のび太の結婚前夜 [★★★]

[初出誌] 『結婚式の前の夜…』、「小学六年生」19818月号、10頁、59コマ

[単行本]  『のび太の結婚前夜』、「てんとう虫コミックス ドラえもん第25巻」1982825日 初版第1刷発行、12頁、71コマ

[大全集] 『のび太の結婚前夜』、「藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 92010830日 初版第1刷発行、12頁、71コマ

 

[梗概] のび太は劇の稽古とは知らなかったけれども、しずちゃんと出木杉の演ずる白雪姫のラストシーンを見て、顔を真っ赤にして「わ~っ!! 手なんかにぎっちゃってや~らしいやらし~い」と嫉妬の炎を激しく燃やしていた。

 

 家に帰って机の前で、のび太は「それにしても…。まるでほんとみたいだったなあ。このままだと、しずちゃんを出木杉にとられるのではあるまいか」と「クヨ クヨ」考える日々が続いた。ドラえもんから「そんなに心配ならタイムマシンで結婚式をみてきたら?」と催促されたが、行くまでにはかなりの時間が必要だった。

 

 ドラえもんとのび太が「タイムマシン」で結婚式場となるプリンスメロンホテルに到着した。すると、「キ・キーッ」と車の急ブレーキを掛け、大慌てで駆け込んで行く未来ののび太を見ることができた。

 

 ホテルの受付で、式場を尋ねると、「野比のび太さまと、源静香さまのお式は、あすの予定になっておりますが…」との返事であり、1日勘違いしていたことが明らかになった。ドラえもんは「いくつになってもしょうがないなあ」と嘆いた。

 

のび太は「まてよ…。式があすなら、ぼくらはどうしてここへきたの?」といった質問を発しながら、「タイムマシン」のボタンの押し間違えに気付いた。ドラえもんも「人のこといえないだろ!!」とのび太からたしなめられていた。

 

 「せっかくきたんだから、式を明日にひかえたのび太の姿をみていこうよ」とのドラえもんの提案で、野比家に行くと、ジャイアンからの電話で、のび太は忘れていた結婚式の前夜祭へ出掛けるところであった。

 

 パーティでは、出木杉から「ぼくらのアイドルだったしずちゃん…。しあわせにしてあげてくれよな、のび太くん」、スネ夫から「とうとうのび太のものになるのか」、ジャイアンから「うらやましいぞ。こいつ!! もし、しずちゃんをなかせでもしたら、おれがしょうちしねえ」と大歓迎された。

 

 のび太はまるっきりしまりのない顔で、「エヘ エヘ」と笑いながら、「わかってるわかってる。どうもありがとう」というばかりであった。パーティでは、青春の思い出に花を咲かせ、飲んだり歌ったりしながら、夜の更けるまでドンチャン騒ぎとなった。

 

  しずちゃんのことが心配になって、家に行ってみると「親子三人でお別れパーティをやった」後だった。しずちゃんのママから、「お父さんにおやすみのごあいさつをして」と言われたので、しずちゃんはパパの部屋へ行こうとした。

 

 その姿を見て、のび太が「なんか沈んでる。もっとうれしそうにウキウキしなくちゃ」と言うと、ドラえもんは「結婚の相手がきみだもんね」と軽く答えた。

 

 しずちゃんがパパの部屋に入って、パパに二度「おやすみなさい」といって部屋を出てしまった。のび太は「あれだけ? あすはおよめにいくってのに少しぐらい話があってもよさそうなもんだ」と思い、ドラえもんは「かえって話せないもんだよ。こんなときには…」といった感想であった。

 

しかし、ドラえもんは「思ってることなんでもしゃべらずにいられなくなるんだ。ふつうならてれくさくていえないようなことまでも」といったことを可能にするひみつ道具『正直電波』を取り出した。そして、その電波をしずちゃんに向けて発信した。

 

  元気よくパパの部屋に入ってきたしずちゃんは開口一番、「パパ! あたし、およめにいくのやめる!!」といった爆弾発言。『透明マント』を被って姿の見えないドラえもんとのび太は驚天動地の表情。

 

 さらに、しずちゃんは「わたしがいっちゃったらパパさびしくなるでしょ。これまでずっと甘えたりわがままいったり…、それなのにわたしのほうは、パパやママになんにもしてあげられなかったわね」と真情を述べた。

 

すると、パパはおもむろに「とんでもない。きみはぼくらにすばらしいおくり物を残していってくれるんだよ。数えきれないほどのね。最初のおくり物はきみがうまれてきてくれたことだ。午前三時ごろだったよ。きみの産声が天使のラッパみたいにきこえた。あんな楽しい音楽はきいたことがない」とソファに座り、パイプをくゆらしながら、静かに語った。

 

 ソファーから立ち上がり、絨毯の敷き詰めた部屋を数歩進み、窓際に立って、パパは「病院をでた時、かすかに東の空が白んではいたが、頭の上はまだ一面の星空だった。こんな広い宇宙の片すみに、ぼくの血をうけついだ生命がいま、うまれたんだ。そう思うとむやみに感動しちゃって。涙がとまらなかったよ」と楽しげに述懐した。

 

パパは「それからの毎日、楽しかった日、みちたりた日日の思い出こそ、きみからの最高の贈り物だったんだよ。少しぐらいさびしくても、思い出があたためてくれるさ。そんなこと気にかけなくていいんだよ」と優しくし娘に語りかけるのであった。

 

  しずちゃんの「あたし…、不安なの。うまくやっていけるかしら」との問いに対して、しずちゃんのパパはキッパリと、「やれるとも。のび太くんを信じなさい。のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ。あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね。かれなら、まちがいなくきみをしあわせにしてくれるとぼくは信じているよ」とドラえもんマンガ史上、最高の珠玉の言葉で話を結んでいる。

 

  「タイムマシン」で帰ったのび太とドラえもんは次の日、しずちゃんの家の玄関前で涙を流しながら立っていた。のび太は「きっときっと、きみをしあわせにしてみせるからね!!」と、チンプンカンプンで何もわからず「ポカーン」と立っているしずちゃんに唐突に約束していた。その傍らではドラえもんも右手で大粒の涙を拭きながら、立ち竦んでいた。

[S0966A2515068108]