天宮ですが?・1 | お気楽ごくらく日記

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白泉社の花とゆめ誌上において連載されている『スキップ・ビート』にハマったアラフォー女が、思いつくままに駄文を書き綴っています。

天宮千織。高校2年生。

最上キョーコと琴南奏江の友人である。
千織は、子供の頃に役者デビューを果たした女優である。


しかし、彼女の道のりは平坦なものではなかった。

彼女は子役の頃、『天東あかり』の芸名で活動していたのだが、《緋色のダイス》と言うドラマで『明』役で出演したのだが、この役がはまり役だったがために、人々に強烈な印象を残した。

その後ずっと、『天東あかり』=《緋色のダイス》の『明』役の図式が千織自身、拭えきれずにいた。

新しい仕事を取ろうとあちらこちらに頭を下げて回るも、断られる事の方が多かった。

いや、採用してくれる所がほとんど無かったと言った方が正しいかもしれない。


そんなこんなで修羅の道を歩んで来た千織の心は弱冠10代にして屈折しきっていた。

自分に触れるものは全て敵。この棘でズタズタに切り裂いてやる感が半端ない。

が、そこは腐っても業界人。自分の黒い内面を表に晒すことなく、高度な演技力と外面を良く見せかけることには大人顔負けのスキルの持ち主である。

その代わり、自分の心に溜め込んだ毒を吐き出す事が出来る人間が周りにいないので、それを吐き出すために常にノートを持ち歩き、腹立たしいことがあればそれに書き殴るという習慣を身に付けていた。


これまで歩んできた千織の道にひどく心を痛めていた彼女が所属している事務所の社長(見た目、ヤ×ザだが、義理人情に厚い好人物。)が、せめて高校ぐらいは普通の女子高生として通わせたいと千織に、仕事のスケジュールは気にしなくて良いから、学校を優先しなさいとこの高校を勧めたのだ。


そんな千織がこの学校で最も忌み嫌っている人物が約2名ほどいる。

その栄えある人物たちとは、不破松太郎と伝説のスーパーウルトラ高校生・敦賀蓮である。

千織が二人を忌み嫌っている理由は、同じ演劇部に所属する崇拝の対象でありかつ、友人でもある最上キョーコにある。


もっとも千織はいつも笑顔でいるキョーコの事も最初は嫌っていた。キョーコが笑っているのを見る度に、周りに媚び諂っているように見えてイライラしていた。

それが180度、方向転換したのは去年の文化祭の事である。


去年の文化祭の際、どうせなら自分たちで台本作りからやってみたいと上級生たちから意見が出、夏休み前からその準備に取り掛かっていた。

千織とキョーコの親友である奏江はその高い演技力を顧問や上級生たちに認められ、舞台に立つことになったのだが、高校から演劇に携わっているキョーコは当然の事ながら裏方に徹した。


千織がキョーコを見直し始めたのはキョーコの丁寧な仕事ぶりである。手先が器用なキョーコは衣装作りを一人で手がけ、その衣装に手を通した時の驚きは今でも覚えている。

文化祭直前の大道具を皆で作っている時の手際の良さにも、千織は毒を吐くのを忘れて感心した。

一番、千織に良い意味合いでショックを与えたのは、キョーコが演技をしている姿だった。

文化祭の3日前に、舞台に立つ予定だった一人の先輩が足を骨折してしまったのだ。会議を開いた結果、セリフも動作もあまりない役どころだからと、キョーコに白羽の矢が当たった。


これまで、演技の”え”の字すら知らない人間が舞台に立って演技するなんて身の程知らずだわ!!と千織は辛辣に考えていた。キョーコの演技を見るまでは。

セリフが入っていたらしいキョーコの演技力を皆で見ようと、キョーコがクローズアップされる部分だけをキョーコに演技させてるのを見た結果。千織は鳥肌が立つのを押さえられなかった。

普段は素うどんのようにどこでもいる平々凡々な女子高生なはずなのに、そこに立っているのは役を演じてる演技者と言うよりは、その役柄の人物そのものだった。


「不死蝶」


小声で呟いたその言葉を隣いた奏江が拾っていた筈なのだが、奏江は何も言わなかった。


《不死蝶》とは、千織が尊敬して止まないMr・Dなる人物が自らの著書の中で用いていた言葉である。

普段は何色にも染まらない透明な羽を持ちながらも、一たび役に入ってしまえばその役を演じると言うよりもその役の人生を生きることの出来る役者の事を指す言葉である。

その著書は、これまでの茨の道を歩んできた千織にとって指南書でありかつ愛読書で、心がポッキリ折れそうになる度に何度も何度も読み返してきた。


いつかは自分もそうなりたい。あるいはそんな人物と会ってみたいと心から願っていた。それが思いもよらぬ形で叶ったのである。


その不死蝶は、これまで演技に全く携わったことのない人間なのである。千織の体中を言葉では言い表せない戦慄が走った。


これ以降、千織のキョーコに対する評価は大きく変わったのである。


《つづく》


ちおりん、一話で収まらなかったm(_ _ )m

後編との二話で収まるかなあ。