さようなら、ドラえもん[★★★]

[初出誌] 『みらいの世界へ帰る』、「小学三年生」19743月号、7頁、48コマ

[単行本]  『さようなら、ドラえもん』、「てんとう虫コミックス ドラえもん第6巻」197511日 初版第1刷発行、10頁、68コマ

[大全集] 『さようなら、ドラえもん』、「藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 420091230日 初版第1刷発行、10頁、68コマ

 

[梗概] 今日も、ジャイアンから「まてえ、このやろう」と追い掛けられ、のび太は「たすけてえ、ドラえもん」と悲鳴をあげながら、家に駆け込んだ。辛うじて、ドアを閉めて逃れることができたので、ジャイアンは「おぼえてろっ。こんどあった時、ぼろぼろにしてやるぞ」といった捨て台詞を吐いて帰っていった。

 

 ドアの内側で、のび太は「こわくないよ、ベエー」と舌を出して、強がりな態度を取っていた。ドラえもんに「あれかしてよ。ほら、いつか使ったやつ。けんかに強くなるの」といつものようにお願いすると、「ひとりでできないけんかなら、するな!」とキッパリ断られてしまった。

 

 いつもと違う態度から、のび太が「おい、どうしたんだよ。ドラえもん」と尋ねると、ションボリとして元気のないドラえもんは「こないだから…、いおういおうと思っていたが…」と語り出した。

 

 のび太は顔を真っ赤にして、「帰る! 未来の世界へ?」と絶叫して、ドラえもんに「なんとかして」と涙ながらに訴えた。ママからは「ドラちゃんにはドラちゃんのつごうがあるのよ。わがままいわないで」、パパからは「ひとにたよってばかりいては、いつまでたっても一人前になれんぞ。男らしくあきらめろ」と厳しく説得された。

 

 簡単な夕食の宴で、パパは「のび太がすっかりおせわになったね」とお礼を述べ、ママも「あすの朝、行っちゃうの? さびしくなるわね」という会話を交わした。のび太はうつむいて、一言も話すことができなかった。星空のきれいな晩に、一緒の布団で寝ていたが、目が冴えて、二人とも眠れません。

 

 のび太が「朝までお話ししよう」と提案すると、ドラえもんは『ねむらなくてもつかれないくすり』を出して、二人は積もり積もった話を始め出した。

 

  あまりにもお月さまがきれいであったので、二人は夜の散歩に出かけた。散歩の途中、ドラえもんが「のび太くん…。ほんとうにだいじょうぶかい? できることなら…、帰りたくないんだ。きみのことが、心配で心配で…」と「ポツリ ポツリ」と語り出した。

 

 そして、「ひとりで宿題やれる? ジャイアンやスネ夫にいじわるされても、やりかえしてやれる?」と念を押した。のび太は「ばかにすんな! ひとりでちゃんとやれるよ。約束する!」とキッパリ断言している。

 

  「ホロリ グスン」と涙を流しながら、ドラえもんは「ちょ、ちょっと、そのへんを散歩してくる…」といって姿を隠している。のび太はいつも遊んでいる広場の土管に腰を下ろして、「なみだを見せたくなかったんだな。いいやつだなあ」と甘酸っぱい感傷に耽っていた。

 

 「フラ フラ」と寝ぼけて夜散歩するジャイアンが目の前に現れた。人の気配に「ハッ」と気づいたジャイアンは「だれだっ、そこでにやにやしてるのは!」と怒鳴り、のび太と分かると、「おれがねぼけてるところをよく見たな。ゆるせねえ!」といちゃもんを付けて、のび太の胸ぐらをつかんだ。のび太は「わあっ、ドラ…」と叫びかけて、ハッと先ほどの約束を思い出した。

 

 近くを散歩していたドラえもんが「だれかぼくを、よんだような…。のび太くうん」と呼びながら近づいてきたので、のび太は「ちょっとまった!」とジャイアンの口を制して、ドラえもんが通り過ぎるのを見送った。

 

 のび太は「けんかなら、ドラえもんぬきでやろう」と提案すると、ジャイアンも「ほほう…。えらいな、おまえ。そうこなくちゃ」と言って強烈なパンチをのび太に放った。その一撃でのび太は大きく後方に吹っ飛んでしまった。

 

 ドラえもんは、のび太が先に帰ったのかと思い、家に帰って部屋を調べたが帰っていませんでした。広場では、ジャイアンのパンチが「ドカ ボカ ギュ」と炸裂し、ダウンしているのび太に対して、「どんなもんだい。二度とおれにさからうな」と勝利を宣言して帰ろうとしていた。

 

 のび太は「まて! まだまけないぞ」と立ち上がった。ジャイアンが「なんだおまえ。まだ、なぐられたりないのか」と挑発すると、のび太は「なにを。勝負はこれからだ」とファイティング・ポーズを取ったけども、まともに「ガッ」というストレートをアゴに受けてしまった。

 

ドラえもんは布団の上に座って、「おかしい。もう一時間もたった。どこで何してんだ。最後の晩まで、ひとに心配かけて」とひとりでやきもきしていた。

 

  広場では、ジャイアンが「ふうふう。これでこりたか。なんどやっても同じことだぞ。はあ、はあ。いいかげんにあきらめろ」とだめ押しを出すと、のび太は「ズルッ」と移動しながら、ジャイアンにしがみつき、「ぼくだけの力で、きみにかたないと…。ドラえもんが安心して…、帰れないんだ!」と絶叫していた。

 

 しかし、ジャイアンは無情にも「しったことか!」といって、のび太をさらに殴り飛ばしている。

 

 ドラえもんは「ただごとじゃないよ、こりゃ」と考え、再度外に出て、「のび太くうん」と大声で探し求めた。広場に到着すると、ジャイアンが「いてて、やめろってば。悪かった、おれのまけだ。ゆるせ」と降参の旗を揚げていた。

 

 ドラえもんが思わずのび太の所へ駆け寄ると、顔中傷だらけののび太が「かったよ、ぼく。みたろ、ドラえもん。かったんだよ。ぼくひとりで。もう安心して帰れるだろ、ドラえもん」と笑いながら報告している。

 

  その晩、のび太は満足げな表情を浮かべて、熟睡した。その傍らで、ドラえもんは頬に大粒の涙を流し、のび太を見守りながら、過ぎし日の思い出に浸っていた。おそらく、一晩中、そうしたシーンが続いたことでしょう。 

 

 朝日が燦々と降り注ぐ頃には、のび太の部屋に、ドラえもんの姿は見られませんでした。目覚めたのび太が「タイムマシン」の出入り口であった、机の抽斗を開いて中を確認したけれども、ドラえもんの気配すら確認できませんでした。

 

 歯を磨いていると、ママから「ドラちゃんは帰ったの?」との問いに、のび太は淋しげにただ一言「うん」と答えるのみであった。しかし、のび太は抽斗の開いた机の前に座り、「ドラえもん、きみが帰ったらへやががらんとしちゃったよ。でも……すぐになれると思う。だから……、心配するなよドラえもん」と少し自信ありげにつぶやいていた。

 

 この作品によって、のび太に対する読者の「ひみつ道具依存症」や「ドラえもん依存症候群」といった懸念は大いに払拭された。多くの読者はひみつ道具によってかなえられるバーチャル世界での夢をストレートに疑似体験し、楽しむことが可能になった。

 

 つまり、のび太やドラえもんにより心置きなく感情移入ができるようになり、子どもだけでなく大人の世界にもドラえもんマンガが浸透するひとつの大きな切っ掛けになったのである。

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