おはこんばんちは!

 

あっという間に夏が過ぎて、いよいよ読書の秋がやってきました笑い

そしてひさびさにブログを書くことができました。うれしい。

 

今回の本は『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと

旅仲間のおすすめ本です。

 

興味をそそられるタイトルキラキラ

日本では「ありがとう」と「ごめんなさい」が大事なのに、それがいらないってどういうことでしょう。

 

著者プロフィール

奥野 克巳(おくの かつみ、1962年 - )は、日本文化人類学者。主に東南アジアをフィールドとする。立教大学異文化コミュニケーション学部教授。

 

本書は著者のブログ「たんなるエスノグラファーの日記」から出発した本。

ブログを読んだ亜紀書房の方から感想が届き、その後に本書の前身となるウェブマガジンの連載、そして書き下ろしの追加・改稿して出版となったそうです。

 

目次

はじめに

1 生きるためにたべる

2 朝の屁祭り

3 反省しないで生きる

4 熱帯の贈与論

5 森のロレックス

6 ふたつの勃起論

7 欲を捨てよ、とプナンは言った

8 死者を悼むいくつかのやり方

9 子育てはみなで

10 学校に行かない子どもたち

11 アナキズム以前のアナキズム

12 ないことの火急なる不憫

13 倫理以前、最古の明敏

14 アホ犬の末裔、ペットの野望

15 走りまわるヤマアラシ、人間どもの現実

16 リーフモンキー島と、リーフモンキーと、人間と

おわりに ー熱帯のニーチェたちー

参考文献

目次を見ただけで、著者によるフィールド調査は凄まじくユニークな体験だったことが想像できます笑い

 

プナンとは

本書のキーワード「プナン」

プナンとは、ボルネオ島(マレーシア、インドネシア、ブルネイの三つの国から成る)に暮らす、人口約一万人の狩猟採集民族あるいは元・狩猟採集民族である。

 

熱帯の贈与論

 

プナン社会において「ありがとう」「ごめんなさい」がいらない背景として、まず押さえておきたいこと。

プナンにとって、寛大であることは重要な美徳である。

プナン社会では、与えられたものを寛大な心ですぐさま他人に分け与えることを最も頻繁にする人物が、最も尊敬される。

「寛大な心で他人に分け与える」気づき

 

この一節を読んで、ふと「世界一貧乏な大統領」として有名になったウルグアイのホセ・ムヒカさんのことを思い出しました。

ムヒカ氏は「ペペ」の愛称で知られ、2010~15年に大統領を務めましたが、当時収入のほとんどを寄付して質素な生活をしていました。まさに「寛大な心で他人に分け与える」人ですラブラブ

 

さて(話を戻して)プナン社会ではなぜ、このような社会道徳が発達してきたのか?

それは、食べることと生きることに深く関連するように思われる。

狩猟に出かけて獲物が獲れなくても、隣の家族で獲物が獲れた場合には、そちらに行って食べさせてもらう。逆の場合、つまりこちらで獲物が獲れてあちらで獲れなかった場合、こちらはあちらに惜しみなく食べ物を分け与える。

プナンでは「ケチはダメ」という規範が広く広く浸透している

つまり「狩猟採集民族」であることで、この社会道徳が自然と身についたのかもしれません。
 

さらに!読み進めると面白いのが「狩猟採集民族」であることだけでもなさそう。

 

熱帯のニーチェたち

以下「おわりに」からの引用。

プナンにとって、自我は個人所有する主体ではない。

ものだけなく知識や技能などの〈非・もの〉を含め、プナンは、芽生え始めた個人的な独占欲を削ぎ落とす。

これらの価値観はニーチェ哲学からも紐解くことができるようです。

本書ではニーチェ哲学の重要な概念をいくつか紹介していますが、その中からひとつ「大いなる正午」について。

 

電球ニーチェの説いた「大いなる正午」

ニーチェは「大いなる正午」という比喩を用いて、価値観をめぐる根源的な問いに気づくことの大切さを説いている。

大いなる正午とは、真上から強烈な光に照らされて影の部分がない、善悪がない状態である。

「影が見える」から「明るい部分」と「暗い部分」が生じ、「これは善い」「あれは悪い」という善悪の価値判断が現れる。

つまり、強烈な光の中では善悪の価値判断は現れない。

大いなる正午とは、世界には固定された絶対的な価値観(神、常識、事実)が存在しないということを、体験を通して理解することに他ならない。

本書の魅力は、プナンとの暮らしを通して「大いなる正午」を理解するためのいくつかの糸口を示していることなのかもしれないなと思いました。

 

以下、著者の問い掛けからもプナンの暮らしが示す世界の可能性をみることができます。

私にとって、ボルネオ島の森でプナンと一緒に暮らすことは「大いなる正午」を垣間見る経験だった。それは「すべての価値観、すべての意味付け、すべての常識が消え去り、何ひとつ『こうである』と言えるものがない世界」に触れることへの入り口だったのではあるまいか。

 

  本書の感想

おもしろかったー笑い

哲学が暮らしに根付いているプナン社会に関する興味深い調査記録と考察でした!

新しい世界に触れることは楽しいですね。

 

「ありがとう」「ごめんなさい」がいらないプナン社会では「時間の概念も持たず、反省もせず、向上心も持たない」という。

私にはとても高尚な人たちのように思えました。

でも、たぶん、私は森の民とは一緒に暮らせないだろうなぁ。どうだろう。

 

「森の民と暮らしてみたい!」と思った方やニーチェにご興味がある方はぜひ本書を手にとってみてくださいませ。

 

電球おまけ

本書で紹介されているニーチェ哲学の重要な概念のひとつ「遠近法主義(パースペクティヴィズム)」

 

遠近法主義とは

ある見方に対して、別の見方があると考えるアイディアである。

誰もが同じ世界に生きているわけでなく、個々人にとって世界はそれぞれ違って見える。

知識、経験などといった自分なりの事情で世界を眺め、重要と感じるものは大きく扱い、そうでないものは小さく扱う。ニーチェによれば、そのように誰もが主観的に見て、感じて行動しているにすぎず、客観的な正しさなどというものは存在しない。

 

おしまい。

拙い文章を最後まで読んでくださりありがとうございましたスター