ふつうの男にもどらない [★★★]

[初出誌] 『ふつうの男の子? にもどれなかったジャイアン』、「小学五年生」19855月号、8頁、51コマ

[単行本]  『ふつうの男の子にもどらない』、「てんとう虫コミックス ドラえもん第40巻」1990125日 初版第1刷発行、8頁、51コマ

[大全集] 『ふつうの男の子にもどらない』、「藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 142011629日 初版第1刷発行、8頁、51コマ

 

【初出誌vs.大全集】

 タイトル『ふつうの男の子? にもどれなかったジャイアン』が『ふつうの男の子にもどらない』に変更

 

[梗概]  ある日、ジャイアンはドラえもんとのび太を前にして、「芸能界からスッパリ足をあらって、ふつうの男の子にもどりたい」といった決心を表明した。

 

  ジャイアンは「おれにはわかってんだ…。おれ、デリケートだからよ。コンサートが不人気…、いや、これはおれの歌が大衆に理解されにくいということだが…。みんながイヤイヤきてんじゃないかなと…。チラッと思ったりして…。それで…、おれ…」と言いながら決心したとのこと。

 

 ドラえもんとのび太は「ワーイ!!」と両手を挙げ、涙を流し、「大ニュース!! 明るいニュースだよ!!」と町中にアナウンスした。

 

  ドラえもんたちが「引退コンサートをひらきたいというんだよ。な、なうれしいだろ」と欣喜雀躍と話しても、スネ夫は「信じられないなあ…。ジャイアンがあれだけ夢みてた歌手への道をそうかんたんにあきらめると思う?」と逆に質問される有様。

 

 納得のいく反論だったので、ドラえもんはひみつ道具である『ホンネ吸いだしポンプ』を出して、ジャイアンの本心を探ろうとした。

 

  ジャイアンの本心を吸い出した後、それを聞くと「おれのコンサートは…。どうも人気がもりあがらない、やっててはりあいがない。このへんでもうやめだといったらどうだろう。みんな大さわぎするにちがいない。今さらのようにおれの歌のよさを思いだして、「おしい」、「やめないで」と、みんな口ぐちにさけぶ。そこでおれは、しぶしぶカムバック宣言をする」とスネ夫が危惧した通りの内容だった。

 

 三時からのジャイアンのコンサートが始まる前に、ぜったいに「おしい」とか「やめないで」とか言わないこと、拍手も熱狂的でなく、お義理に「パラ パラ」とすることを徹底させた。

 

  スネ夫の「じゃあね、ドラえもんをジャイアンのつもりで拍手しよう。セーノ!!」で始めると、熱狂的な拍手になってしまった。

 

  ただ、スネ夫からの「そんなにたたいたら、自信をつけさせちゃうぞ」との注意に対して、ある男の子は「これでもうあの歌をきかなくてすむと思ったらうれしくて」といった意見から、のび太の「気のない拍手してジャイアンににらまれたらこわいよ。スネ夫だってその時になったら力一杯たたくだろ」との意見まであった。

 

 ドラえもんはひみつ道具である『拍手水ましマイク』を出し、「不景気なコンサートでこれを使うと、まばらな拍手もあらしのようにとどろく」といった道具のマイナス・スイッチを使うことに決めた。

 

  「花の中にかくしておけば…、みんながどんなにさわいでもだいじょうぶだ」と念を押してセットした。さようならコンサート会場に到着したジャイアンは「開演前から満席じゃないか!!」と感嘆の言葉を発している。

 

 ドラえもんがミカン箱のステージに立って、ドラえもんのマンガ史に残る別れの言葉を語り始めた。「長い間ぼくらを苦しめ…、いや、楽しませたジャイアンコンサートもこれが最後。まことにうれし…、いや残念…というほどでもない…こともない」といった内容であった。

 

  ジャイアンが「なにがいいたいんだ。ま、そんなわけで。もう二度とおれの歌はきけないってことだ。みんなさびしいだろな。やめないでという声もあるだろうが…」と挨拶を始めた。

 

  会場は水を打ったようにシーンとし、観衆は「こたえるな! ここがしんぼうのしどころだぞ。ジャイアンに目を合わせないよう」と考えながらじっと耐えるのであった。

 

 ジャイアンは「…そうかよ!! じゃあこれから二時間半おれのヒットパレードをメドレーで」と言いながら歌い出した。観衆にとって、「それからの二時間半はまさにごうもんであった。

 

  みんなは「これがさいご!」、「くじけるな!!」と、はげましあってたえぬいたのだ」 ドラえもんの「ジャイアンコンサート、めでたく歌いおさめです」の挨拶で、会場から「パラパラパラ ポチポチ」の拍手があった。

 

 ジャイアンは「なんだなんだ、この雨だれみたいな拍手は…。みたとこいちおう全員拍手してるようだが…。まるでもりあがらない。スッキリしないぞ!!」といった感想を漏らした後で、ジャイアンは「では絶大な拍手にこたえてアンコール」と言い出す始末であった。

 

スネ夫からは「このままもえつきたほうがいいのでは…」と、ドラえもんからは「一分間時間をください。やめるように説得します」との発言も後の祭り。ジャイアンは「おまえら!」と怒鳴りながらステージで大暴れ、その弾みで花瓶が踏みつけられて「グシャ」と割れ、マイクのスイッチがプラスに入ってしまった。

 

迫力満点の拍手に後押しされて、ジャイアンは「ありがとうありがとう。おれ、もう二度とやめるなんていわない。ジャイアンの歌は永遠です!!」といった形でステージが終わった。

 

 町を歩いていても、「かなり長い間のび太とドラえもんはみんなの冷たい視線にたえなければならなかったのである」 ジャイアンの歌はその後も続き、まさにジャイアンの命であり続けたのであった。

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