子ども・子育て支援新制度 2/2 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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子ども・子育て支援新制度―保障の強化と市町村の責任
(椋野 美智子 大分大学福祉科学研究センター教授)


3.保障の強化

(1)支給認定制度

 保障を強化するためには、まず要件の適否を客観的に認定する必要があるが、従来の制度のように、サービス利用の際に必要性の有無の認定と保育所での受け入れの決定を同時に行う仕組みだと、定員の範囲内、予算の範囲内に需要を抑える方向に力が働く。少なくとも予算を超える可能性があるのに潜在需要を掘り起こそうとするはずがない。

 新制度では、受け入れ先保育所の決定とは独立して、客観的基準に基づいて保育支給の必要性と量を認定する仕組みが設けられることとされた。従来の「保育に欠ける」要件は廃止され、親の就業状況などによって支給認定されるサービス量(時間)が長短異なる。支給認定されたら市町村や事業者と契約してサービスを受ける。また、但し書きも削除され、保育所保育の実施のほか、認定こども園や家庭的保育事業、居宅訪問型保育事業等による必要な保育の確保が義務付けられた。


(2)認可制度

 保障の強化は現実に事業者が参入し、十分な量のサービスが提供されなければ達成できない。このためには参入促進のための制度改善が必要である。

 従来の制度では、費用保障は認可保育所に限られており、認可には広い裁量が認められているため、基準を満たしていても、財政負担の増大や将来の定員割れのおそれなどを理由に認可しない自治体もあり、事業者の参入の障壁となっていた。

 新制度では、認可の裁量の幅が狭められた。具体的には、施設と設置者についてサービスの質を担保する客観的な基準・要件を充たすときは、区域の保育施設の定員がすでに過剰である場合を除き、認可するものとされた。認定こども園の認可・認定に当たっても同様である。

 また、従来、保育所と家庭的保育に限られていた費用保障の対象が、小規模保育、事業所内保育、居宅訪問型保育にも拡大され、これらは、家庭的保育とともに市町村の認可制になった。認可の基準が明確な点は保育所と同様である。地域型保育は、施設型にくらべ、柔軟に増やすことができ、保育所待機児童等に対する保育所の代替サービスとしての機能を果たすこともでき、保障の実質的強化が図られる。また、児童人口減少地域における保育サービスの維持にもつながる。

 費用保障の対象となる認可の基準が明確化されることにより、新規参入の増加だけでなく、既存認可外保育施設やその他のサービスが認可を受け、質の向上を図ることが経営面から促される。また、費用が保障され質が確保されたサービスの量が拡大することにより、利用者が質の低いサービスを利用しなくてすむ環境が整備できる。さらに、現在、サービス量が不足しているため、最低基準を満たした上で、本来の定員を超えて子どもがいる認可保育所もある。量が充分確保されることにより定員超過が解消されれば認可保育所の質も向上し、量の確保はこの面でも質の向上につながる。


(3)施設整備費の公費保障

 従来の施設整備補助方式では、事業者、自治体、国の財源が全て揃わなければ施設整備ができない。補助が得られるかどうかの見通しが難しいことが事業計画を困難にして保育所整備の障壁になっていた。また、施設整備費の公的な個別補助は憲法上の制約から企業は対象となっておらず、事業者間の競争条件の公平、イコールフッティングの観点から強い批判があった。それは社会福祉法人立と企業立保育所の不公平にとどまらず、最終的には利用者の間の支援の不公平を意味する。

 新制度では、施設整備費の個別補助が廃止され、公費保障される保育費用に運営費のほか施設整備費と減価償却費の一定割合に相当する額を上乗せすることとなった。この方法であれば、事業者は借入して施設を整備して償還する、計画的に積み立てて整備する、また、整備せずに施設を賃借する、というふうに実情に応じてサービス供給を増加させることができる。保育需要は、利用する子どもの年齢が限られており、徒歩圏域が望ましいとされて利用圏域が小さいことから、年によって大きく増減する。新しい住宅団地ができて需要が爆発しても10年もすれば定員割れが予想される。これが保育所整備の進まない一因でもある。賃借による保育所経営によって需要に応じた迅速かつきめ細かな供給調整ができるようになる。

 さらに新制度では、当面、緊急に対応する必要がある、増加する保育需要に対する施設の新築や増改築、耐震化などに対して、市町村が計画的に対応できるよう、児童福祉法に基づく交付金による別途の支援も盛り込まれた。これらの仕組みは、企業に対しても同じ扱いができるので、事業者間、利用者間の不公平も解消できることとなる。

 
(4)幼保連携型認定こども園

 保育と幼児教育の一元化は長年引き続く大きな課題であり2006年に認定こども園制度が創設された。しかし、認定こども園制度は二重行政が解消されていないこと、財政支援が不十分であること等から普及が進んでいない。新制度では幼保連携型認定こども園について、施設型給付の創設により財政支援の仕組みを共通化するとともに、認可・指導監督を一本化し、学校及び児童福祉施設として法的に位置づけた。ただし、幼稚園や保育所から幼保連携型認定こども園への移行は義務付けられておらず、幼稚園、保育所、幼稚園型認定こども園、保育所型認定こども園、地方裁量型認定こども園など、多様な施設類型が存続する。しかし、給付システムは一元化され、多様な施設類型の利用者の間での公平は確保される。

 重要なことは、共働きか片働きかという親の働き方にかかわらず、3歳以上の子どもすべてに同質の就学前教育が保障されることである。ただし、3歳以上児の保育所も残るので、幼保連携型認定こども園への誘導策とともに、保育所においても実質的に同等の教育が受けられるよう保育士の養成課程や保育所保育指針を新たに定める幼保連携型認定こども園保育要領と整合性をとることが求められよう。

 子どもの貧困への対応が社会的課題となっているが、低所得子育て家庭は、ただ単に低所得という問題だけを抱えているのではなく、病気や障害や社会的支援ネットワークの欠如など様々な問題を抱えた結果として低所得に陥っている場合が多い。幼保連携型認定こども園において保育、幼児教育、問題解決のための相談援助サービスが統合して提供される意義は大きい。


4.市町村責任の強化

 新制度では、保障強化のため、上述したようなニーズ潜在化の要因や参入障壁の除去にとどまらず、保障の実施責任を負う市町村の責任が強化された。

 また、その責任を具体的に果たさせる仕組みとして、すべての市町村に子ども・子育て支援事業計画の策定が義務付けられた。計画では、市町村内を区域に分けて、その区域ごとの教育・保育に関する必要利用定員総数、保育所・幼稚園等の施設や地域型保育事業所による提供体制の確保の内容と実施時期が定められる。また、個人給付だけでなく、市町村の裁量が強く地域格差が生じやすい、放課後児童クラブや病児保育事業など子ども・子育て支援事業についても、同様に量の見込みと提供体制の確保の内容、実施時期が定められる。さらに、幼保連携型認定こども園への誘導など、教育・保育の一体的提供、その推進体制確保の内容についても定められる。

 計画は、子どもの数や保護者の利用意向を勘案するほか、客観的な基準に基づいて保育の必要性の認定を行うことで、子どもや保護者の置かれている環境等の事情を正確に把握して作成されることとされており、当然に潜在需要が勘案されることとなる。また、策定に当たっては市町村版子ども・子育て会議など、当事者の意見が聴かれることとなっている。しかし、市町村の合議体はややもすれば認可保育所など既存のサービス提供者側で構成される。計画が実態を反映したものとなるためには公募等により幅広い当事者の参加を求めることが必要である。また、計画の策定のみならず、PDCAサイクル全体に当事者が関わることも重要である。

 さらに、市町村の地域子ども・子育て支援事業として利用者支援事業が定められた。身近な場所で子ども・子育て支援に関する相談に応じ、必要な情報提供及び助言を行い、関係機関との連絡調整を行う事業である。市町村には、家庭における養育支援を行う幼保連携型認定こども園や地域子育て支援拠点と連携して、地域のすべての子ども・子育て家庭のニーズに目配りして支援を調整し、新制度による子ども・子育て支援を地域の実情に合った形で実質化して保障する役割も求められる。

 関連して、現行制度では利用者の申込みが前提となっている保育所の利用について虐待予防の場合ややむを得ない事由により保育を利用できない場合などに市町村が措置を行う仕組みが復活することにも言及しておきたい。


5.おわりに

 新制度は早ければ2015年4月にも本格施行される。新年度には準備のためにニーズ調査や地方版子ども・子育て会議の設置に取りかからなければならないというのに、残念ながら市町村の本気度は介護保険創設時に到底及ばない。

 市町村を本気にさせるのは当事者、市民の力である。これまで高齢者施策に比べ子育て施策が遅れてきたのは、子どもは選挙権をもたず、子育て世代は金も力もなく声が政治家に届きにくかったからである。しかし、従来型の政治家の後援会活動や行政に対する陳情、要求は不得手でも、ネットワークを作り、自治体と協働関係を結ぶ新たな力は持ち得るのではなかろうか。遅ればせながらやっと子育て、子育て支援の当事者として立ち現われてきた父親たちの力も有用であろう。市町村が十全にその責任を果たし、新制度がその意義を発揮できるかどうかはまさに市民の力にかかっている。