白ゆりのような女の子[★★★]

[初出誌] 『無題』、「小学四年生」19706月号、15頁、94コマ

[単行本]  『白ゆりのような女の子』、「てんとう虫コミックス ドラえもん第3巻」1974101日 初版第1刷発行、16頁、104コマ

[大全集] 『白ゆりのような女の子』、「藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 12009729日 初版第1刷発行、16頁、110コマ

 

[梗概] のび太のパパが学童疎開で田舎に行っていた時、日本の都市は毎日のように空襲を受けていた。疎開先では、勉強どころではなく、毎日、防空壕作りとか畑づくりで一日が終わっていた。十分な食べ物がないので、いつもおなかをすかしていた。

 

 そんなある日の夕方、のび太のパパは河原で自分の持ち物を洗っていた。目の前に、白ユリのような女の子が現れ、ひとことも話を交わすことはなかったけれども、ぼくをいたわってくれる気もちをはっきり感じることができた。少女は、パパにチョコレートをくれて、夕もやのなかに消えていった。


 パパはのび太やドラえもんの前で、チョコレートのおいしさなど今でも思い出すなあと、懐かしそうに語った。もちろん、その子の住所も名前もわからなかった。のび太がどうしているか、「もういちど、あってみたいでしょ」と尋ねると、パパは「会ってみたいね」と答えている。


 のび太が「写真ぐらいとっとけばいいのに。気がきかないな」とつぶやくと、ドラえもんがタイムマシンで取りに行こうと言い出した。早速、パパにその話の日を聞いて、二人は昭和二十年六月十日に向けてタイムマシンで出かけた。

 

 当時のお寺に到着しても、子どもたちがいなかったので、ご住職に尋ねると、みんな畑に行っているとのことであった。


 「ギラ ギラ」する炎天下で、のび太のパパは「フラ フラ ヨロ ヨロ クラ クラ ヘト ヘト」しながら、鍬で畑を耕していた。そして、先生から、「なんだ! そのへっぴりごしは」と怒鳴られ、「それでもたがやしているつもりか」と叱られていた。

 

 「でも、先生。こんなにまめができて、それにはらぺこで」と言い訳すると、先生から「ビタン」と頬にビンタをくらった。その上、「それぐらいなんだ。戦場の兵士のご苦労を思え!」とどやしつけられた。草葉の陰で見ていた、のび太とドラえもんはひどいなあと思った。


 みんなには30分の休憩がでたが、パパひとり、「わりあての面積をたがやすまで、休みはなしだ」と先生に命令された。たがやしている最中に、「バタ」と倒れて気絶してしまったので、のび太はかわいそうで見ていられなかった。ドラえもんは木陰に入れないと日射病になると思い、パパを木陰に運んでいる。


  パパがこのまま寝てたら、先生にまたどやされるので、のび太が身代わりになり、ドラえもんの出したひみつ道具『スーパー手ぶくろ』で、「ザクザク ザク」とわりあての土地を全部耕してしまった。

 

 のび太が「すごいでしょ。ぼくひとりでこんな」と先生に報告すると、「ツカ ツカ」と近づいていてきた先生はいきなり、「ビタン」と左のほほをなぐり、「この女みたいな長いかみはなんだ! 男子は丸がりにきまっとる」と言いながら、さらにビンタをかました。


 先生がのび太に、「この重大な時期に、われら、日本国民は、戦力を結集し、米英げきめつ、尽忠報国、うちてしやまん」と目を閉じてお説教をしている間に、尻尾のボタンを引いて姿を消したドラえもんがバリカンでのび太の頭を丸刈りにしてしまった。

 

 先生が「しかるに、おまえのこの頭は」と言いながら、のび太の頭をなでると毛がなくなっており、キツネにつままれた表情をしている。


 先生からは「りっぱである。それでこそ日本男児である」と頭をなでられ、友だちからは「野比がひとりでやっちゃた? がんばりやだなあ」と絶賛された。今日はやることがなくなったので、作業は解散になった。「ワーイ」と喜んでいる級友の声を聞いて、目覚めたパパは叱られると思って、当てもなく一目散に逃げ出した。

 

 ドラえもんとのび太はパパの寝ていたところへ戻ると、どこにもいなかった。当然、かわらの方へ行ったと思い、タケコプターで急いだが、かわらにも姿を見かけることができなかった。

 

 待っている間に、『三十分できく毛はえぐすり』を塗ってもらい、二人は日が落ちて、白ゆりちゃんが現れるのを待っていた。夕方になっても現れないので、のび太がウロウロしていると、肥溜めに落ちてしまった。


 のび太はスッポンポンになって大量の真っ白な脱臭剤を「バサッ」とかけてもらった。そして、ドラえもんは着替えを探しに出掛けた。しばらくすると、かわらにパパが現れ、「お母さん。ぼく、死んでしまいたいよ」と涙を流し、川の中へ一歩一歩踏み出した。

 

 その間に、毛生え薬の効き目が抜群であったため、のび太の頭の毛は「ニュッ ニュ ニュ ニュッ バサ」と生えだし、長い長い髪になってしまった。


 一方、ドラえもんは近くの物干しから、女の子のセーラー服を借りてきた。ドラえもんはその姿を見て、「アッ」と驚き、のび太は「色が白くて、髪が長く、大きな丸い目の女の子!」に変身していた。

 

 のび太がチョコレートを持っているかと尋ねると、なぜかしっかりとチョコレートを持っていた。「けっきょく、こういうことだったのか」と納得しながら、写真を「カシャカシャ」写してタイムマシンで帰ることになった。


 家に帰ると、パパはテーブルの前でママにとても懐かしそうに、「そう、花にたとえれば、白ユリのような……」と語りかけていた。その光景を見て、ドラえもんとのび太は写してきた何枚かの写真を細かく破り、「思い出は、美しいままにしておいてあげよう」と思うのであった。
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