近くて遠い場所(ベレスト西稜登頂まであと37日) | 栗城史多オフィシャルブログ Powered by Ameba

近くて遠い場所(ベレスト西稜登頂まであと37日)

 いつも行きたい場所は近くて遠いものである。

 
  ルクラへの飛行機が悪天候で飛ばなくなって
3日目。ホテルで待てと暮らせど、モンスーンという雨期には誰も手は出せない。じゃあモンスーン明けに行けばいいじゃかないかと思うかもしれないが、秋のエベレストは冬に近づくため、気圧(酸素濃度)が徐々に下がり、そして、日照時間が短くなる。並べく、このモンスーンに入り込み、気圧が高いうちに登るのが作戦だった。しかもモンスーンでもルクラへの飛行機は飛ぶ時はきちんと飛ぶ。問題は悪天候でフライト中止が長引く時がたまにあるということだ。カトマンズに入った時は、まだ飛行機は飛んでいたが、ちょうど僕らが飛ぼうとした時から悪天候の周期に入った。


 しかし、ルクラへの切符は突然やってくる。お昼時にさて今日は何を食べようかと考えているとサーダー(シェルパ頭)が「今、飛行機が飛そうです」と伝えにやってきた。慌てて、中継•撮影の栗城隊が全員身支度をし始めるが、初参加の大月一眼レフカメラマンは何が起きたのか分かっていないようだった。後から聞いたが、石井カメラマンが「行きますよ!」と言うと「どこへ行くんですか?!」とう返答が返ってきたそうだ。


 ルクラの飛行場に手続きを済ませ、タラエアーというツインオッターの古くて、小さな飛行機に寿司詰め状態で中継機材と隊員全員が乗り込む。早速、エンジンが作動し黒い黒煙が出始める。この飛行機は、何度も乗って来たが、いつも緊張を忘れさせない飛行機だった。

  それは2010年のエベレストに向かう時、今以上に悪天候が続いた。その中でフライトチャンスが出始め、一便目の飛行機が飛び出し、僕が乗っている2便目も飛び出そうとするとあまりにも天気が悪いということで滑走に入る直前に中止となった。その後、再び空港に戻るとさっき飛び出していった一便目の飛行機が途中で墜落したというニュースが入ってきた。その一便目に僕の友人であるデンバさんが乗っており、帰ってくることはもう無かったのである。他にも空港ロビーで知り合った日本人大学生もその飛行機に乗っており、その悲しみを背負ったままエベレストに向かうこととなった。


 それからというものこの飛行機に乗るときは、必ず心の中で祈りを捧げる。それを知らない初参加の隊員は、上下に揺れる飛行機と可愛いキャビンアテンダントさんに興奮していた。


 飛行機は途中で大きく旋回し始め、カトマンズの空港に戻って行く、あの事故が教訓となり、少しでもルクラの天候が悪くなると引き返すそうだ。


 空港について初参加のラジコンヘリ•パイロットの山口さんがこう言った。


 「ルクラの空港大きいですね。こんなに早く着いちゃうですね」引き返してカトマンズについたということに山口さんはしばらく気づいていなかった。


 ルクラは本当に近くて遠い場所。明日は飛びますように。でも、慎重に。


 

 ナマステ。