誰にもじゃませれず、ゆっくりと主人と娘とで過ごせたから、朝は精神的には安定してた。
7時に朝食の準備ができたと呼びに来てくれた。
暖かいお味噌汁が美味しかった。
鮭と卵焼きと納豆と。定番の和朝食。
納豆だけしか食べれなくてあとのおかずは娘にあげた。
娘は卵焼きが甘くて美味しいと、ニコニコして食べてた。
朝食が終ってしばらく部屋で主人のそばで過ごしていたら、係の人が「そろそろご主人を祭壇のほうに…」
と、連れていかれてしまった…悲しい…
泊まらなかった家族も皆集まってきて、ふと思った。
あれ…??そういえば、お布施って…いつ渡すんだ???
昨日、渡してないよなぁ…と思ってたら、義妹が渡してくれていた。
何から何まで…ほんと、ありがたい。
着付けの人が来て、ヘアセットと着付けをしてもらった。
ふわふわくせ毛の私の髪を真っすぐ伸ばしてオールバックにして固めて詰め物詰めてきっちりとまとめていく。
黒い紋付やし…極道の妻たちやん…マジで思った…汗
どうせなら…もうちょっとかわいい着物姿、旦那さんに見て欲しかったな…って思った。
ボツボツと…弔問客が来だした。
とたんに背中がザワザワする。
なんか嫌だ。
ソワソワ落ち着かない。
お寺さんが来てちょっとしてから、「喪主様、ご住職様がお呼びです」と声がかかった。
義妹が「寄付の催促だよ。閻魔帳(寄付帳)渡されるから、私に持ってきてね。あの住職、話長いから適当に逃げておいで」
と、アドバイスをくれる。
用意した寄附金の入った封筒を握りしめ、住職控室に向かう。
住職は閻魔帳を見せながらなにか言って、戒名の説明もしてくれた。
聞いてるうちにすごく悲しくなって、ポロポロ涙が止まらなくなった。
戒名…付けられちゃったんだ…死んだ人みたいやん…。
死んじゃったんだ…旦那さん…死んじゃったんだ…
戒名が思いっきり現実を突きつけてきたような気がした。
涙が止まらなくて…「いい戒名ありがとうございます」とだけ言って、すぐに義妹のところに行った。
「戒名付けられちゃったよぉ…死んだ人みたいやん。嫌やぁ…」
義妹に閻魔帳渡しながら泣いた。
「大丈夫。まだケンちゃん居てるからね。ちゃんと居てるよ。」
義妹は声をかけてくれたけど、戒名ついたのが悲しくて悲しくて…。
弔問客お迎えしないといけないのに涙がなかなか止まらなかった。
今日も前の職場の人が来てくれた。
仲の良かった人。ヤギを飼ってて、主人と一緒にヤギを見せてもらいに家まで行ったことのある人。
「黒い猫さん…この度は…」
「白さん…」
またポロポロと涙が出てくる。
10歳以上年下の白さんに泣きつくわけにはいかない…と、頑張った…。
月曜日だったから、昨日よりは少なかったけど、それでもいっぱい来てた。
お付き合いのある議員さんも来てくれた。
時間になって昨日と同じように、喪主席に座る。
祭壇の主人の写真を見ると、昨日は花で半分隠れていたのに、今日は写真が全部見えた。
会場の人が気が付いて見えるようにしてくれたのかな…?
式の間中、ずっと主人の写真を見てた。
ちょっと悪そうに笑ってる主人。
カッコつけちゃって…なに笑ってるん…アホ…。
祭壇に飾られてる主人の写真が花にかこまれて…読経も聞こえて…なんか不思議だった。
お焼香のときもなんぁ、フワフワとゆうか、グルグルとゆうか…世界がなんかグラグラしてて…立ってられたのが奇跡だったような気がする。
喪主の挨拶があるので…しっかりしなきゃと、頑張った。
どんなに良い人だったか、どんなに素敵な人だったか…惚気たった。
きっと聞いてる主人は真っ赤になってたと思う。
読んでる途中で涙で文字が見えなくなって…ちょっと時間がかかったけど、ちゃんと最後まで読めた。
頑張った。
最後のお別れで、お花を入れる時、ずっと手を握ってた。手を握って、キスして、頬に当てて…
離れたくなかった。離したくなかった。退くつもりもなかった。
誰がお花を入れに来てくれたとか全然みてなかった。
ただ、1秒でも長く主人の手に触っていたかった。
最後に、主人の好きな黒糖饅頭と、煙草を手に持たせてあげて…棺の蓋を締めた…。
もう会えない。
もう二度と手を握れなくなった瞬間だった。