お正月三が日も終わり、お猪口と徳利を

仕舞った。

私は飲んべえだけど、普段はワイン党で、

時折、日本酒をたしなむ。

その時は、小さな九谷焼のお猪口を愛用

している。



仕舞った有田焼のお猪口には、ちょっと

痛い思い出がある。

バブル経済に浮き足立っていた1990年、

集まりがあって赤坂(東京)にでかけた。


ちょっと時間があり、陶器店に立ち寄る。

高層ビルに挟まれた一軒家で、がんばって

いる感じが好きだった。

サカスができる時、飲み込まれるように

なくなり、とても残念。


私はそのお猪口に一目惚れした。

青みがかったグレーの地に、何のお花か、

クリーム色の大きなのと、赤い小花、緑の

葉が描かれている。

パステルトーンの絵付けが上品で、手にす

っぽりと納まる。


たいしたことないと思い、値段も確かめな

かった。レジで値段を告げられ「ひぇ―っ」

と声をあげそうになる。

でも、後には引けない。格好つけたい。


薄給の私は、清水の舞台から飛び降りて、

その月は家計が捻挫した。

そんな痛い思い出のお猪口である。



徳利は伊賀焼の生活雑器である。

口から半分、うす緑の釉薬がかけられ、

下の方は素焼き。

長年愛用してきて、素焼き部分が酒焼けして、

つやつやと、たまらない景色になっている。


真ん中辺りに、えくぼのようなくぼみが

あって、手にした時の感触も気に入って

いる。


奈良の割烹料理屋の板前さんが、自分で

焼いたのを、くださった。

お店で飲んでいた時、私が何度もえくぼに

指を当てて、眺めていたから、

「気に入ったのなら差し上げます」と笑った。


器はお値段ではないといつも思う。

出合いの記憶と日々の愛着で、よい景色に

になってゆくように感じている。



今日も一日、はりきってお過ごしくださいね。