前回のあらすじ>

仲間を一人失い、どうしても気が重い一行。特にホルマジオは憔悴して落ち込みがひどい。

気を付けさせるため、シュピーゲルは彼にティアマトの小指を使うように言う。

指はホルマジオの指示通りに北を指さし、離れてしまっていても旅を共にし、これからも導いてくれることを感じ、気持ちを前へ向けることが出来た。

 

突然襲って来た砂嵐も無事乗り切り、一行は再び〝5人〟でイルーナを探しに足を進めて行ったのであった。

 

 

注意長編。

 一部ショッキングな表現あり。

 最終盤にクリープな表現あり。

 

ーーーーーーー

 

しばらく歩き進めると、一行の前に何か建築物のようなものが現れた。

 

イ 「なんだアレ?」

 

まだ遠いのでハッキリとは分からないが、かなりの大きさがありそうだ。

 

目の利くルカとシュピーゲルはそれを凝視した。

 

sp 「…船か?しかも超大型船っぽいぞ。」

ル 「ホントだ。しかしおかしいな、こんなにデカいならさっき飛んだ時に見えてるハズ。」

ホ 「てかここ、海からだいぶ離れてんのに、なんで船?」

イ 「地下から湧いて来たとか、空から飛んで来たとか?」

ホ 「いやまさか、主題歌しか分かんねえあのアニメじゃねえんだから…。」

イ 「仮に動いてたっぽいつー事は、中に人でも居るんじゃあねえか?」

ル 「ありうる。」

ホ 「行ってみる?」

 

 

とりあえず4人は巨大船へもう少し近づいてみる事にした。

 

 

イ 「あれ?思ったより遠くないんじゃね?」

ル 「錯覚とかだったのか?」

 

sp 「………?」

 

歩くスピードと船が近くなる比率がおかしい。

船は止まっているが、まるで時間を飛ばされたように距離が縮んでいる。

 

sp 「…はっ!?」

 

怪しんで嗅覚をより研ぎ澄ましたシュピーゲルは不穏な臭いを感知した。

 

sp 「待て!!スタンドの」

 

3人にそれを知らせようとして声を上げるが、大きな汽笛の音に阻まれてかき消されてしまった。

 

ホ 「お?これもしかして俺たちに気付いてんじゃね?おーい!」

 

ホルマジオの呼びに反応し、また汽笛が鳴った。

 

sp 「よせ!!あれは」

 

またシュピーゲルの話を汽笛が遮った。

 

 

sp 「(完全にワザトだ…!これはマズい!!)」

 

 

ル 「ちょっと寄って話を訊いてみるか。」

ホ 「そうだな。この辺に居る奴はそもそも貴重だしな。」

イ 「だな。」

sp 「待て!あれはきっと罠だッ!!」

 

 

いくら叫んでも遮られて3人に届かない。

 

 

sp 「くそっ、これならどうだッ!」

 

シュピーゲルは無い後ろ脚に力を込め、貸しているイルーゾォの足を止めようとした。

 

sp 「行くなッ!止まれッ!!」

 

イ 「…ん?脚が…?」

sp 「やった、気付いたか!」

 

イルーゾォに話しかける為、走って近付こうとした。

 

ところが…。

 

sp 「うぐッ!!」

 

何者かがシュピーゲルの左腰を強く叩き、気が散って脚の拘束が解けてしまった。

一瞬でその姿は見えなかった。

 

sp 「しまった!!」

 

イ 「…あれ?」

ル 「どうした?」

イ 「いや、脚が…気のせいか?」

 

イルーゾォは左脚を上げて爪を動かした。

 

ホ 「攣ったんじゃね?」

イ 「そうか…?ま、大丈夫そうだ。」

 

3人はそのまま進み、あけられた戸から船の中へと入って行ってしまった。

 

sp「全く…!大丈夫じゃねえ!!」

 

シュピーゲルもやむなく3人の元へ走って一緒に入って行った。

 

 

 

 

 

ホ 「おジャマするぜぇ~。」

 

4人は船内に入ったが、中には誰も居ない。

とても大きいだけに中も広いが、特に何の変哲も無い船である。

全体的にコンクリートと鉄の打ちっぱなしな状態で、シュピーゲルの肉球と彼から借りているイルーゾォの足裏がひんやりする。

いくつも窓が付いていて、外の砂漠の様子も見える。

 

ル 「このどこに人が居るんだ?」

イ 「探してみるっきゃねえだろ。」

 

イルーゾォは部屋のドアノブに手をかけた。

 

sp「やめろ!!それは罠だッ!!」

3 「!?」

 

シュピーゲルの怒鳴り声に3人は動きを止め、彼のほうを向いた。

 

 

sp 「ギャイン!!」

 

 

その時、壁の中から何かが出て来てシュピーゲルを捕らえて引き込んで行った。

 

3 「シュピーゲル!!」

 

シュピーゲルは壁の中に消え、引き込まれた場所は何事も無かったかのように元通りになっていった。

 

ホ「なんてこったああッ!?」

イ「俺たちハメられたのか!?」

 

入ってきたドアは知らぬ間に閉まり、窓も曇り外の景色が全く見えなくなった。

幸い船内は電気がついているので視界には困らずに済んだ。

 

イ 「シュピーゲル…あいつ、この事を俺たちに知らせるために…!」

 

イルーゾォはそのシグナルに気付いてあげられなかった事を後悔した。

 

ル 「シュピーゲル!どこだ?返事してくれ!!」

 

ルカは耳を澄ませ、シュピーゲルの声や音を捜した。

 

 

 

…………。

 

 

 

しかし、全く返答が無い。

 

ル 「口を塞がれているのかも知れん…。」

イ 「参ったな、早く見つけてやらねぇと…!」

 

ホ 「おいルカ、目も耳も良いんならお前鼻も利くんじゃね?それでなんとかならねえか?」

ル 「悪いが鼻だけは利かん。涙目のせいで慢性鼻炎であまりニオイは分からないんだ…。」

イ 「なんてこった…。」

 

イルーゾォは頭を抱えた。

 

ル 「やむをえん、シラミつぶしに探すか。」

イ 「う~ん…。」

 

 

どうすべきか途方に暮れる中、ホルマジオはふと何かを思いついたようだ。

 

ホ 「そうだ、待て!」

ル 「?」

イ 「なんだよ?」

ホ 「これ。」

 

ポケットからティアマトの小指を取り出して見せた。

 

イ 「あっ、その手が…!」

ル 「だが、これ方角しか分からないのでは?」

ホ 「いや、分かんねえけどよ、イチかバチか…。」

 

ホルマジオは手のひらに小指を置き、上手く行くように一旦目を閉じて念じてからそれに向かって言った。

 

ホ 「ティアマト!シュピーゲルのほうを向いてくれ!!」

 

 

 

すると小指はホルマジオの手のひらの上でカタカタと動き出し、水色に光ってくるりと回り、爪先がどこかを指した。

 

イ・ル 「!?」

ホ 「おおっ!」

 

試しにそのままうしろを向いてみたが、爪先の向きはそれらしきほうを指し続けている。

北の方角とはまた別の向きだ。

 

ホ 「やったぜ!さすが海の女神は格が違うな!」

イ 「すげー!こんな事も出来るのか!」

ル 「方角をさす時とさし方も違う。間違いない!」

ホ 「まさかホントに出来るとは思わなかったぜ!」

イ 「よし、行こうぜ!」

 

3人は警戒しながらティアマトの指のさす方を目指し、ゆっくりと進んだ。

さっき汽笛が鳴ったのに、どこからも人や動物の声や音が全くしない。

 

イ 「フクロウ系の鳥人とかか?フクロウって羽音立てねぇで襲って来るじゃねえか。」

ル 「いや、そうだとすれば羽毛やペレットが必ず落ちているハズだ。何か他のものなのかも知れん。」

 

ルカのしっぽに付いている目にも何も見えない。

しかし、何かの気配がずっとする。

 

ル 「(オレたちの後を何かがつけているのか…?)」

 

 

 

 

 

廊下を進むと、操縦室らしきものが見えた。

 

こちらの窓はブラインドがかけられておらず、広くて部屋が一望できる。

ここも無人だが、ハンドルや機械などが勝手に動いている。

だが最新鋭の無人操縦船というわけではなく、各機器は古くかなり年季が入った手動式のようである。

 

イ 「ゴールドシップかよ…。」

ホ 「それを言うならゴートシップだろ!」

イ 「くだんねぇ所突っ込んでんじゃねーよ!!」

 

 

イルーゾォの怒号に反応し、何かが動いた気がした。

 

ル 「そこかッ!!」

 

ルカはその気配を強く感じ、操縦室内の機械へ手を向けて火を放った。

 

高温の炎の一撃で窓ガラスは窓枠ごと消え、機械はグニャグニャに溶けて煙が立った。

 

ル 「くっ…取り逃がしたか!」

イ 「何か居たのか?」

ル 「ああ、シュピーゲルじゃない誰かが居た気配がした。もしかすると壁を……はっ!?」

 

急にまた何者かの気配を感じ、操縦室とは反対側の壁へ向けて何か所も炎を発してぶつけた。

炎の玉はテニスボール程度の大きさだが、ぶつかるたびに小さな爆発が起こり、爆発音や熱風がイルーゾォとホルマジオのほうにも飛んでくる。

 

ホ 「危っぶねえ!落ち着けって!」

ル 「…すまん、壁の中に何か居るんだ!間違いないッ!」

 

イルーゾォとホルマジオは炎で溶けた壁の穴を見た。

 

イ 「この中に…?よほど薄っぺらい身体してんのか?」

ホ 「バカ、ボケかましてる場合じゃねえ。こんな芸当出来んのスタンド使いしか居ねえだろ。」

イ 「分かってるって!」

ル 「とにかく、シュピーゲルを早く救出しなければ。何が起こるか全く分からないし、彼に何かあってはイルーナの身にも危険が及ぶ!」

イ 「ああ…。」

 

 

ティアマトの小指がさす方を目指し、そのまま廊下を歩いて行った。

 

この廊下は広く、入り口付近と違って床は木製なのか歩くたびにギシギシと音がする。

こちらも船体等同様、中々に年季が入っているようだ。

何度も踏まれた板の年輪はレリーフのように浮き上がり、所々抜けたのか別の素材が貼り付けられ修繕された個所もある。

 

 

 

イ 「ひえっ!」

 

イルーゾォの目の前に、いきなり何かが落ちてきた。

 

不意を突かれびっくりして腰を抜かしてしまった。

 

ホ 「おいおい、こりゃただのCDだ。殺し屋がこんなん如きでビビってんじゃねーよ!」

イ 「し、CDィ?」

 

ルカはイルーゾォの手を引いて起こしてあげた。

 

3人はそれが落ちて来たらしき場所を見上げた。

高い所の棚ににCDケースが陳列されており、パッと見、入っているものは恐らくクラシックのCDかと思われる。

 

ホルマジオは落ちてきたCDを手に取ってみた。

スタンド的なものによる脅しかとも思ったが、何の変哲もない市販のCDだ。

 

ホ 「……〝ルカ受難曲(Lukas-Passion)〟ゥ…!?なんちゅうタイトルの曲だよ?」

イ 「守護聖人のアレじゃね?」

ル 「だろうな。」

ホ 「ちょっとどんな曲か気になる(笑)」

イ 「肝心な一番詳しそうな奴が居ねえからなぁ。さっさと探して訊くぞ。」

ル 「はいはい…。」

 

イルーゾォはさっきの腰抜かしがウソのように先頭をきって歩き出した。

ホルマジオはCDを棚に戻し、ティアマトの小指を手について行く。

ルカは後方警戒のため一番後ろを歩く。

 

 

 

しばらく歩き進むと、地下室か1階と見られる場所に繋がる階段へたどり着いた。

ティアマトの小指はその先をさし示している。

 

イ 「これ…閉じ込められるフラグじゃねぇか?」

ホ 「逆に閉じ込めてあるフラグでもあるな。」

ル 「逃げ場が無いとなると、やたらには炎を使えなくなってしまうな…。」

ホ 「肩のダクトの熱風とか使えるから充分だろ。」

ル 「まあ…。」

 

イ 「じゃあ、行くか。」

ホ・ル 「おう。」

 

意を決し階段を下る。

 

階段もその下階も電気がついていて明るく、遠くまでしっかり目視で確認できる。

 

ル 「…しかし、さっきからずっと見られている気がして落ち着かん。」

ホ 「いったいシュピーゲルとそいつはどこにいるんだ?」

 

 

小指がさす通りに進むと、〝Salone(大広間)〟と書かれた札の付いた部屋の前へたどり着いた。

 

イ 「ドア、とりあえず外しとこうぜ。」

ル 「そうだな。じゃあ…。」

 

ルカが尾をランスにしようとするが、いきなりホルマジオが走って割り込んできた。

 

ホ 「ヘブンズドアー!!」

イ・ル 「!?」

 

思いきりドアを蹴り飛ばし、蝶番を壊してドアを外した。

 

ル 「なんだよ、びっくりしたじゃないか!」

イ 「マジかよ、一撃で…。」

ホ 「ま、こんぐらいチョロいもんだぜ!」

 

先程のように戸を勝手に塞がれてしまったりもしうることを考え、外したドアはルカのランスで八つ裂きにして跡形なく破壊してから入室した。

 

看板に偽りは無く、かなり広い部屋になっている。

はじのほうに宴会等で使うための長テーブルとパイプいすが畳んでまとめて置いてある。

 

特に何の変哲もない部屋だ。

だが、その自然さに帰って底知れぬ不気味さを感じる。

 

ホ 「多分この部屋にシュピーゲルが居る。」

イ 「シュピーゲル!どこだ?居んなら返事してくれ!!」

 

 

 

…………。

 

 

 

 

ル 「……ん?」

 

ルカは何かのかすかな音を完治した。

 

ル 「ちょっと静かにしてくれ、爪がぶつかるような音がした。」

イ・ホ 「何ッ!?」

 

イルーゾォとホルマジオも耳を澄ませた。

今の音が全く分からなかったので、ホルマジオはティアマトの小指がさす方を向いた。

イルーゾォもそれに従って神経を集中させる。

 

 

…………。

 

 

イ 「…はっ!ここかも知れねえ!」

ホ・ル 「!?」

 

ルカよりも早くイルーゾォがそれらしき音をキャッチし、3人でそのデドコロらしき場所へ向かった。

 

一見、家具も物も何も無い。

 

ル 「まさか、壁の中…?」

 

ホルマジオはティアマトの小指をそこへ近づけてみた。

 

ホ 「おっ!?」

 

小指はホルマジオの手のひらを離れ、壁に磁石のようにくっついた。

それを見てルカは壁に耳を近づけた。

 

ル 「………。」

イ 「居るか?」

 

ルカは頷いた。

 

壁に耳を付け、さらに詳しく調べる。

この壁も見る限りでは収納スペース等も無い本当にただの壁で、あまり厚みもなさそうである。

 

だが中から音がするようで、ルカの目が動いている。

 

ル 「…たぶんこの辺に顔がある。」

イ 「なるほど。と、言う事は…。」

 

イルーゾォはいきなり剣を抜き、そこから少し離れた所を切断した。

 

ホ 「!?」

 

いかにも堅そうな鉄壁だが、粘土のようにあっさりと切れた。

 

ホ 「亜空切断!?」

イ 「分かんねえ。光ったがティアマトの剣自体の力かも知れねえな。」

 

剣をしまって壁の切断面の破片やホコリを手で払う。

 

イ 「居たぞ!」

 

壁の中からシュピーゲルの長いしっぽが出てきた。

 

ル 「でかしたイルーゾォ!」

ホ 「よし!」

 

ホルマジオはポケットに小指をしまい、怪力で壁を引きはがしにかかる。

 

ホ 「おりゃッ…!」

 

イルーゾォはいともたやすく切断していたが、実際はかなり硬い。

 

ホ 「このッ…!!」

 

全力で引きはがしにかかる。

切断面が鋭いため手や腕が切れてしまうが、全くお構い無しだ。

 

力任せに隙間を広げて行き、ようやく手を入れられるスペースが確保できるとシュピーゲルを両手で抱えて引っ張り出した。

 

ホ 「ふぅ、シュピーゲル!よかったぜ!!」

sp 「…!……!!」

 

シュピーゲルの口には黒い電気コードのようなものが巻かれていて声が出せないが、見つけてもらって嬉しかったのかムチのように激しくしっぽを振っている。

 

ホルマジオは彼をそっと降ろして口の電気コードをほどいてあげた。

 

sp 「…あ゙あッ!!すまん、どうなる事かと思った…。」

ル 「こっちこそすまない。この船が怪しいと伝えようとしてくれていたのに気付けなくて…。」

sp 「気にするな。オレは大丈夫だ。」

イ 「しかし、なんで壁の中に…?」

 

sp 「よく分からんが捕まった。スタンドの臭いの事を知らせようとしたのにことごとく邪魔されて、仕方なくイルーゾォの手に噛みつこうとしたら…。」

 

危険を伝えるためイルーゾォに飛びかかろうとしたシュピーゲルは壁の中から出てきた水銀状の手のようなものに口を塞がれて引きずり込まれ、下の階の壁の中に閉じ込められてしまったのである。

 

そのわずかな隙間の中で3人の足音を聞き、前脚の爪を壁に何度もぶつけてここに閉じ込められてしまっている事を伝えようとしていたのであった。

 

彼の口の周りはコードで強く圧迫された跡がくっきりと残り、右前脚の爪の根元には血が滲み、その苦労がうかがい知れる。

 

イ 「なんてこった…立つのも痛いだろ。」

ル 「今治してやるぞ。」

 

ルカは翼の内側にある小さく白い羽根を何枚か引き抜き、シュピーゲルの鼻の上と右前足の各爪の根元に刺した。

 

sp 「いつもすまない。」

ル 「傷自体は小さいから、すぐに治るハズだ。」

 

 

 

イ 「スタンドと本体はドコだ?」

sp 「分からない。ここに入る前からスタンドの臭いが出ていたが…。中に入ってもどこがその元か全く見当がつかない。オレを捕らえたあの手は本体のようだが…。」

 

ホ 「ん?」

 

話の途中、何かを察したホルマジオは後ろを見た。

 

ル 「痛ッ!」

3 「!?」

 

ルカの尾羽根を何者かが1本引っこ抜いた。

しかし尾羽根は発火し、何かの手は慌てて床の中へ引っ込んで行った。

 

ル 「やはり何かが近くにいる!オレの羽根は気を許していない奴が触ると発火する!」

 

床には一か所焦げた跡が残っている。

 

ホ 「くそっ、よく見えなかった!」

sp 「一体このスタンド使いは何が目的なんだ…?」

ホ 「コアからの刺客か?」

イ 「てか、コアって結局何なんだ?」

ル 「知らん。が、それよりも先にイルーナを見つけなければ…!」

 

 

 

壁の中からガタガタと音がした。

 

4 「!?」

イ 「ウワサをすればご本人登場か?」

 

壁をすり抜けるようにして何かが出てきた。

水銀のようなもので出来た、人間のような姿をした物体だ。

全体的に銀色で流金属状で、ラグビーボールを立てたような形の目らしきものがついているが、口などは無い。

 

本体かと思いきや、そうではないようだ。

一体ではなく、壁のあちこちから複数体湧いてきた。

どれも一行の事を敵意を持った眼で睨み付けている。

 

イ 「…ちょっと遊んで行くか?」

ホ 「いんじゃね?」

 

シュピーゲルは鼻を上げて匂いを嗅いだ。

 

sp 「…見た目は流金属状だが水銀ではない。恐らく触っても大丈夫だ。思う存分戦える。」

ル 「そりゃあ良かった。」

 

シュピーゲルは姿勢を下げ牙を向き、ホルマジオはリトル・フィートを呼び出す。

ルカは尾をランスにして構え、イルーゾォは剣を抜いた。

するとマン・イン・ザ・ミラーも現れ、どこからか鎖鎌を出現させて本体と同じように構えた。

 

ホ 「その鎌…!?」

イ 「えっ!行けるのか!?」

 

イルーゾォは期待したが、マン・イン・ザ・ミラーは申し訳なさそうな表情で首を横に振った。

 

イ 「なんだよ、見かけ倒しか。」

 

あきれたイルーゾォにマン・イン・ザ・ミラーは怒ってじだんだを踏み、壁から新しく湧いてきたヒトガタを鎌ですくい上げ、器用に振り上げて真っ二つに切断した。

斬られたそれは水あめのようにとろけ、形を失っていった。

 

イ 「…お…やるな…。」

 

目が点になったイルーゾォを見て、マン・イン・ザ・ミラーはちょっと得意げだ。

 

とろけたヒトガタだった物を見た他のヒトガタは怒り、一行に一斉に襲いかかってきた。

 

ル 「さてと、やりますか。」

ホ 「プロの殺し屋にケンカ売った事、後悔させてやるぜ!」

 

4人も応戦し、それぞれヒトガタに立ち向かう。

 

ヒトガタは力があり思いのほか硬いが、頭脳は無いようで上手く突けばすぐに倒せた。

がしかし、数が数なので少しでも攻撃を外すと複数体から殴られて酷い目に遭ってしまった。

 

ホ 「野郎ぉッ…!」

 

その手を喰らったホルマジオは頭に来て、倒したヒトガタ一体の頭を液状化する前に引きちぎり、ヒトガタの群れめがけて思いっきり投げつけた。

 

ホ「ドラアッ!!」

 

頭はその身体を次々貫通し、まとめて十数体を仕留めた。

 

ホ 「ストラーイク!」

 

 

 

 

 

ヒトガタを倒し続けると部屋の壁がどんどん薄くなり、湧いてくる数も少しずつ減ってきた。

 

 

イ 「もしや、壁崩したらもう湧いてこないんじゃあねえか?」

 

ふと思いついたイルーゾォは壁の一部をメッタ斬りして崩した。

 

ところが、斬り捨てた壁の破片から崩す前と同じようにヒトガタが生成され、全く意味が無かった。

 

イ 「クソッ!なんでだよッ!!」

 

ヒトガタが固まって動き出す前にさっさと剣で斬り捨てて蹴り飛ばした。

 

sp 「ズルは出来ないようだな!」

 

 

 

 

ル 「ん……?」

 

ルカは今イルーゾォが壊した壁の中から何かが出てきたのを見てそこまで飛んで行った。

 

ル 「これは…!?」

 

柄が長く、大きく重そうなスコップ(シャベル)だ。

 

ル 「♪」

 

それを手に取り、孫悟空の如意棒のようにひと廻しする。

 

ル 「懐かしい。」

ホ 「なんじゃそら?」

ル 「よし。」

 

ルカは笑うとスコップを振るい、華麗に次々とヒトガタを打ち倒して行った。

その動きは一切無駄が無く、全て一撃で仕留めている。

 

イ 「ランスより簡単に使えてんじゃねーか。」

ル 「スタンド使いになる前はこれが武器だったからな!」

 

ホ 「じゃあこっち貸してくれよ。」

ル 「え、仕方ないな…。」

 

ホルマジオは置いてあるルカのランスを借りた。

 

ホ 「俺だけアイテム無しはバえねーからなッ!」

 

喋りながらヒトガタを一刺しして倒した。

 

sp 「おいおい、オレもアイテム無しなの忘れてないか?」

ホ 「あ、そっか。」

 

だがシュピーゲルもアイテム等を使わずとも牙だけであさりとヒトガタを倒せている。

 

sp 「そんなの使わなくても素手で倒せるだろ。」

ホ 「まあなー!でも、武器がありゃ力も倍増さ!」

 

 

 

 

ル 「だいぶ数が減って来て壁が穴だらけだ!

もうすぐ倒しきれる!」

イ 「よっしゃ!」

sp 「おいイルーゾォ!半殺し!!」

イ 「えっ!?」

 

イルーゾォが首を刎ねたのに死ななかったヒトガタがホルマジオに襲いかかった。

 

ホ 「何ッ!?」

 

手を伸ばして首を絞められ、苦しさに焦ってヒトガタをランスで突き刺し壁にぶつけた。

 

ホ 「しまった!!」

3 「!?」

 

 

急に部屋内が暗転した。

 

運悪くぶつけた柱にあった電気系統を破壊してしまったのだ。

 

ルカの燃える翼とホルマジオが持つランス、及び蓄光でぼんやり緑色に光っているイルーゾォの剣と鞘でなんとか見えているが、全景ははっきりとは見えない。

ヒトガタの体とシュピーゲルの首輪のシルバープレートにそれらの光が反射している。

 

イ 「全く、何しやがんだ!足元見えねーよ!!」

ホ 「しょーがねーだろ、お前が仕留め損ねたせいでこうなったんだろうが!!」

イ 「はぁ!?ふざけんなハゲ!」

sp「ケンカしてないでさっさと片付けろ!!」

 

口を縛られていた影響でまだアゴが痛むシュピーゲルはキレ気味に言った。

 

イ 「分かってるってば!」

 

言われてイルーゾォは向かって来たヒトガタへ剣を大きく一振りし、一気に5体を胴から切断して倒した。

 

ル 「おお…。」

イ 「ほーらよ!ここぞという時の力はあるんだぜ!」

 

イルーゾォは得意気にドヤった。

 

しかし…。

 

ホ 「うしろ!!」

 

その背後からまた1体のヒトガタが現れ、イルーゾォを羽交い絞めにした。

 

イ 「何ィッ!?」

3 「!!」

 

すかさずルカはスコップでヒトガタの頭を打ち潰し、イルーゾォを離したそれの胴を更に横からホルマジオがランスで一突きし、トドメにシュピーゲルが首を引きちぎって倒した。

 

イ 「はわわ…助かった…。」

3「スキが多いぞイルーゾォ(デカいの)!!」

イ 「うう……。」

 

一斉につっこまれ、イルーゾォはちょっとヘコんだ。

 

 

イ 「と…とりあえずこれで全部か?」

ル 「そうっぽいな。」

 

もうヒトガタは湧いて来ず、部屋の壁はほとんど無くなって柱だけの状態になった。この大広間だけでなく船じゅうの部屋を仕切る壁がなくなってしまったようで、遠くの階段や上の回の床などとも所々透けて見える。

 

床にはヒトガタの残骸がスライム状になったものが広がり、炎や光を反射して輝いている。これによって遠景もわずかに見えている。

残骸は踏むとくっついてベタベタする。

 

sp 「肉球に付いて気持ちが悪い。早く出るとしよう。」

ホ 「だな。ここまでやれば本体もボコボコだろうしよ。」

 

ホルマジオはランスをルカに返して尾に戻させ、イルーゾォも剣をしまった。

シュピーゲルは足元の不快感が気になってしょうがない。

 

ホ 「あのへん特に薄そうだな。ブチ抜きゃ外に繋がるぜきっと!」

イ 「ランス使わなくていいのか?」

ホ 「これぐらいなら素手で楽勝よぉ!」

sp 「早くしてくれ~!」

ホ 「任せな!」

 

一行は船の前方側へ移動した。

 

 

 

 

 

しかしその時、ルカの背後に何者が音も無く現れた。

 

ル 「!?」

 

思わず一人、足が止まる。

 

イルーゾォ達かと思いきや、全員目の前にいる。

 

炎の光はあるが しっぽと右のラメントの目は文字通り鳥目のため、はっきりと見えない。

 

ル 「!!」

 

いきなり背後からがっしりと抱き付かれた。

 

 

声を上げたかったが、恐怖心から出すことが出来ない。

 

ル 「(…こいつ…男…だとッ……!?)」

 

 

あいての性別が分かるほど足まで密着され、耳に息を吹きかけられた。

 

気味の悪さに大量の汗をかき、震えが止まらない。

 

抜け出そうにも相手の腕の力は強く、全くビクともせず、翼や尾の炎にも動じない。

 

そのまま もがくルカを力づくで押さえつけ、首筋を舌でひと舐めした。

 

 

ル 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!」

 

 

恐怖にもう我慢できず、翼と尾の炎を爆発させ泣き叫んだ。

 

イ 「ん?」

ホ 「え?」

sp 「?」

 

壁をブチ破ろうと船の前方側に移動していた3人は声に驚きルカのほうを向いた。

 

3 「!?」

 

何かがルカの背後から飛び散り、船が大きく揺れ出した。

 

sp 「何だ!?」

イ 「地震?」

ホ 「崩れる!?」

 

3人も少しパニックになったが、船は崩れる事無く消滅していった。

 

 

 

 

 

気が付くと、全員が外の砂漠の上に居た。

 

CDや家具などのいくつかの物は残ったが、船体とヒトガタの残骸はきれいさっぱり無くなった。

 

ホ 「あれ…?」

イ 「たおした…?」

 

突然の事に一体何があったのか分からず3人は ぼう然としたが、ルカは1人恐怖にうずくまり、ずっとふるえて泣き続けていたのであった。

 

 

 

 

 

 

<次回予告>

トラウマにふるえて哭くルカ。

スタンド使いは死亡し、もう襲って来る事は無かったのだが…。

 

次回、イルの奇妙なX日間

#96 「ヒッポグリフ」

来週もご視聴ください。

 

注意ショッキングな表現あり。

 エグい描写が苦手な方はご注意ください。

 

注意注意次話、R18めいた非常に危険なシーンもあります(表現は極力削っています)。

シーン前に警告を付けますので、その手が苦手な方、18歳未満の方は該当部を読み飛ばしの上ご視聴ください。

 

 

補足など

 

・ペリット;鳥類などが消化できない羽根や骨を塊にして吐き出した物体の事。

 

・ゴールドシップ;日本の元競走馬(現種牡馬)。キャラが非常に濃くアイドルホースとして人気の馬ですが、芦毛馬最多G1勝理数+総賞金額を誇る実力者でもありました。

 

・ルカ受難曲について

作中で落ちてきたCDはバッハ作曲の物。それが最も有名ですが、実は近年別の人が書いた偽作である可能性が高まっています。この曲は全編クリスマス感満載で受難感が薄いです。

ベンテレツキ作曲のルカ受難曲の方がこのルカには合っています(こちらは全編カオス、聴くと心の闇の渦の描写が結構キツいです)。

 

・水銀は銀ではなく別の鉱物です。唯一無二の液体金属で強い毒性があり、微量でも人や生物を死に至らしめる恐ろしいものです。

#32 レコーダーレの回でも実践・言及されていますが、シュピーゲルは生前からこういった物質の臭いも嗅ぎ分けられる驚異的な嗅覚とそれを覚える記憶力を持っています。

 

・本話に出てきた「ヒトガタ」はハイエロファントグリーンの銀色バージョンのような姿をしています。

これ自体がスタンドではなく、スタンド本体から作られる端末のようなものだったようですが…その正体は一体…?