ゆうれい城へ引っこし[★★★]
[初出誌] 『古城のゆうれい』、「少年サンデー増刊」1976年6月15日号、24頁、163コマ
[単行本] 『ゆうれい城へ引っこし』、「てんとう虫コミックス ドラえもん短編第12巻」1976年12月25日 初版第1刷発行、31頁、203コマ
[大全集] 『ゆうれい城へ引っこし』、「藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 20」2012年9月30日 初版第1刷発行、31頁、203コマ
[梗概] のび太のパパが土地を探しに行ったが、会社まで遠くて、その上、谷底みたいなところで、ちょっとした雨でも水びだしになるようなところであった。用意できる資金は一千万円がせいいっぱいだし、ローンや退職金を前借りしても、近くていい土地には全く手が出ない状況であったので、当分借家暮らしが続きそうであった。
その話を聞いていたのび太はもう少しユメのある話はないものかとドラえもんに尋ねると、ドイツへ行ってお城を買おうという話題を出してきた。週刊誌のドイツの売り城特集によれば、ドイツには現在一万五千の城があり、売り物もかなりあるが、なかなか買い手がつかないという状況である。
その中でも、ミュンヒハウゼン城なんかたったの一千万だという話を聞いて、のび太は一千万ならパパが出せる資金であると思った。
パパやママに話しても通じる話題でなかったので、ひとまず、ふたりで「どこでもドア」を使って、下見に出掛けた。ドイツと日本の間には八時間の時差があるので、ドイツのミュンヒハウゼン城についたときは真っ暗であった。真っ暗な城の中を歩いていると、ローソクを持った女の人がドラえもんに話し掛けてきた。
ドラえもんは『ほん訳コンニャク』を食べていたので、相手のドイツ語が日本語に聞こえ、こっちの日本語がドイツ語に聞こえるようになっていた。
女の人はこの城の持ち主で、名前はロッテ・ミュンヒハウゼンという独身の女性であった。税金のためこの城を手放さなければいけない状況になっていたが、おじの弁護士であるヨーゼフはこの城を売ることになぜか反対していた。そして、この城にはゆうれいがでると噂を流している人でもあった。
パパやママを説得して、ひとまず「どこでもドア」を使って、お城の見学に出掛けることにした。パパはリュックサックと右手にゲタ、ママは唐草模様の風呂敷に包んだ荷物と、左手にヤカンを持っているので、のび太は「ちょっとイメージがずれている」と思わざるを得なかった。
お城はとても古くて広かったので、のび太とドラえもんはジャンケンをしてかくれんぼを始め出した。ママはほこりっぽいのでそうじを始め、パパは自分の部屋をさがしているとき、「どこでもドア」から「リリリン」と電話が鳴ったので、出掛けると間違い電話であった。
しばらくすると、ガス代の集金がきたので、ママを駆けずり回ってさがすと,忙しいから払っておいてくださいと頼まれてしまった。財布をこの広い城のどの部屋に置いたかを忘れてしまったので、大騒ぎになってしまった。
ママも、いくら掃除してもきりがないといって,ふたりはとてもじゃないがこんな所に住めないよといって、「どこでもドア」から日本に帰ってしまった。
のび太とドラえもんは最近の親には、根性がないと愚痴っていた。しばらくすると、遠くの方から「ガチャ ガチャ」と不愉快な音が聞こえてきた。飾ってあるよろいが「ガチャ ガチャ ゲゲ ゲゲゲ ガチャ ガチャ」と動き出したので、ふたりは「ギャ ア ア ア」と絶叫しながら、パパとママと同じように、「どこでもドア」から日本に帰り、あの城を買うことを断念してしまった。
お城では、ロッテがよろいの中におじのヨーゼフが入っていることに気づいたので、「カーンカーン カーン カーン」と音を残して、逃げるよろいを懸命に追い掛けた。
隠しトビラの裏側には、ただの伝説であると思っていたひみつの抜け穴があることがわかったので、その中へ入っていくと、突然、「ガチャン」とトビラを閉められてしまった。
ママが新聞を読んでいて、お城を見学にいった日、ロッテ・ミュンヒハウゼンという娘さんが自分の城の中で消えちゃったという記事を見つけた。その記事には、「捜査は城のすみずみまで行われたが、ついに発見されなかった。亡霊のたたりなどといううわさも…」と書かれていた。
のび太は「くさいよ! 犯罪のにおいがするよ!! ロッテさんがあぶない! たすけにいかなくちゃ!!」とドラえもんに訴えたが、ゆうれいのことを考えると、二度とあのような怖い思いは体験したくなかった。ドラえもんがじっくり考えて、ゆうれいに対抗する方法を発見したので、三度目の城へ出掛けることにした。
お城では、ヨーゼフがお城が他人にわたる前に、先祖が埋めたという財宝を発見するため、あちこち掘り返していた。掘り返した穴から出ると、目の前に、ご先祖さまである、エーリッヒ・フォン・ミュンヒハウゼン男爵が立っていた。
ヨーゼフがスコップを持って襲いかかると、男爵は剣でスコップをたたき落とし、「家名を汚す者め!!」と糾弾しながら、「ハアッ ハアッ ハアーッ ハアーッ」と喘ぎながら逃げるヨーゼフを追い掛けた。
突然、ヨーゼフの前に、ドラえもんとのび太が立ちふさがり、追い掛けてきた男爵から「ロッテをどこにかくした!?」と詰問されたので、白状したところへ行ってみると、幽閉されていたロッテを発見することができた。
ドラえもんは「タイムマシン」を使って、五百年前の男爵の寝室に行って、子孫の危機を訴えたので、この城に飛んできてもらうことができた。男爵がロッテをじっくり見て、「年月をへだててもわが妻におもかげがのこっている」と感激していた。
男爵がロッテに「聞けば苦労しておるそうな」と声を掛けると、「いえそれほどでも…」と答えている。男爵は「弱音をはかぬところが気にいった。いい子じゃ」と言いながら、「こんな時にそなえて、わしは財宝をのこしたのじゃ!!」とみんなに披露している。
午前五時であったので、城の外へ出ると、男爵は「ミュンヒハウゼン家をもりたてるのじゃ。昔日の栄光をとりもどすのじゃ!」と左手をロッテの肩に置いて励し、ロッテも「はいっ、しっかりやります」と元気いっぱいに答えていた。
この麗しい光景を見て、ドラえもんは「けっきょく城を買うゆめはゆめのままでおわったね」と、のび太に語りかけていた。
[S2009・A1220・097606]