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雇用と所得の増加を伴う、持続的な成長へ
(連合総研 専務理事 久保田泰雄)


 年末の総選挙から約2ヶ月。政策的にはまったく何も実施されていないのに期待値や思惑から為替や株価は急変し、毎日の新聞紙面を「アベノミクス」の文字が躍るのを不思議な感じで眺めてきたこの間であった。

 デフレからの脱却は、バブル崩壊後20年来の日本の課題であり、以前の自公政権時代からの懸案であった。その克服のために幾度となく成長戦略や経済構造改革ビジョンが作られ、多額の公共投資や減税などカンフル注射を打ち続けたにもかかわらず、ことごとく失敗し、1000兆円、GDPの200%を超える巨額の債務を積み増した結果となっていたのである。2010年6月の菅内閣の時には、「新成長戦略」が。そして欧州経済危機、東日本大震災に原発事故という未曾有の事態に遭遇した後の2012年7月には野田内閣のもとで「日本再生戦略」が策定されたという経過をたどっている。

 たった半年前のことであり、その中味は、安倍内閣が打ち出そうとしている経済再生戦略とそれほど差があるとは思えない。グリーン(エネルギー・環境)、ライフ(健康)、農林漁業(6次産業化)、中小企業、の4大柱を重点に11の成長戦略と38の重点施策からなっており、「デフレ脱却の道筋」については、次のような記述がある。

 「我が国経済にとって当面の最大の課題であるデフレ脱却に向け、政府は日本銀行と一体となって取り組む。さらに、日本再生に向けた取り組みを進め、社会保障・税一体改革を推進することなどにより、所得の増加を伴う国民全体にとって望ましい経済成長と財政健全化をともに実現する。」

 そして、日銀とのコラボについては、「日本銀行は、当面、消費者物価上昇率1%を目指して、強力に金融緩和を推進することとしている。政府は、日本銀行に対して、デフレ脱却が確実となるまで強力な金融緩和を継続するよう期待する。」と書かれている。

 安倍内閣の具体的な経済政策がどう展開されていくのか。今後の日銀金融政策決定や、通常国会での補正予算、13年度予算論議を注視したいと思うが…。

 デフレ脱却への挑戦は、大いにやるべしである。そして長年こびり付いてきたデフレ体質やマインドを転換するためには、インパクトのある強いメッセージを打ち出す必要があることも否定しない。しかし、マジックのような「打ち出の小槌」はありえないと思う。

 「一の矢」のインフレターゲッティングをはじめ次元の違う金融緩和策が、果たして本当に有効か。劇薬の副作用への対処法は。出口戦略の問題。など叡智を集めた真剣な議論が必要だ。「二の矢」の思い切った財政支出についても、「国土強靭化」の名のもとに、またぞろ先祖がえりのような公共事業の復活につながるのではないかとの懸念が出されている。そして最も重要なポイントは、「三の矢」の実体経済を再生しホンモノの成長軌道に乗せていくことであることは論を待たない。幾度となく打ち出された成長戦略を、今度こそ具体化し、実行し、目に見える結果につなげていけるかどうかが問われている。

 その際、間違っても「物価は上がったけど、雇用や所得は置いてけぼり」などということがあってはならない。真面目に働く者や、年金生活者にとって、スタグフレーション(不況下のインフレ)は最悪の結果となるのだ。

 縮小均衡からの発想を転換し、攻めの経営と一人ひとりの働く意欲を高め、新しい付加価値を生み出す方向で、産業・企業の国際競争力を強化し、雇用と所得の増加を伴う本物の日本再生につなげていけるかどうか、きわめて重要な「国会」と「春闘」がはじまる。