帷と猫又の話。
ちょこっと天狐の話。


――――――




「宵桜……。仙狸、麻澄さん……」

家まで、あと数歩。帷は妖に撥ね飛ばされて重傷だった。おびただしい血の量でわかる。
もうきっと助からない。

僕は帷の腕から脱け出し地面に横たわる帷を呼んだ。

「帷、帷、とばり!」

「……せん、り。……仙狸。お願い、があるの」
帷のはく息が弱々しい。嫌だ。嫌だ!でも。
僕はなきたいのを我慢して帷に声をかけた。
「なんだい?」

僕はもう見えてない帷に自分が近くにいると知らせる為、自分の頭を帷の手のひらにこすりつけた。
帷は微かに笑って僕の喉をゆっくりゆっくりなでた。


「あのね仙狸。お願い……。この子を、護って」



僕と帷の出会いは至極簡単なものだった。
僕が道端で小さく鳴いているのを帷が拾ってくれた。
ただそれだけだった。たったそれだけかと言われるかもしれない。だけど帷は僕に家族を教えてくれた。

名前を与えてくれた。

「しっぽが白と黒で二色に分かれてて、猫又みたいだから……仙狸、かな。
猫又の別名なのよ。あっ、化けねこになれってわけじゃないからね」

そんなことを笑いなが言っていた。
あの時から、僕の尻尾は一番自慢できるところだった。




僕の自慢の二色の尻尾は帷の血で染まっていった。





◇◆◇


帷は僕に願った。

「宵桜を護って」 と

でも、僕に残された時間もわずかだ。だから僕はある神社に走った。
あの神社にはアイツがいる。
走って走ってたどり着いたそこには何もいなかった。
でも匂いはある。僕にはわかる。

「なぁ、いるんだろう!僕には君が見えていた!」

それでも反応はない。それなら。
僕は近くにある、あるお店に行った。帷がよく買い物をしていたお店だ。顔なじみのネコがそこにいる。

「まる!お願いだ、稲荷を分けてくれないか!」

白猫のまるはわけも聞かずに稲荷を持たせてくれた。
別れ際まるは「またね」ではなく「さようなら」と言ってきた。
僕から漂う死の匂いを感じ取ったんだろう。
だから僕も「ありがとう、さようなら」と言い残してそこを後にした。

もう一度神社に帰ると、アイツはそこにいた。
幼い少女の姿だった。前に見たときは、ネコの姿だったのに。
それでも匂いはあいつと変わっていない。

「なんの用?」
そいつは少女の容姿のまま言った。
「願いを、かなえてほしい」
そいつは僕をじっと観察するように見るといった。
「死んだ人間を生き返らせることは無理よ」
僕の体中から匂っている帷の血の匂いを言っているんだろう。
「わかってる。……だから、僕を宵桜の近くにずっといられる姿に」
「どんな姿よ」

言葉の最後を喰うようにあっさりと話が進んだ。僕は意外に思うと同時に考えこんでしまった。
どんな姿がいいかわからなかった。

宵桜を護れるような姿。でも、どんなものがいいかわからなかった。

シャン

どこか遠くであの忌まわしい鈴が啼く。
この音に、対抗出来るもの。
僕の一番近くでこの音に対抗しているのは……。


「刀……。刀がいい」


「刀?」

「麻澄さんが使っているような刀。妖をどれだけ斬っても腐らない、そして人間は傷つけない。そんな刀に僕を変えてくれ」

そう言うとそいつは僕の目をじっと見た。
「……いーわよ。……稲荷、そこに置いといて」
そいつはつまらなそうに言う。
僕は深く考えずそっと稲荷を本殿の前に置いた。

「あんた宵桜に壊されない限り、ずっと死ねないよ。いいの?」
振り返るとそいつはネコの姿に変わっていた。
「僕は帷に守られた。その帷が願うんだ。だから僕は、宵桜の近くにいる」
「あんた、化けネコになるつもり?」
「化けネコでもいいよ。だって僕の名前は仙狸。化けネコ、猫又の別名だから」
僕が誇らしげに言うのをあいつはちょっとだけ寂しそうにみていた。
でもそう見えたのは一瞬で僕の見間違いだったかもしれない。

あいつが何かしていた。僕の意識がちょっとずつ消えていってあと少しで僕が僕じゃなくなる瞬間あいつがポツリと言ったのを覚えている。

「仙狸、ね。覚えておくわ。あたし、あんたが好きだったわ」

僕の仙狸としての記憶はそこまでだ。
どうやって宵桜の手元まで戻ったのかはわからないけど、僕は確かに刀になっていた。
自分で動けないのは悔しいが、宵桜は妖討伐隊に入ると決めてから僕をずっとそばに置いてくれている。
だから僕はまだ宵桜と一緒にいられるし、宵桜を護っていられる。

「頼むぞ、猫又」



「いつでも大丈夫だよ、宵桜。
ねぇ、帷。帷のことは僕が覚えていこう。だから安心してくれ。この子は僕が護っていくから」



END


――――――


は~い。ってな感じで
帷と猫又の話でした☆

本間はもっと麻澄さんが出てくるんやけど
長いから割愛。
麻澄さん編を書くかなぁ
わからんなぁって感じ←

この中の狐さんは天狐さんで、空狐さんの後を継いだ子っていう微妙な設定がある。
嫌やったら言ってな(´・ω・`)



とりあえず今日はこんな感じで
バイバイ( ´∀`)/~