美園中学校の応接室。その部屋には重苦しい空気が流れていた。
学校側からは校長と教頭、それから2年生を担当する教師が全員勢揃いしていた。
それから、ショータローと村雨の両親。
最大の当事者であるキョーコは、一人肩身が狭そうに座っていた。本来なら、母親である冴菜が真っ先に駆けつけなくてはいけない場面だと言うのに、仕事が忙しいからと言って、来なかったのだ。
その時の事をキョーコはぼんやりと思い出していた。
ショータローの両親が学校に着いた時、母親の冴菜が見当たらなかったので、「お母さんは?」とショータローの母親に問いかけた。
その問に「冴菜はん、仕事が忙しい言うて・・・」ショータローの母親は、気まずそうに答えた。
しかし、キョーコにはそれは幾重にもオブラートに包まれた物だろうと言う事はすぐに察しがついた。
母一人子一人の家庭環境の中で、こう言う時、何故来てくれないのかと言う一抹の寂しさを感じもしたが、一方で腑に落ちる物もあった。
今までも何があっても決して自分のことを顧みることは無かった母である。おそらく、冴菜は学校の教師には体裁のいい言葉を適当に取り繕ったのであろうが、本音を隠さなくても良いショータローの両親には本心を告げたのだろう。
「カツアゲされるのには、キョーコにも落ち度があるのよ。自分の娘だからって、被害者振られても困るわ。」とでも。
因みに、ショータローと村雨はこの場にはいない。喉元を過ぎればなんとやら。強面の刑事たちに取り調べを受けていた時には、愁傷な表情を見せていたものの、それが終わった途端、自分達のした事に罪悪感を覚えるどころか、綺麗サッパリ記憶の彼方に葬り去ったのである。
それを刑事も教師も見逃すはずもなく、相談した上で、二人を一晩留置場に放り込むことに決めたのだ。
ショータローの両親は、我が子のように可愛がっていたキョーコに、自分たちの息子が度々タカっていた事を警察で、ショータロー本人の口から聞かされてショックを隠しきれなかった。
だから、学校でキョーコの姿を見たとき、二人はキョーコを抱きしめて、「堪忍やで、堪忍やで。」と只々謝罪し続けた。
ショータローの両親はそれでよかった。しかし、それで済まなかったのは村雨の両親である。
まさに、”この親にしてこの子あり”を地で行っていた。
息子が留置場に入れられて、動転していた事もあるのだろう。しかし、それを割り引いても村雨の両親の態度は酷いものだった。
中学校の応接室に入り、キョーコを見つけると睨みつけたのだ。そして、
「アンタのせいで、うちの泰平が、中学生の身で警察なんぞの世話になる事になったんや!!この落とし前、どう付けてくれるんや!!!ああ?」
はっきり言って、その言葉遣いと言い口調と言い、完全にや○ざである
その恫喝にキョーコの体はびくりと震えた。
「村雨さん、それは責任転嫁です。」毅然とした口調でそう告げたのは、たおやかな風貌の緒方である。
「村雨君はもう中学2年生なんです。何も分からない幼い子供じゃありません。善悪の分別が付いた上で、彼は不破君と一緒に彼女から金銭を巻き上げようとしました。」
息巻いてる村雨の両親は不服そうにしている。と言うより、聞く耳を持っていない感じである。
「ああ?それがどうした?」
「中学2年生は、子供でも大人でもない。とても曖昧なボーダーラインに立っていて不安定な状態にいるんです。これは年齢問わずに言えるのですが、あまり素行の良くない友人達と連れると、どんどん素行が悪くなる。そして、子供達と言うのはどんな拍子で坂道を転げ落ちるように闇に落ちて行くのか分かりません。」
村雨の両親は不承不承ながらも頷いた。が、完全に受け入れた訳ではなさそうだ。
そして、緒方の後を継いで安南が続けた。
「そして、村雨君も不破君もはっきり申し上げましょう。あまり素行の良くない連中とつるんでいます。と言うより率先して、そういう仲間の所に行くように見受けられます。だから我々教師もなるべく目を光らせてはいたんです。二人を留置場に入れたのには、頭を冷やさせるためと、一度痛い目にあった方がいいと我々が判断した結果です。物事の善悪を叩き込むために、今回の処置に踏み込みました。だから、最上さんに八つ当たりするのはお門違いというものです。」
「それに最上さんが二人からカツアゲされたのは今回だけの話ではないんですよ。学校でも何度もされているのを彼女の友人や我々も目撃しています。その度に児童相談所に連絡すると言うと、最上さんは必死になって、それは止めて欲しいと言うんです。それは何故か、分かりますか?不破さん。忙しい母に代わって自分の面倒を見てくれているあなた達に迷惑をかけたくないからと言うんですよ。」
そこまで聞いた時、先ほどキョーコに謝罪した姿はどこへやら、ショータローの母親がキョーコに食って掛かり始めた。
「キョーコちゃん!!松太郎があんたから金を巻き上げたのは謝ります。けどな、あの子が素行の良うない連中と付き合うてんの、あんた知ってたんちゃうの。あんたにあの子を任せといたら大丈夫や思うとった私がバカやったわ。」
その言葉を聞いて、キョーコはますます肩身が狭くなった。
しかし、「不破さん。なぜ最上さんが松太郎君の面倒を見ないといけないんですか?」静かにそう問いかけたのは主任の飯塚である。
「それは・・・・うちらは旅館の切り盛りが忙しいよって・・・」しどろもどろにショータローの母親が言うと、
「あなた、それでも親ですか。旅館経営も大いに結構ですけど、それ以前に自分の息子の躾ぐらい、他人に・・・それも子供に任せずにあなた自身でおやりなさい!!」
いい加減、村雨の両親とショータローの母親の言動にぶち切れていたのだろう飯塚が机を拳でドンと叩いて渇を入れた瞬間、パチパチと拍手がしたかと思うと応接室のドアから見慣れないスーツ姿の紳士が現れた。
《つづく》
ショータローたちが留置場に入ったのは、くりくりの八つ当たりです(苦笑)暑さのイライラに加え、職場では日本語の通じないおばさん(日本人です!!)にイライラさせられ、ストレスマックスなのです(x_x;)