ファンタグラス[★★]

【道具解説】 ひみつ道具である『ファンタグラス』を掛けると、植物も動物も感情を持った人間みたいに見えるようになる。

 

【使用目的】 のび太が去年カブトムシを飼っていたガラスの箱の中でタンポポが咲いていた。それを捨てようとするので、タンポポの気持ちを分かってもらうために、ドラえもんは「ファンタグラス」を出している。

 

【使用結果】 のび太が「ファンタグラス」をかけて、タンポポを庭の隅に植え替えようとすると、タンポポがにっこり笑った。タンポポを庭に植えて、水をやると、まわりの木から、「いいないいなタンポポばかり」という声が聞こえてきた。このあいだからずっと雨が降らないので、のどがカラカラの状態になっていたからである。

 

 水をまいていると、屋根の上の野良猫のクロなどは、「見て見てなまけ者ののび太が。雨でもふるんじゃないかしら」と噂していた。すると、のび太は水まきをやめてしまったので、ドラえもんは、「きみが、心のそこで思ってることなんだ」とアドバイスしている。

 

 のび太が「だれがこんなもの。二度とかけるもんか」と腹を立てて、横になって寝ていると、五匹のアリが部屋の中を移動していた。グラスをかけると、「はたらけはたらけ、冬にそなえて。

 

 なまけていると今にきっとこうかいするぞ。のび太みたいにならないように。せっせ、せっせ」と聞こえてきたので、のび太は机に向かって勉強を始め出した。

 

 のび太が毎日水をやったので、タンポポも育ち、つぼみもふくらみだした。ある晩、「ビュゴオ」と風が強く吹き出すと、外で助けを求める声が聞こえたので、タンポポが吹き飛ばされないように、植木鉢をかぶせて、守ったこともあった。

 

のび太はタンポポと絶えず会話を交わしているので、タンポポから優しい男の子と感謝された。しかし、ママやドラえもんは庭のかたすみでひとりごとばかり言って、みんなと遊ばなくなったので、近頃ののび太をとても心配していた。

 

ジャイアンやスネ夫にメンバーが足りないから、強引に誘われたけれども、人間は、乱暴だからいやと断っていた。

 

タンポポの白くてフワフワしたすてきなわた帽子も成長し、その子どもたちもひとり立ちして、きれいな花を咲かせるため、広い世界へ飛び出し始めた。いつまでママと一緒にいるんだとグズっているいくじなしがひとりのこっていた。

 

ママが「勇気をださなきゃだめ! みんなができることがどうしてできないの」と何度も説得しても、「やだやだ」の一点張りであった。

 

 ママが一生けんめい言い聞かせていたので、のび太は夜になってタンポポのぼうやが、どうなったか気になり、起き上がって庭に出てみた。すると、タンポポのママはぼうやに、遠い山奥の駅のそばに咲いていたが、ある晴れた日、大ぜいの兄弟たちと一緒に旅立ったと、語り出した。

 

はじめて見る広い世界は楽しくて、疲れると列車の屋根におりて、「ゴト ゴト」揺られながら昼寝をしたり、夜になるとちょっぽりさびしくなって泣いたりしたが、お月さまになぐさめられたりした。

 

そして、高くのぼって、青くて広くてとてもきれいな海を見たりしながら、のび太さんの住む町や部屋にやってきて、きれいな花を咲かせて、ぼうやたちが生まれたといったストーリーを聞かせ、子守歌を歌いながら、ぼうやを寝付かせていた。

 

 次の朝、最後に残ったぼうやも、「ソヨ ソヨ」と吹く風に乗って、飛び立った。のび太は心配になったので、タケコプターで追いかけ、「だいじょうぶかい」と声を掛けると、「思ったほどこわくない。行き先はわかんないけど、きっとどこかできれいな花を咲かせるから、ママに心配しないでと伝えて」と、元気よく空のかなたに旅立っていった。

 

 広場では、ドラえもんがバッタボックスに立って、楽しそうに野球をしていた。それを遠くから見ていた、のび太は「ぼくも…、入れてもらおうかな」という心境になっていた。

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