シャーロック・ホームズセット[★★★]
[初出誌] 『無題』、「小学五年生」1974年2月号、15頁、109コマ
[単行本] 『シャーロック・ホームズセット』、「てんとう虫コミックス ドラえもん第3巻」1974年10月1日 初版第1刷発行、15頁、109コマ
[大全集] 『シャーロック・ホームズセット』、「藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 2」2009年8月30日 初版第1刷発行、15頁、109コマ
【初出誌vs.大全集】
タイトル『無題』が『シャーロック・ホームズセット』に変更
[梗概] のび太は「ふむ、ほう…。へえ。なるほど! ふむふむ」とある本に感心しながら、通りを歩いていた。ドラえもんの「おそかったじゃないか」との呼び掛けも、全く耳に届かず、のび太は相変わらず「さすが! すごい」と感嘆し、ドラえもんにぶつかって始めて、「道を歩くときは気をつけろよ」とドラえもんに注意する有様であった。
ドラえもんから「なにを、そんなにむちゅうになってよんでたの」と尋ねられて、のび太は「おもしろいんだから」と言いながら、「シャーロックホームズ」の本を差し出した。
この本には、事件を頼みに来た人が忘れていったパイプから、ホームズがパイプの持ち主を鮮やかに推理する場面が描かれていた。ホームズが一度も会ったことのないパイプの持ち主を「歯ならびのいい、たくましい男、左ききで、身なりは悪くない」とワトソンがビックリするような推理を披露していた。
つまり、「この、がっしりした歯型を見たまえ。歯ならびのよさ、筋肉の強さをしめしている。パイプの右側がこげている、つまり、左ききのしょうこ。灰をみれば、すったタバコがわかる。高級な品だ。だから、身なりも悪くない」と推理し、ワトソンをして、「きみは天才だ、ホームズくん」と言わしめるに十分な内容であった。
のび太は「怪事件のなぞを、わずかな手がかりでずばりずばりと、といていくんだ。ようするに、注意ぶかく観察することがだいじなんだ。そして、考える。そうしたらぼくにも、ホームズみたいになれるかもね」と一気にドラえもんにまくし立てていた。
玄関前で腕を組んだ仁王立ちのママを見て、のび太は後ずさりしながら、「まった! なんにもいわないで。なにをおこっているのか、推理してみよう」と問い掛けた。
のび太は「ぼくをにらんでる…。つまり、原因はぼくだ! ひょっとして、あれかな? きょうも学校から、まっすぐ帰らないで…。みちくさくって、おそくなったからでしょう」とズバリ推理して見せた。的中したのでのび太は思わず「わあ、あたった! ぼくは天才だ!」と叫んでしまった。
ママから、「かばんをどこへわすれてきたの?」と問い詰められたので、のび太は自問し、「どこでわすれたか、これを推理すると…。しずかちゃんとこだ。なぜなら、みちくさをくってたのがしずかちゃんの家だから」と推理した。しかし、ドラえもんからは、「そんなの、推理じゃないや」と言われてしまった。
しずちゃんの家に行くと、家の中でしずちゃんとママが言い争っていた。のび太が玄関に出てきたしずちゃんに「なんかあったの?」と尋ねると、しずちゃんは「だいじなものが、なくなったの」といって部屋に戻ってしまった。
のび太は「事件だ! ダイヤかなにか、ぬすまれたんだ!」と独り合点し、「ぼくが、ホームズ流の推理で事件を解決する。しずかちゃんは、いっぺんにぼくのことを尊敬する」とドラえもんに語りかけた。
ドラえもんから「それはちょっとむりじゃないかしら」と言われ、冷静になったのび太も「そう思う? やっぱり」と今までの元気もなくなってしまった。のび太は「なんかない? 名探偵になるための、道具みたいなもの」とドラえもんに頼むと、ひみつ道具の『ホームズ・セット』を『四次元ポケット』から取り出してくれた。
勇気百倍ののび太はしずちゃんを呼び出して、おもむろに「なにか、おこまりのようですね。わたしが、ずばり解決してさしあげましょう」と切り出した。
事件に関係のある手かがりしか、見えないというひみつ道具「手がかりレンズ」を使って、犯行現場を検証したが、「なんにも見えない…。犯人は、手がかりをのこさなかったんだ」という結論になった。
窓にはカギがかかり、ドアも一箇所だけで、外部からの出入りは、全く不可能であることが明らかになった。のび太は「しずかさん、きみは、ずっとこのへやにいたのかね」といった質問に対して、しずちゃんは「30分ほど、出たわ。お友達からの電話で。電話がながすぎて、遊びにきてたのび太くんが、帰っちゃったんじゃない」との返答。
のび太は「ああ、あのときか。ママがうるさいんでね。いちおう、ことわりに帰ったんだ」と言い、「行ってきたから、もういいんだ。ゆっくり遊ぼう。なにして遊ぶ?」とトンチンカンな提案。しずちゃんから「事件はどうなるの」と叱責されて、「あっ、そうか」と再度考えるのび太であった。
パイプをくわえ、頭が冴えると言われるひみつ道具「推理ぼう」を被って考えると、「ピン ピン」と頭が冴え、「なあんだ、じつにかんたんな事件じゃないか。犯行の時間はしずかちゃんのいなかった30分にかぎられる。その間に出入りしたものは、ただひとり! つまり…、犯人は、ぼく以外にはありえない!」と推理。
のび太は顔を真っ赤にして、「推理ぼう」を床にたたきつけ、「ぼ、ぼくじゃないよ。しずかちゃん信じてくれ、信じて!」と哀願した。しずちゃんが「あたりまえでしょ。のび太さんがそんなこと。だから、大さわぎしているんじゃないの」と言ってくれたので、のび太は「ホッ」とした。
最後の手段として、ひみつ道具「レーダーステッキ」を使うことになった。ステッキの倒れた方角に犯人がいるので、倒してみると「クルリ」と向きを変え、のび太の方角を指して止まった。のび太は「こんなもの、あてにならん!」と叫んでドラえもんにステッキを手渡し、しずちゃんに「ほんと! ぼく、ダイヤなんかとらない」と泣きついた。
しずちゃんはその発言を聞いて、「だれが、ダイヤだなんていった? なくなったのは、本なのよ。学校図書館から、借りたシャーロック・ホームズ。あれ、返さないとこまるのよ」というものであった。
帰宅途中、ドラえもんから「おい、ひょっとして…」と言われ、のび太は「そうなんだ。しずかちゃんのいないまに、机の上の本をなにげなくよみはじめたら、おもしろくて…。よみながら、しずかちゃんの家をでた。
このへんで、きみにあったんだ」と白状した。ドラえもんは「また、話にむちゅうになちゃって…。家についたときには、手にもっていなかった」ことを確認している。
どこかに本が落ちていないかを調べながら、帰りの道筋をたどってみたが発見できず、家にたどり着いてしまった。のび太は「だれかもってったんだ! ぼくはどうしたらいいんだろ」とドラえもんに助けを求めた。ドラえもんは「落ちつけ! こんなときのための、ホームズ・セットだよ」と力説した。
「レーダーステッキ」に「ひろった人間がどこにいるか…」と尋ねると、ステッキは立ったままで倒れず、「だれもひろっていない」ということが明らかになった。
「手がかりレンズ」で調べていくと、レンズの中に頭の禿げたおじいさんが見えてきた。そのおじいさんは通りでジャイアンとスネ夫に説教をしている最中であった。おじいさんは、「庭で植木の手入れをしておるとな。
だれかがへいごしに石をぶつけたやつがおる。とびだしてみると、このふたりが!」と説明すると、ジャイアンとスネ夫は「ぐうぜん、とおりがかっただけだよ」と強くドラえもんに訴えるのであった。
ドラえもんが「レーダーステッキ」で犯人のいる方角を探り出すと、ジャイアンとスネ夫の方角でピタリと止まった。最後に、ひみつ道具「ズバリパイプ」を使って、犯人の割り出しに努めた。
このひみつ道具は「犯人の頭の上で、ばくはつする」という優れものである。「ズバリパイプ」は二人の頭の上で爆発しないで、のび太を追い掛けてのび太の頭上で爆発した。
ドラえもんの推理によれば、帰りの途中、のび太が興奮して放り出した「シャーロック・ホームズ」の本が、庭で剪定しているおじいさんの頭に当たったという事件であった。確かに、おじいさんの庭でその本を発見することができた。
しずちゃんの家に本を返しに行くと、しずちゃんから「のび太さんは天才ね! またなにかあったらたのむわ」と言われたが、のび太は「いや、探偵ごっこはもうこりたよ」というのが精一杯であった。
[S0250・A0304・057402]