安心する一言(登頂まであと8日) | 栗城史多オフィシャルブログ Powered by Ameba

安心する一言(登頂まであと8日)

ナマステ。

ベースキャンプに下りて来て、いよいよ22日から本格的に南西壁に向かいます。

現在のベースキャンプは雪。
雪崩が心配ですが、あの青々とした固いブルーアイスに取り付くのは、恐ろしくもあり楽しみでもあります。

マン・サーダーという男を知っているだろうか。
シェルパのリーダーであり、遠征の「解説者」という役目でも、栗城隊には欠かせない存在。

鳥の帽子をかぶり、朝から晩まで踊っては食べる。
ヒマラヤの経験は豊富。
「サーダー」(シェルパのリーダー)というのは、誰でもなれるわけではない。
それなりの経験と人徳がなれければいけない。

このマン・サーダーに直接会うと、浮浪者にしか見えない。

経験豊富といっても、アンナプルナでも今回のシシャパンマでも、「初めてですから!」と自信満々に言う。
僕が「今回、何しに来たの?」と聞くと、「遊びに来ました!」と自信満々に言う。

そんなマン・サーダーと南西壁の氷河に向かい、左と右の二手に分かれてルートの偵察を行った。

シシャパンマ南西壁の顔は、ABCから見える横からの顔と、近づいて正面から見る顔立ちとは、全然違う。
横から見るとスマートな顔をしているが、正面は複雑な表情をしており、笑った表情など全くなかった。

巨大なセラック(家一軒分くらいの氷の固まり)、500m以上もあるブルーアイス(氷の純度が高く固い)が待っていた。

何時間も顔(壁)を眺め続ける。
「少しは笑って下さいよ」と言っても無表情のままだ。

しかし、「ちょっとだけよ」と見せてくれたものがあった。

「ここだ!」
複雑な表情の中に数本のルートがあるのだが、その内の一本が見えた。

本当はスキー滑降を行う為に右端のルートを見ていたが、「ここだ」という感覚はなかった。
マン・サーダーは左端に向かい、落ち合ってから「やっぱりここだね」と話した。
久しぶりに、サーダーと自分が考えているところが同じだった。

「やっぱりここか。」

蜘蛛の糸をたぐるような、一本の真っすぐなルート。
南西壁を初登頂した82年の英国隊ルートの右横のルート。
ここが頭から離れなかった。

「隊長、ここ登ったらすごいね」

「登ったらね。行けるかな?」

「行けるよ。隊長なら。」

普段は適当なことばかり言うマン・サーダーだが、僕はかなり信用している。
2007年のヒマラヤ初遠征でチョ・オユー (8201m) 単独・無酸素登山の時に、エージェントの仕切り役としてマン・サーダーが同行していた。

チョ・オユーのアタック時、残り100mの所で悪天候のため断念。
下山したのだった。

ベースキャンプで待っていたスタッフは全員悲しんでいたが、マン・サーダーだけは違った。

「おめでとうございます。」

「なんでおめでとうなの?」

「だって初めてのヒマラヤで、あそこまで1人で登ったのはすごいよ。初めてだよ。」

マン・サーダーは、チョ・オユーもエベレストも何度もサミット(登頂)している。
僕はその後、再び登り返し、無事にチョ・オユーをサミットすることができた。

それから、マン・サーダーは何度も遠征に「解説者」として同行している。
いつもマン・サーダーは、期待に応えてくれる。

2009年秋のエベレストの時、これは僕にとっては重要な遠征。
同行するはずだったマン・サーダーの姿は、ベースキャンプになかった。
電話して「今どこにいるの?」と聞くと、「上高地で布団を運んでいます」と意外な答えに絶句。

2010年秋のエベレストでも、ベースキャンプにマン・サーダーの姿はなく、電話で「今どこにいるの?」と聞くと、「上高地にいます」とまた意外な答え。

その後、遅れてベースキャンプに着き、開口一番「今年は天気悪いから駄目だね」と希望のかけらもない。

そんなマン・サーダーの「隊長なら行けるよ。」
その一言が自信になるわけではないが、最も安心する一言だった。
なぜなら僕も「行ける」と思っているから。


明日、登攀の準備をして、22日から向かいます。

ナマステ。


5月16日~17日の動画



5月18日の動画



5月20日の動画




写真1 シシャパンマ南西壁。今回の登攀予定のルートです。
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写真2 夜のシシャパンマをバックに、立ちションするマン・サーダー。門谷君が夜の風景を取ろうとしていたら、たまたま写った貴重な写真。
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写真3 ABCから望むマン・サーダー。この鶏の帽子をかぶり、本当に自分は鳥だと思っているかもしれない。
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