映画2112年ドラえもん誕生[★★★]

[初出誌] 『映画2112年ドラえもん誕生』、「てんとう虫コミックス アニメ版」1995年8月25日初版第1刷発行、125頁、507コマ

 

 この作品はドラえもんの「正典の定義」に一致しない。てんとう虫コミックスのアニメ版であり、原作は藤子先生になっているが、アニメ・シンエイ動画と明記された作品である。

 

  しかしながら、巻末に藤子先生が二ページに渡って、コメントを書かれ、「混乱している情報を整理する意味でこのアニメを作りました」と謳われている。ドラえもんの古典化の必須文献であるので、敢えてドラえもんの正典に位置付けて採録している。

 

 藤子先生は196911月、新連載の締め切りも迫っていたが、アイディアも浮かばず、職場から自宅に帰って考えることになった。机の前に座って、「タイムマシンでもあれば、未来へ行って、自分のまんがのアイディアをぬすんでこられるのになあ~」と思案に暮れていた………。

 

 2112年、マツシバロボット工場では、ネコ型ロボットドラえもん製造の真っ最中であった。工場の上空では、悪党のドルマンスタインとタイムパトロール隊の熾烈な空中戦が展開されていた。ドルマンスタインがタイムワープで逃げるときに、発射した武器がロボット工場を直撃した。

 

 工場内に電気ショートが駆けめぐり、ベルトコンベア上のドラえもんの一体が電気ショックを受け、ベルトから落下してしまった。そして、ゴミ運搬機の中に「ドサッ」と落ち、ゴミ焼却炉に捨てられる寸前、ダンシングロボットであるノラミャー子に辛うじて救出された。そのロボットこそ我らのドラえもんであった。

 

 人間の子守り用として開発されたネコ型ロボットは、ロボット養成学校で教育を受けることになった。多くのロボットの中で、我らのドラえもんだけが、ロボット学校の校長先生である寺尾台博士から、「どうも君はできが悪いというか、個性的というか…」と評価も芳しくありません。

 

 さらに、「製造中にネジが一本抜けたとか。高いところから落ちたとか?」と指摘されるたびごとに、ドラえもんはドキドキものであった。「あんまり成績の悪いロボットは溶鉱炉で溶かされるんだ」と冗談に言われたときには、ドラえもんは腰が抜けてしまった。ドラえもんは校長先生より、もっと個性の生かされるクラスへ転入するよう申し渡された。

 

 ドラえもんは新しいクラスで、ノラミャー子と一緒になった。ジャイベエとスネキチが落ちこぼれには『四次元ポケット』を使いこなせないから、おれたちに貸せと追い掛けてきたので、ポケットからひみつ道具を出したが、トンチンカンなものばかりであった。二人につかまってしまったが、ノラミャー子が危機を救ってくれた。

 

 ドジでのろまで全然いいところのないドラえもんは明日の卒業オーディションのことで大いに悩んでいた。ノラミャー子が元気付け、「タイムポケット」から、20世紀のお菓子、ドラ焼きを出して、食べさせてくれた。あまりのおいしさに、何個も何個も、「パク モグモグ ゴックン」と平らげてしまった。

 

 ロボットオーディションは全国に中継され、欲しいロボットは家庭のOKボタンで申し込むことができた。ガンマン・ロボットのドラ・ザ・キッド、コザックダンスの得意なドラニコフが次々にスカウトされた。

 

 歌が得意なジャイベイも、ドラえもんの『ウグイス印のおまんじゅう』の助けを借り、おしゃべりロボットのスネキチも、『キンチョードリ』の助けを借り、二人とも無事スカウトされた。ダンシングロボットのノラミャー子は十七個のOKサインを獲得した。

 

 最後に登場した、子守り用ロボットのドラえもんは赤ちゃんをあやしたり、散歩に連れ出したりしたが、失敗の連続で、いいところは全くなかった。司会者の「残念ですがそろそろ時間です」と言われた時、赤ちゃんからの直接OKサインによって、ドラえもんも辛うじて合格することができた。

 

 パパもママも、間違えてボタンを押したことを知って困惑していたが、セワシがドラえもんに非常になついているため、子守りをお願いすることになった。ある日、昼寝をしていたら、セワシが工作用ロボットに間違った指示を出したため、ドラえもんは耳をかじられてしまった。

 

 早速、病院に入院して、耳の手術を受けることになった。手術中、C調な医師がドラえもんのクシャミで、よろめいて機械に「ゴン」とぶつかったため、手術は失敗に終わってしまった。

 

 入院中見舞いに来た、ノラミャー子がドラえもんの「アッタマテッカテ~カ~」の状態を見て、「はははは うふふふ あははは ケラケラ…」と笑いが止まらなくなってしまった。

 

 大きなショックを受けて、気落ちしていたが、「くよくよしてもしょうがない!」と決心して、『元気の素』を飲むと、「ぼくはなんて不幸なんだ…うわ~ん うわ~ あ~あ~ あ~ん」と号泣し出した。

 

 子守り用ロボットの補助役として開発された妹ロボットであるドラミちゃんがドラえもんを探しに行くと、ドラえもんは憔悴しきって、浜辺に座っていた。

 

 ドラミの顔を見ると、突然泣き出し、「三日三晩泣き続けたら震動で体のメッキがはがれるし、のどはがらがらになるし、ぼくはもうダメだ~っ」と言いながらドラミに抱きついてきた。ドラえもんが飲んだのは、『悲劇の素』であると判明した。

 

 ドラミちゃんから、セワシが迷子になっている話を聞いて、「元気の素」を飲んで探しに出かけようとしたら、誤って『デンコーセッカ』を飲んでしまった。飲むと動きが止まらなくなるので、のび太は猛スピードで、海を横切りながら、セワシを探しに出かけた。

 

 空中では、ドルマンスタインがタイムパトロールに追跡されていた。形勢不利と見た、ドルマンスタインはたまたま眼下にセワシの姿を見たので、セワシを人質に取ることになり、人質で追跡を交わそうとしていた。

 

 人質になったセワシが空中でドラえもんに助けを求めたので、それを聞きつけたドラえもんはドルマンスタインの戦闘機に飛びついて、戦闘機の出力を低下させ、焼却炉に撃墜させた。

 

 セワシを救出したところへ、ノラミャー子がやって来て、「ごめんなさい。わたし笑いすぎてアゴはずれたの。あなたの気持ちがわかったわ。その頭も青い体もすてきよ! 声もセクシー! ますます好きになっちゃうー」と抱きつかれた。ドラえもんは顔を真っ赤にして、ただ「デヘヘヘヘ」と笑うばかりであった。

 

 クリスマスの日、ドラえもんはセワシから手作りのドラえもんをプレゼントされた。ドラえもんが「ぼくプレゼントないんだよ」と白状すると、セワシは「ドラえもんがずっと友達でいてくれるので、一番のプレゼントだよ」と言ってくれた。

 

サンタクロースに扮した校長先生がドラえもんの手柄を称えた特別記念版として、『ミニドラえもん』を生産することを知らせてくれた。

 

 さらに、クリスマスプレゼントとして、新しい『四次元ポケット』を贈呈してくれた。校長先生のリクエストで、乾杯のひみつ道具『乾杯の種』を取り出し、みんなと一緒に「メリクリスマ~ス」と祝しながら、乾杯した。

 

 パーティ終了後、ドラえもんは「タイムマシン」に乗って、「セワシくんが幸せにくらせるように、最もできの悪いご先祖様の歴史を修正する旅に出ました。ドラえもんは「野比のび太くん…君を幸せにすることがセワシくんへのぼくからのクリスマスプレゼントなんだ」と高らかに宣言した。

 

 ドラえもんが机の引き出しから「しゅぱーん」と出てきたので、眠っていた藤子先生は思わず「うわあっ」と叫んで、「ずでーん!」と後ろへ倒れて目が覚めた。スズメが囀り、朝日が燦々と輝く、朝になっていた。藤子先生は立ち上がると、ポロンちゃんにつまずき「ポロン ポロロン」と鳴り響いた。

 

 ポロンちゃんに触発されて、一挙にアイディアがまとまり、「未来のロボット猫が……ぐうたらな男の子を助けにくる」というものであった。「そのロボットはいろんな未来の道具をポケットに持ってるんだ!」そのロボットこそ、われらの愛すべきドラえもんであった。

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