期待できない「女性の活躍」促進政策
(連合総研研究員 高山尚子)
安倍首相は4月に行ったスピーチで、「第三の矢」である成長戦略の中核として「女性の活躍」促進政策を打ち上げた。いわく、3歳になるまでは男女が共に子育てに専念でき、その後に、しっかりと職場に復帰できるよう保証する「3年間抱っこし放題での職場復帰」を支援するという。一見、女性に配慮したかに見えるこの政策は世の女性に期待をもたらしたであろうか。答えは否である。
スピーチの中にある「いまだに、多くの女性が、育児をとるか仕事をとるかという二者択一を迫られている」という現状認識は間違っていない。それがなぜ「育児休業3年」という政策につながるのか。
3年もの間仕事を休んでしまっては、キャリアに穴が開き、復帰へのハードルも上がることになる。企業側からすれば3年間休むことが見込まれる女性を積極的に採用しようと思うだろうか。さらに、女性を基幹業務に位置付けることができずに補助的業務にしかつかせない可能性もある。一体女性に働いてほしいのか働いてほしくないのか。
女性は育児休業の期間を長くしてほしいのではない。まずはきちんと育児休業を取れること。そして育児休業から職場復帰した後、仕事と育児を両立できる環境を整えてほしいのだ。
育児休業の取得率は87.8%(平成23年度調査)と高位で推移しているが、これは在職中の者をベースにした数字である。出産前に仕事をしていた女性の約6割が出産を機に退職しているのが現状であり、出産前後で就労を継続している女性の割合はこの20年間ほとんど変化していない。また、育児休業取得率を企業規模別にみると、30人未満の企業では5割を超える程度にとどまり、小規模企業ではまだまだ両立支援策が整っていない。
さらに問題なのは、育児休業の制度はあっても、子どもを保育所に入れるために早期に仕事に復帰する母親が多いということだ。都市部の多くの自治体では、保育所の定員に余裕がなく、0歳児のうちから保育所に預けなければ、定員が埋まってしまう。復帰したい時期に保育所に入れられなくなる事態を防ぐため、休業期間が残っているにもかかわらず、職場復帰しなければならないのだ。まずは1年~1年半の間きっちりと育児休業を取り、それから保育所へ預けることができる環境を整えるべきだ。0歳児保育にかかる財政コストから見てもその方が望ましい。
育児休業復帰後の時短勤務、始業・終業時間の繰上げ・繰下げ、残業免除などの両立支援策ももっと充実すべきだ。ただし、こういった制度は、職場での協力的な取り組みや上司の理解とマネジメント、個人の職務の明確化などがなければ円滑な運用が望めない。労働組合としても、制度の創設を求めるのみではなく、働き方のチェックや職場の環境整備などにおいて果たす役割は大きいはずだ。また、組合としてコミュニケーションの場を設け、子育て中の女性の置かれている状況について理解を促し、職場の協力を求めるとともに、出産前の女性が将来の働き方のビジョンを持ちやすくすることも必要だろう。
安倍首相は、多くの女性が「二者択一を迫られている」と指摘した。それはつまり、個人が選択肢を与えられているのではなく、「両方しっかりやれ」という社会的圧力の中、やむを得ずどちらかを選ばざるを得ない状況に追い込まれているということだ。
「少子化で労働力が足りない。女性も社会に出て働け」
「少子化で子どもが足りない。子どもを産め」
「子どもを産んだからって甘えるな。仕事をすぐに早退するなどけしからん」
「でも子育ては母親がちゃんとやれ」
世の女性たちはまったくのダブルバインドを押し付けられている。
連合が5月に実施した調査によると、在職中に妊娠が分かった女性の6割超が、「仕事と妊娠・子育てへの不安を感じた」としている。実は、私自身もそうした不安を抱えている一人だ。先輩は時間をやりくりしながら仕事も育児もこなしている。職場には制度も整っている。私も後に続きたいとは思うが、そこまでこなせる自信がない。仕事も家事も効率的にできるように努力すればいいと言われればそれまでだ。しかし、漠然とした不安が、子を持つことをためらう女性を増やしている要因でもあるのではないか。
「日本再考」の成長戦略─「千本の矢」のゆくえ
(連合総研所長 薦田隆成)
2006年6月に経済財政諮問会議で了承された「経済成長戦略大綱」は、以後毎年のように作られ続けてきた「成長戦略」の第1号といえる。同大綱では、国民の真の豊かさを計る物差しとして、GNI(国民総所得)を重視することが提起されている。現首相は当時、小泉内閣の官房長官として同諮問会議の枢要メンバーであったが、同時に、「格差是正」を旗印とする、政府の「再チャレンジ推進会議」の議長を務めていた。
「第三の矢」として今般閣議決定された「日本再興戦略」が、直ぐに“再考”を求められるような事態に陥ることなく、また、太さも長さも多様な「千本の矢」の観もある、同戦略に掲げられた数多くの政策課題が、早急に順次具体的な実行過程に移されていくこととなれば、過去のものとは違う成長戦略の第一弾といえるかも知れない。
昨年12月の総選挙の結果、約1200日間続いた第一期民主党政権が終わり、第2次安倍内閣が発足してからの、政府与党によるメニュー作りのステップが節目を迎えたというところであろう。現副総理のこだわる四文字熟語にすれば「日本再考」の成長戦略となろうか。兎も角、メニューをどう具体化してゆくかがこれから問われることとなる。
ちなみに現首相の総理大臣在任日数(通算)は、先月末時点で大平正芳首相の在任期間を上回った。このまま続いて来年1月に、3度目となる施政方針演説を国会で行うこととなれば、岸信介首相をも超える長さとなる。
英国ロック・アーンで開催されたG8サミットでは、2009年6月以来4年ぶりとなる“骨太の方針”-「経済財政運営と改革の基本方針」が、わが国宿題の成果として提出された。他の参加国首脳が、日本の宿題解答と認識したかどうかは分らないが。骨太方針の能書きによれば、“停滞の20年”を踏まえて、「再生の10年」に向けた基本戦略を提示するものである、と謳われている。
停滞の20年の始まりなのか知らないが、1993年7月の総選挙により、自民党はいったん下野することになった。同年8月の「河野談話」は、第15代将軍に擬せられた宮沢内閣の退陣前夜、いわば駆け込みで出された内閣官房長官談話である。事務局である内閣外政審議室に当時勤務していた者としては、「曲がりなりにも20年間よくもったな」、というのが率直な感想である。
細川首相に始まる三代の非自民の総理大臣を内閣官房で見続ける職場に勤務したが、それぞれ、衆議院選挙制度改革・コメの関税化、製造物責任法の制定、消費税税率の5%への引き上げ・村山談話、という、各内閣の“業績”を、自民党は確実に自らの滋養にした(おそらく自民党の首相ではなし得なかったであろう成果)と思う。
昨年12月下旬までの3年3ヶ月強という期間は、朝鮮動乱よりは長く、太平洋戦争よりは短かった。民主党政権の三代の内閣についても、租税特別措置透明化法、原子力損害賠償支援機構法、そして、消費税10%方針・オスプレイの配備・大飯原発再稼動、という各内閣の“業績”を、自民党はありがたく受け継いでいるのではなかろうか。
専ら経済主体の「期待」に働きかけるという壮大な実験が始められて半年が経過した。一時のユーフォリア状態は冷めつつあり(「ええじゃないか」運動に擬する向きもあった。)、このところ、市場も不安定な状態が続いている。成長戦略も骨太方針も中身はこれからであり、今年後半は、政権にとってもそうであろうが、国民経済、国民生活にとっても、極めて大事な時期である。
(連合総研所長 薦田隆成)
2006年6月に経済財政諮問会議で了承された「経済成長戦略大綱」は、以後毎年のように作られ続けてきた「成長戦略」の第1号といえる。同大綱では、国民の真の豊かさを計る物差しとして、GNI(国民総所得)を重視することが提起されている。現首相は当時、小泉内閣の官房長官として同諮問会議の枢要メンバーであったが、同時に、「格差是正」を旗印とする、政府の「再チャレンジ推進会議」の議長を務めていた。
「第三の矢」として今般閣議決定された「日本再興戦略」が、直ぐに“再考”を求められるような事態に陥ることなく、また、太さも長さも多様な「千本の矢」の観もある、同戦略に掲げられた数多くの政策課題が、早急に順次具体的な実行過程に移されていくこととなれば、過去のものとは違う成長戦略の第一弾といえるかも知れない。
昨年12月の総選挙の結果、約1200日間続いた第一期民主党政権が終わり、第2次安倍内閣が発足してからの、政府与党によるメニュー作りのステップが節目を迎えたというところであろう。現副総理のこだわる四文字熟語にすれば「日本再考」の成長戦略となろうか。兎も角、メニューをどう具体化してゆくかがこれから問われることとなる。
ちなみに現首相の総理大臣在任日数(通算)は、先月末時点で大平正芳首相の在任期間を上回った。このまま続いて来年1月に、3度目となる施政方針演説を国会で行うこととなれば、岸信介首相をも超える長さとなる。
英国ロック・アーンで開催されたG8サミットでは、2009年6月以来4年ぶりとなる“骨太の方針”-「経済財政運営と改革の基本方針」が、わが国宿題の成果として提出された。他の参加国首脳が、日本の宿題解答と認識したかどうかは分らないが。骨太方針の能書きによれば、“停滞の20年”を踏まえて、「再生の10年」に向けた基本戦略を提示するものである、と謳われている。
停滞の20年の始まりなのか知らないが、1993年7月の総選挙により、自民党はいったん下野することになった。同年8月の「河野談話」は、第15代将軍に擬せられた宮沢内閣の退陣前夜、いわば駆け込みで出された内閣官房長官談話である。事務局である内閣外政審議室に当時勤務していた者としては、「曲がりなりにも20年間よくもったな」、というのが率直な感想である。
細川首相に始まる三代の非自民の総理大臣を内閣官房で見続ける職場に勤務したが、それぞれ、衆議院選挙制度改革・コメの関税化、製造物責任法の制定、消費税税率の5%への引き上げ・村山談話、という、各内閣の“業績”を、自民党は確実に自らの滋養にした(おそらく自民党の首相ではなし得なかったであろう成果)と思う。
昨年12月下旬までの3年3ヶ月強という期間は、朝鮮動乱よりは長く、太平洋戦争よりは短かった。民主党政権の三代の内閣についても、租税特別措置透明化法、原子力損害賠償支援機構法、そして、消費税10%方針・オスプレイの配備・大飯原発再稼動、という各内閣の“業績”を、自民党はありがたく受け継いでいるのではなかろうか。
専ら経済主体の「期待」に働きかけるという壮大な実験が始められて半年が経過した。一時のユーフォリア状態は冷めつつあり(「ええじゃないか」運動に擬する向きもあった。)、このところ、市場も不安定な状態が続いている。成長戦略も骨太方針も中身はこれからであり、今年後半は、政権にとってもそうであろうが、国民経済、国民生活にとっても、極めて大事な時期である。
働く女性の消費実態~独身・妻・母の生活状況や消費志向の違いは?
(ニッセイ基礎研究所 生活研究部門 研究員 久我尚子)
5――まとめ
本稿では、ライフコースの多様化がみられる20~30代の働く女性に注目し、調査データを用いて、独身・妻・母という3つのセグメント別に生活状況と消費志向をみてきた。
20~30代の働く女性の生活状況では、セグメント別に就業形態や収入をみたところ、独身より妻、妻より母で正規雇用者が減り、年収も夫の扶養控除枠内におさまる100万円未満の層が増えていた。男女雇用機会均等法が施行され(1986年)、職場での女性差別の全面撤廃という改正(1999年)もなされてから久しいが、現在でも、結婚や出産を機に働き方を変えている女性が多い。この背景には結婚後は男性が女性を養うという日本人の伝統的な価値観が根強く存在するほか、20~30代の女性では非正規雇用者が多く育児休業を取得し就労を継続することが難しい場合もあること、日本人女性の家事・育児負担が大きいことなどがあげられる。また、同居家族の状況から、独身者の大半は親元に同居していること、生命保険加入状況から、既婚者では家族形成とともに生命保険の加入を進めており、収入の多い女性では男性と同様に一家の大黒柱を担っている様子も垣間見えた。
消費対象では、結婚や出産に伴い、趣味やファッションなどの自分のための消費から、普段の食事や子どもの教育費など家族のための消費へと変化していた。一方で母も自分のファッションにお金をかけており、働く女性ならではの様子も窺えた。また、いずれも今後は貯蓄のほか、自分のための教養・勉強、リラクゼーションにもお金をかけたいという意向も読み取れた。
商品・サービスの購買行動では、①安全・環境配慮志向、②情報収集・比較検討志向、③こだわり志向、④ブランド志向、⑤衝動買い志向、⑥感覚志向という6つの要因の存在が確認できた。なお、衝動買い志向は働く女性特有のものであり、感覚志向は専業主婦を含む女性特有のものであった。また、独身は感覚志向やブランド志向が強く、妻は情報収集・比較検討志向や自分のライフスタイルにこだわる志向が強かった。母は安全・環境配慮志向など子どもを思う母らしい志向のほか、人の評判をはじめとした情報収集・比較検討志向や衝動買い志向も強かった。なお、母より妻の方が夫婦年収の高い層が多いにも関わらず、母で衝動買い志向が強い背景には、母は仕事と家事・育児の両立で日々時間がないことがあるだろう。
商品・サービス選択時の比較検討観点では、①メーカーの情報、②口コミ情報、③商品の付帯的情報、④商品の本質的情報、⑤商品の外観的情報の5つの要因の存在が確認でき、商品そのものよりメーカーや商品の付帯情報の影響が大きくあらわれていた。この中で、独身は商品の外観的情報、妻は口コミ情報や商品の付帯的情報、母はメーカーの情報や口コミ情報、商品の付帯的情報、商品の本質的情報を重視していた。
働く女性の生活状況や消費志向は未既婚や子の有無というライフスタイルの違いによって特徴があり、概ね、家族形成に伴い、働き方は家庭生活にあわせたものへ、消費内容は自分のためのものから家族のためのものへと変化していく。一方、働く女性では自分のファッションや教養・勉強、リラクゼーションに関心が高いという共通も特徴もある。また、専業主婦ではみられない衝動買い志向もあり、特に母で強くあらわれている。
働く女性マーケットを制するには、ファッションや教養、リラクゼーションなどの共通の関心ごとを効果的に取り入れるとともに、ライフスタイルによってターゲットを細分化し、独身ならブランド・イメージ、母なら安全・環境面の訴求など、それぞれの購買志向に適したアプローチをすることが肝要だ。また、現在のところ、働く女性とはいえ、親や夫の経済力に頼る働き方も多い。しかし、今後は経済的に自立した女性の増加が見込まれるが、そうなると、今回の分析で捉えられた働く女性特有の特徴がより色濃くあらわれるとともに、更に新しい志向も登場する可能性がある。
(ニッセイ基礎研究所 生活研究部門 研究員 久我尚子)
5――まとめ
本稿では、ライフコースの多様化がみられる20~30代の働く女性に注目し、調査データを用いて、独身・妻・母という3つのセグメント別に生活状況と消費志向をみてきた。
20~30代の働く女性の生活状況では、セグメント別に就業形態や収入をみたところ、独身より妻、妻より母で正規雇用者が減り、年収も夫の扶養控除枠内におさまる100万円未満の層が増えていた。男女雇用機会均等法が施行され(1986年)、職場での女性差別の全面撤廃という改正(1999年)もなされてから久しいが、現在でも、結婚や出産を機に働き方を変えている女性が多い。この背景には結婚後は男性が女性を養うという日本人の伝統的な価値観が根強く存在するほか、20~30代の女性では非正規雇用者が多く育児休業を取得し就労を継続することが難しい場合もあること、日本人女性の家事・育児負担が大きいことなどがあげられる。また、同居家族の状況から、独身者の大半は親元に同居していること、生命保険加入状況から、既婚者では家族形成とともに生命保険の加入を進めており、収入の多い女性では男性と同様に一家の大黒柱を担っている様子も垣間見えた。
消費対象では、結婚や出産に伴い、趣味やファッションなどの自分のための消費から、普段の食事や子どもの教育費など家族のための消費へと変化していた。一方で母も自分のファッションにお金をかけており、働く女性ならではの様子も窺えた。また、いずれも今後は貯蓄のほか、自分のための教養・勉強、リラクゼーションにもお金をかけたいという意向も読み取れた。
商品・サービスの購買行動では、①安全・環境配慮志向、②情報収集・比較検討志向、③こだわり志向、④ブランド志向、⑤衝動買い志向、⑥感覚志向という6つの要因の存在が確認できた。なお、衝動買い志向は働く女性特有のものであり、感覚志向は専業主婦を含む女性特有のものであった。また、独身は感覚志向やブランド志向が強く、妻は情報収集・比較検討志向や自分のライフスタイルにこだわる志向が強かった。母は安全・環境配慮志向など子どもを思う母らしい志向のほか、人の評判をはじめとした情報収集・比較検討志向や衝動買い志向も強かった。なお、母より妻の方が夫婦年収の高い層が多いにも関わらず、母で衝動買い志向が強い背景には、母は仕事と家事・育児の両立で日々時間がないことがあるだろう。
商品・サービス選択時の比較検討観点では、①メーカーの情報、②口コミ情報、③商品の付帯的情報、④商品の本質的情報、⑤商品の外観的情報の5つの要因の存在が確認でき、商品そのものよりメーカーや商品の付帯情報の影響が大きくあらわれていた。この中で、独身は商品の外観的情報、妻は口コミ情報や商品の付帯的情報、母はメーカーの情報や口コミ情報、商品の付帯的情報、商品の本質的情報を重視していた。
働く女性の生活状況や消費志向は未既婚や子の有無というライフスタイルの違いによって特徴があり、概ね、家族形成に伴い、働き方は家庭生活にあわせたものへ、消費内容は自分のためのものから家族のためのものへと変化していく。一方、働く女性では自分のファッションや教養・勉強、リラクゼーションに関心が高いという共通も特徴もある。また、専業主婦ではみられない衝動買い志向もあり、特に母で強くあらわれている。
働く女性マーケットを制するには、ファッションや教養、リラクゼーションなどの共通の関心ごとを効果的に取り入れるとともに、ライフスタイルによってターゲットを細分化し、独身ならブランド・イメージ、母なら安全・環境面の訴求など、それぞれの購買志向に適したアプローチをすることが肝要だ。また、現在のところ、働く女性とはいえ、親や夫の経済力に頼る働き方も多い。しかし、今後は経済的に自立した女性の増加が見込まれるが、そうなると、今回の分析で捉えられた働く女性特有の特徴がより色濃くあらわれるとともに、更に新しい志向も登場する可能性がある。