鑑賞した人の総合的な知識が豊富であればあるほど楽しめる作品であると感じた。歴史の知識がある人は歴史の切り口から、科学の知識がある人は科学の切り口から、他にも芸術や心理など、ありとあらゆる角度の扉を用意してくれている気がした。どれだけ多くの扉を開くことができるかはその人次第であると言えるだろう。

 

世界で唯一被爆した国の人という立場で見れば、アメリカのこじつけのような大義名分で原爆を落とされたシーンは正直胸糞が悪かった。

 

実験で失敗しかしてこなかった私の立場で見れば、研究者たちが時間と労力をかけて原爆開発に成功した瞬間の湧き出る歓喜は痛いほどわかった。ノーベルのダイナマイト然り、開発した彼らに使用権はない。科学者の無力さを痛感した。


この時代では、キュビズムと呼ばれる芸術様式が流行していた。キュビズムとは、対象を固定した単一の視点から写実的に描くのではなく、複数の視点から見たイメージを一枚の絵の中に集約し、対象を抽象的に描く手法である。

この作品ではピカソの描いた絵画を凝視するシーンがとても印象的で、主人公のセリフの中にもピカソが出てくる。これまでの人生、芸術分野(特に絵画)への興味など微塵もなかったが、キュビズムと量子論の登場が同時期に各分野で革命を起こしたという共通項を知れたことで新たな興味への扉を開くことができた。


量子論の歴史を学んできた私にとっては、名だたる科学者たちの総出演にただただ興奮しっぱなしだった。

 

またクリストファー・ノーランは主人公の感情の動きに合わせて静寂と喧騒を使い分けるのがとても巧妙だ。見ている人を引き込み、3時間超の大作を飽きさせない効果をもたらしていた。

オッペンハイマーのジーンへの口説き文句は圧巻だった。私もぜひ使ってみたい。


 

絶え間なく発展を続ける科学技術が人類を滅ぼすかどうかは人類の意思決定に委ねられるのだ。