龍が蠢く | 栗城史多オフィシャルブログ Powered by Ameba

龍が蠢く


  「こんなに空は晴れているのに。」ただ上を見上げて、見えない壁をベースキャンプから眺め続けています。

 6日のキャンプ2から7200mのキャンプ3に向かおうとしていたが、8日の夜から来る「ジェット・ストリーム」の予報を聞き、冷静に判断した結果、一時下山して、ジェットストリームが去るのを待つことにしました。

 ジェット・ストリームはヒマラヤ特有の強風で、まさにジェットのように強風が数日間吹き荒れる。

 キャンプ2にいる時にも、エベレストの南西壁に「ゴーゴー」と風が当たり、不気味で巨大な音が鳴り響いていた。

 ローツェ、サウスコルも強風で巨大な雪煙が龍のごとく蠢いていた。あの龍に飲まれる前に登頂するか、それとも龍が去るのを待つか。

 僕は待つ方を選んだ。9日に登頂しても、無酸素でジェットストリームの中を下山するのは難しい。風速は25~30mにも及ぶ。

 今は日本最高レベルの山岳気象予報士の先生から天気予報をもらえるが、登山を始めたばかりの頃は、低気圧の冬山登山でえらい目に合い続けたことがあった。

 大学山岳部の時に、冬の北海道二ペソツ山では身体ごと飛ばされたことがあり、稜線で身体を風の方に倒してようやくバランスが取れる程の強風だった。

 マッキンリーに向かう訓練で一人、冬の富士山に向かい山頂でテントを張るが、あまりにも強風で、テントのポール2つが一瞬で折れ、ただのビーニル袋の中で一夜を経験したことがある。

 どれも今ではいい思い出でだが、ヒマラヤのジェットストリームはその強風が長き、そして、山のスケールが違う。ジェットストリームの中での下山はとても危険と僕は判断した。

 もしかすると天気もお天道様の気まぐれで変わるかもしれないが、予報を知っていて登っていくのはいい判断だとは思えない。

 たしかに快晴の空を眺めていると今でも行きたくなる。しかし、その快晴の山の肩に龍が蠢いているのは確かに見えていた。

 現在、ベースキャンプにはエベレストに向かう韓国隊とローツェに向かうポーランド隊がいるが、皆、予報は若干の違いがある。同じ悩みは、このジェットストーリムの前か後かでかなり悩んでいる。

 どちらが正しいとは今も過去になっても言える人はいないだろう。お天道様と山の神様の言う通りに、そして、自分の体調と全てが合致した時にようやく登頂できるのである。

 ただ、合致するために僕はずっと山を眺め続け、時が来たら一気に向かって行く。

 
写真1 プモリレイクから撮影したエベレスト。強風で雪煙が舞う。6日朝撮影。




写真2 キャンプ2から戻る途中。キャンプ1にいた撮影班(石井・門谷)のテントが強風で壊れていた。近くの韓国隊かポーランド隊のテントも潰れていた。僕のテントはキャンプ2にデポしてあるので大丈夫です。



写真3 ベースキャンプに戻ると、テレビ東京・梅崎プロデューサーが眼鏡にマシュマロをつけて遊んでいた。ベースキャンプと上との温度差をいつも感じながら登って行く…。