巻及び巻数
3〇・〇はぴっかぴかコミックスドラえもん全18巻とぴっかぴかコミックススペシャルカラー版ドラえもん及び巻数
4〇・〇はてんとう虫コミックス未収録作品スペシャル全25巻及び巻数
単行本であるB のⅢとⅣ
Ⅲは巻に登場した作品の順位番号、Ⅳは西暦の発行年月である。
初出誌であるCのⅡ
1は小学一年生
2は小学二年生
3は小学三年生
4は小学四年生
5は小学五年生
6は小学六年生
7はてれびくん
8は小学生ブック
9は少年サンデー
10は月刊コロコロコミック
11は入学準備号
13よいこ
14幼稚園
タイトル欄CのⅢはダミーの1、Ⅳは西暦の発行年月である。
吹き出しなどの欄
Ⅰは作品分類、Ⅱは頁、Ⅲは頁のコマ番号、Ⅳは加筆修正の判定結果を表している。
タイトルの末尾の◎印
藤子・F・不二雄大全集の巻末に「単行本刊行時に加筆修正あり」と明記された作品である。
藤子・F・不二夫大全集の『ドラえもん』や『大長編ドラえもん』の巻末には、初出掲載リストが登場している。このリストの備考欄には、●印が付与されている作品が多く認められる。下欄で、この●印は「単行本刊行時に加筆修正あり」を意味する記号であると解説している。
ドラえもんマンガが単行本化されるにあたって、多くの作品に加筆修正が施されていることはドラえもんファンにとって、自明のことであった。しかし、どの作品のどこがどのように加筆修正されているかを詳細に分析した研究は皆無である。
加筆修正の判定基準
文字情報
『ドラえもん作品を古典に!!』では、コマの「挿入」、「削除」、「変更」、「転置」、コマの一部の「変更*」、「挿入*」、「削除*」といった七つのカテゴリーが加筆修正の判定に用いられている。
単行本では、初出誌にない新しい吹き出しなどのコマ「挿入」、「削除」、「変更」、初出誌のコマが単行本で全く違った場所に移動する「転置」、初出誌のコマの一部の吹き出しなどの「変更*」、「挿入*」、「削除*」のカテゴリーを用いた。
初出誌では、単行本になってなくなった吹き出しなどの「削除」、コマにあった吹き出しなどの一部「削除*」のカテゴリーを用いた。単行本と大全集との比較においても、同じカテゴリーが採択された。
吹き出しなどの判定において、上記以外に●印と◎印を採択した。
◎印は
A,C群、A、B、C 群、A、B、C、Dの群における吹き出しなどの文字情報が完全に一致した場合、この◎印の記号を用いた。
●印は
1)吹き出しなどの読点の有無や読点の位置の不一致
2)中黒の個数の不一致
3)感嘆符の個数の不一致やイタリックの有無
4)!?と!、!?と?の場合
5)句点の有無
6)文末の不一致
7)文章の中のーの有無
8)漢字とひらがなまたはカタカナの不一致
9)送り仮名の不一致
10)洋数字と漢数字の不一致
などに用いた。
絵情報
A,C群、A、B、C 群、A、B、C、Dの群における絵の情報が完全に一致した場合、P(コマの絵)の欄に▼印の記号を用いた。
コマの絵に加筆修正があった場合、Pの欄に「挿入」、「削除」、「■」のカテゴリーを用いた。「■」の場合は「小規模」、「中規模」、「全面」、「コマの拡大・縮小」の四つのカテゴリーに分類された。
詳細はアメブロの『ドラえもんマンガの古典化大作戦』
http://ameblo.jp/kuro-yokoyama/ を参照してください。