ぞうとおじさん[★★★]

[初出誌] 『スモールライト』、「小学三年生」19738月号、15頁、100コマ

[単行本]  『ぞうとおじさん』、「てんとう虫コミックス ドラえもん第5巻」1974121日 初版第1刷発行、16頁、112コマ

[大全集] 『ぞうとおじさん』、「藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 420091230日 初版第1刷発行、16頁、112コマ

 

[梗概] 真っ黒に日焼けしたのび郎おじさんがインドから帰ってきて、みんなに不思議な話をしてくれた。のび郎おじさんは小さいころ、ハナ夫というゾウが大好きで、せっせと動物園に通った話をしだした。

 

 東京は、空襲をうけて、爆弾の雨で、もう動物園どころじゃない状況になっていた。戦争が終わったあと、のび郎おじさんは疎開から帰って、真っ先に動物園に駆けつけた。

 

 飼育係のおじさんにハナ夫のことを聞くと、「殺された」ということであったので、泣きながら家に帰った。すると、それを聞いていたドラえもんとのび太は「だ、だれがそんなひどいことを!」と訴えると、動物園の人は、当時として仕方がなかったという返事であった。

 

 二人は「しかたないとは、何ですか! あんなおとなしい動物を!」と、顔を真っ赤にして抗議した。二人が怒って席を立つと、のび郎おじさんは「ふしぎなのはこれからさ」と言いだした。

 

 ドラえもんとのび太は縁側で風鈴の「リイン」という音を聞きながら、「タイムマシン」で昔に戻って、ハナ夫を助け出そうと決心した。動物園に着くと、ひっそりとして空っぽの檻ばかりであった。ハナ夫を捜すと、檻のなかで、ごつごつとほねばかりの姿でグッタリと横たわっていた。

 

 「コツ コツ コツ」と飼育員の人が入ってきて、「ムクリ」と立ち上がって、「プオーッ」と吠えるハナ夫にジャガイモをやろうとしたが、「だめだ。わしにはやれん」と言って帰ろうとした。

 

 それを見た二人はジャガイモの入ったバケツを横取りして、「さあ、たっぷり食べろ」と言いながら、檻の中へ、「ゴロ ゴロ」と入れた。飼育のおじさんが「そ、それはどくのえさだぞ!」と震えながら叫んだので、ふたりは「エーッ」と腰が抜けるほど驚いている。しかし、りこうなゾウは食べないで、ひとつずつ「ポイ」と檻の外に出している。

 

 ひどいじゃないかと抗議すると、飼育のおじさんは爆弾が落ちて、動物たちが町へ暴れ出したら、大変という理由で、毒のジャガイモを与えているのだと、涙を流しながら答えてくれた。軍人は園長の机を「ダン」と叩きながら、「けしからん」と叱責し、命令にもかかわらず、まだゾウを生かしていると、糾弾している。

 

 園長は、軍人の「毎日おおぜいのへいたいたちが、がんばっているのですぞ。動物の命など問題ではない。いや、たとえ動物でもお国のためならよろこんで死んでくれるはずだ」という意見に対して、「ハナ夫には、注射器のはりも通らないのです。それで、えさをやらないことにして一週間たちました」と答えるのが精一杯であった。

 

 飼育係から毒入りのジャガイモを、食べなかったという報告を聞いた軍人は「もうがまんできない」といきり立ち、ピストルを出して、檻のほうへ駆け出した。飼育係が軍人の左足をつかんで、「まってください。やめてください」と懇願している。

 

 それに対して、軍人は飼育係にピストルを向けて、「じゃますると、ただではおかんぞ!」と脅している。そこへ、ドラえもんが「まあまあ」と割ってはいり、「そうかっかしないで、相談しましょうよ」と声を掛けている。

 

 ドラえもんを見た軍人は園長に、「気をつけなさい。たぬきがおりからでている」と告げるので。ドラえもんは「カッ」と怒っている。のび太は軍人に「何もぞうをころさなくても、そかいさせるとか、ふるさとのインドに送りかえす」といった案を提案すると、「今はそれどころではない」と一蹴されてしまった。

 

 戦争がもうすぐ終り、日本が負けると話すと、軍人は刀を抜いて「きさまたち、てきのスパイだな」と斬りかかってきた。

 

 幸い、空襲のサイレンが「ウ~ッ ウ~ッ ウ~ッ」と鳴りだしたのでことなきをえた。しかし、敵の飛行機が爆弾を「ドドーッ」と落としだした。ゾウの檻のほうにも爆弾が落ちたので、行ってみると飼育係に、檻を出て無事であったハナ夫が、「バオン」と吠えながらやってきた。

 

 飼育係がゾウをどこか遠くへ連れ出そうとしたとき、軍人たちはゾウがいないといって大騒ぎしだした。

 

 軍人は集まるだけの人手をかき集めろと命令し、サイドカーに乗って、すべての出入り口をしめ、すみからすみまで探して、撃ち殺せと大声で叫んでいた。そのため、ドラえもんたちはゾウをつれて、逃げるのはちょっと無理であることがわかったので、インドに送りかえそうと決意した。

 

 ハナ夫を「スモールライト」で小さく、宛名をインドのジャングルと書き、ひみつ道具の『ゆうびんロケット』に入れ、「元気で行けよう」と言いながら、ロケットを「シュボ」と打ち上げた。飼育係に「あて先へついたら、もとどおり大きくなるからね」と告げて、バイバイしながら動物園をあとにした。

 

家に帰ると、のび郎おじさんがインドでの不思議な話を続けていた。のび郎おじさんはインドの山奥で仲間とはずれ、食べ物の用意もしていなかったので、何日か歩き回っているうちに、とうとう歩けなくなってしまった。

 

死にそうになると、生まれてからのできごと、両親の顔、疎開した田舎の家、のぼって遊んだ柿の木が次から次へと浮かんできた。

 

 やがて、ハナ夫の顔が浮かぶと、ハナ夫が静かに歩みよってきた。「ハナ夫」と呼んでみると、やさしい目で懐かしそうにぼくを見ていた。「ぼくは、そのまま気が遠くなってしまった」 それから…、ハナ夫の背にゆられたような気がしたが、夢かもしれないと思った。気がつくと、麓の村近くで倒れていたぼくが救われていた。

 

 その話を聞いて、パパは「そりゃゆめだよ。死んだはずのハナ夫が、しかもインドにいたなんて!」と語り、のび郎おじさんも「ぼくも、そう思うんだけどね…。ゆめでもうれしかったなあ」と懐かしがっていた。

 

 ドラえもんとのび太は「ハナ夫はぶじにインドについたんだ。今でも元気でいるんだ」と喜び、「二人は手をつないで、わあい、よかった、よかった」と涙を流していた。

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