~回想 蓮編②~
気がつくと、そこはいつもの自分の寝室ではなく、見覚えのある豪奢な部屋だった。
寝起きの頭が上手く働かないまま、ボーっと天井を見るともなしに見ていると、横から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「よう、蓮ようやく気づいたか。」相変わらず、どこの国の王族ですか、あなた。と突っ込みを入れたくなるような煌びやかな衣装を纏った社長がそこにいた。
「・・・ここは・・・。」
「ああ、面倒だったから事務所にお前を連れてきた。」
そういえば、半狂乱でキョーコの姿を探していた俺の下に社さんと社長の付き人が現れたのをようやく思い出した。
「キョーコを探さないと!」とベッドから降りようとしたのだが、
「大人しくしろ!!最上君が今どこにいるかは分かってる。色々ややこしい事情が絡んでるみたいだから、これからその話し合いと対策を練るぞ。」
俺には、そんな悠長なことをしている時間なんてこれっぽっちもないんだと、社長を睨み付けたが、フフンと鼻で笑い飛ばされた。
「んな怖い顔をするな。”急がば廻れ”っつう諺が日本にはあんだよ。いいか、よく聞け、蓮。焦っても、いい事なんざねえんだよ。兎に角、隣の部屋に来い。」
言いたいことだけ言うと、社長は隣の部屋に消えていった。
俺もしぶしぶ社長の後から隣に行くと、そこには先ほどの社長の付き人と社さんだけでなく、椹主任や松島主任までもがいた。
俺が社さんの隣に座るのを見届けてから、社長は口を開いた。
「今朝早く、最上君が俺を訪ねて来た。用件は、引退したいとのことだった。」
その場に一瞬で緊張感が走った。俺は全身から血の気が引く思いがした。(・・・そんなこと、一言も聞いていない・・・)
「おい、大丈夫か?蓮。」社さんが気遣うように小声で話しかけてくれたが、俺は頷くのが精一杯だった。
「最上さんが引退したい理由って、何だったんですか?」キョーコを娘のように思っている椹主任がその場の全員の気持ちを代弁するように訊くと、
社長はチラリと俺の方に視線を向けてから、口を開いた。
「彼女の母親が、アカトキの不破尚君と結婚しろと言ってきたらしい。もし最上君がそれを拒否すると、蓮が日本で芸能活動を出来ないように妨害すると脅迫されたそうだ。」
まだ見ぬ彼女の母親に対して、その場の全員が殺意にも似た怒りを感じた。
「最上君は、蓮との未来を望んでいるんだ。そのために、不破くんとの結婚を白紙に戻すために一度、京都に戻ることにしたそうだ。ただ、どれだけ時間が掛かるか分からないから、引退をと考えたらしい。」
尤も、それは退けたがな。と社長が続けたので、安堵の息が漏れた。
そこまで思いつめてるキョーコに気が付かなかった己の不甲斐なさに怒りが湧くとともに、何故、俺ではなく、社長に頼ったんだと、キョーコに対しても怒りを抑えられなかった。
《つづく》
私に、シリアスな話は無理だとこれで判明!!いえ、最初から分かってはいましたけどね?
コメディの方が書きやすいです(;^_^A