朝夕は冷房要らずの季節になった。
昼間出かける時も、7月や8月のように
身構えていない気がする。
そして夜は、虫の音に涼しさを感じる。


夏の間、アイスばかり買っていたのに、
今日はスーパーでコーヒーゼリーを
買った。母の好物だから。

母にお供えしている時に、ずっと記憶の
底にあった出来事が心に浮かんだ。
あの時が母と一緒にコーヒーゼリーを
食べた最後の時だったのだと、
今になって噛みしめる。



母が倒れて故郷(信州)の病院で手術をした
のは5年前。
その後、同じ信州でも妹の家に近い病院に
転院して、リハビリが始まった。
そのころのこと。

その病院へは駅から歩いて行けた。
車の運転ができない私でも一人で行くこと
ができた。
特急から各駅の電車に乗り継いで、
週末に通った。

真夏の信州は、空気はカラッとしていても
直射日光は強い。
歩けば衣服を通して、痛みを感じるような
陽射しが降り注ぐ。

駅前の観光案内所の女性が病院への
近道を教えてくださった。
線路沿いに歩くその道には、
背の高いグラジオラスが一群れ咲いていた。

朱色や黄色の大きな花が、澄んだ空気の中で

驚くほど色鮮やか。

暑さの記憶とともに心に焼きついた。


その時、母は手に麻痺があったのだろうか。
なぜか、私がスプーンでコーヒーゼリーを
食べさせてあげた。

八王子で電車に乗る前に、デパートの
洋菓子店で買ったコーヒーゼリー。
少し高級感があった。

母は何度も「美味しいね~」と、
私がスプーンで口もとに持ってゆくのを
催促する。
そんなひとときだった。

その日は来れなかった妹にメールで報告。
翌日に返信があった。

それによると、母は私が会いに行った
ことも、コーヒーゼリーのことも、
まったく覚えていないという。

それを知って、ちょっとがっかり。
でも、なんとなくホッとする気持ちにも
なる。

頻繁に会いに行ってあげられないのなら、
無かったことになってもよいと思えた。
待っていたら可哀想だから。

あの時、おいしそうに食べてくれた笑顔
だけでよいという気持ちの方が強かった。

今日は、3個で1パックのコーヒーゼリー。
ちょっと物足りないかな。
久しぶりだから、おいしかったと満足
してそうな写真の笑顔。


台風なしの今週末。

穏やかに過ごせるとよいですね♫