子ども・子育て支援の歩みと新制度の意義や課題 1/2 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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子ども・子育て支援の歩みと新制度の意義や課題
(吉田正幸 保育システム研究所代表)


〔はじめに〕

 子ども・子育て関連3法が今年4月から施行され、順調にいけば2015年度から新制度が実施されることになった。新制度が導入されるということは、これまでの少子化対策や子育て支援施策が必ずしも期待された役割を果たせなかったということでもある。

 そこで、本稿では、1994年に策定されたエンゼルプラン以降の少子化対策、子育て支援施策の歴史を振り返りながら、今日に至るまでの現状と課題を明らかにするとともに、これから始まるであろう新制度の意義や課題を改めて考えてみたい。


〔子育て支援施策の歩みと課題〕

1.前期の施策(2001年以前)

 1989年に合計特殊出生率が1.57と急落し、統計史上最低を記録したことが翌年公表され、いわゆる「1.57ショック」と呼ばれた。それが一時的な傾向にとどまらず、中長期化することが次第に明らかになってきたことから、1994年に文部・厚生・労働・建設の4大臣合意により「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」、いわゆるエンゼルプランが策定された。これが本格的な少子化対策の始まりと言っていい。

 エンゼルプランは、今後おおむね10年間に取り組むべき基本的方向と重点施策を定め、その総合的・計画的な推進に向けて国・自治体・企業・地域社会など社会全体で取り組もうとした最初の少子化対策であった。このエンゼルプランの具体策として、政府は1995年、厚生・大蔵・自治3大臣の合意により「緊急保育対策等5か年事業」を策定し、保育サービスの拡充を中心に、具体的な数値目標を定めて取り組んだ。

 その後、エンゼルプランと緊急保育対策等5か年事業を組み合わせた形で、1999年に大蔵・文部・厚生・労働・建設・自治の6大臣合意により「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について」、いわゆる新エンゼルプランが策定された。さらに2001年には、「仕事と子育ての両立支援策の方針について」を閣議決定し、その中で保育所入所児童の受け入れ拡大に向け「待機児童ゼロ作戦」が打ち出された。

 こうした一連の施策は、複数の関係省庁が連携し、社会全体で取り組むことを目指したという点で画期的ではあったが、基本的に仕事と子育ての両立支援が中心となっていた。なぜならば、少子化の大きな要因として仕事と子育ての両立が困難で二者択一を迫られるという「二者択一構造」に集約されたからである。

 総じて言えば、エンゼルプランは、関係省庁の少子化対策関連施策の寄せ集めの域を出なかった。緊急保育対策等5か年事業は、大蔵・自治という国・地方の財政当局を巻き込んだことに大きな意味があったが、結局は保育サービスに特化した支援策にとどまった。新エンゼルプランと待機児童ゼロ作戦は、認可保育所の設置主体制限の撤廃や定員規模要件の引き下げ、資産要件の緩和など、規制緩和を取り入れた保育サービスの拡充が中心施策であった。


2.後期の施策(2002年以降)

 その後も少子化の流れに歯止めがかからないことから、政府はこれまでの少子化対策を点検し直し、もう一段踏み込んだ対策として「少子化対策プラスワン」を2002年にとりまとめた。そこでは、従来の「子育てと仕事の両立支援」に加えて、「男性を含めた働き方の見直し」、「地域における子育て支援」、「社会保障における次世代支援」、「子どもの社会性の向上や自立の促進」という4つの柱に沿った総合的な対策を目指した。

 これを踏まえて、2003年3月には少子化対策推進関係閣僚会議で「次世代育成支援に関する当面の取組方針」が決定され、同年7月に次世代育成支援対策推進法が成立した。その大きな特徴は、地方自治体と企業(事業主)に2005年度から10年間にわたる行動計画の策定を求めたことにある。また、同法と同じ時期に少子化社会対策基本法も制定され、翌年から少子化社会対策大綱が閣議決定された。

 大綱に盛り込まれた施策の推進を図るため、2004年には「少子化社会対策大綱に基づく具体的実施計画」、いわゆる子ども・子育て応援プランが策定され、これまでの保育サービス中心から、働き方の見直しや、若者の自立とたくましい子どもの育ち、子育ての新たな支え合いと連帯など、本来の総合的な施策が示された。

 さらに2007年には、少子化社会対策会議の決定により、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議が設置され、そこで「仕事と生活の調和の実現」と「包括的な次世代育成支援の枠組みの構築」を車の両輪とする重点戦略をとりまとめた。

 これを受けて、厚生労働省は同年、社会保障審議会に少子化対策特別部会を設置し、次世代育成支援のための具体的な制度設計の検討に乗り出した。同部会では、保育や子育て支援の基盤整備に向けて議論を重ね、子育て支援のための包括的・一元的な制度の構築や社会全体による費用負担(財源確保)について考えをとりまとめた。これが、その後の子ども・子育て新システムの議論に引き継がれ、子ども・子育て関連3法の成立につながっていく。

 その後も、2008年には、新待機児童ゼロ作戦を展開。2010年には、新しい少子化社会対策大綱として「子ども・子育てビジョン」を定め、その中で①子どもが主人公(チルドレン・ファースト)、②「少子化対策」から「子ども・子育て支援」へ、③生活と仕事と子育ての調和、という考えが示された。

 後期の特徴としては、仕事と子育ての両立支援を中心に、依然として保育サービスの拡充に力点が置かれていたとはいえ、ようやく働き方の見直しや仕事と生活の調和、包括的な次世代育成支援といった新たな方向が示されることになった。この間、2007年には「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」やそのための行動指針が策定され、2010年に政労使トップによる新たな合意が結ばれた。

 しかしながら、少子化の進展には歯止めがかからず、2001年の合計特殊出生率1.33、出生数117万人に対して、10年後の2011年は合計特殊出生率1.39、出生数105万人にとどまり、少子化対策としては十分な結果を残せていない。